西と東を結び、過去と未来を結ぶ。
「sola」吉武広樹シェフ、凱旋ディナー
2018.02.08
FEATURE / MOVEMENT
「Restaurant Sola Paris」のシェフとして、パリのガストロノミー界に話題を巻き起こしながら2016年に閉店し、現在充電中の吉武広樹シェフが、12月23~25日、東京・青山「INTERSECT BY LEXUS - TOKYO」においてスペシャルディナーを披露した。LEXUSの世界観と出会い、その感性にインスピレーションを受けて、特別につくり上げたこの日にしか味わえないオリジナルメニューである。
刻々と変貌を遂げていくガストロノミー界のこれまでとこれからを結ぶポジションにいる吉武シェフ。
ディナーはそのポジションの重要さを物語る内容だった。
ガストロノミー界の結び目。
パリにおける日本人シェフの活躍は広く知られるところだ。
いまやパリのガストロノミー界の一角を担っていることは間違いない。
その先陣を切った一人が、「sola」の吉武広樹シェフ。2010年に「Restaurant Sola Paris」をオープンし、1年3カ月後にはミシュラン一ツ星を獲得した。また、2014年には「RED U-35」に参加してグランプリを獲得、JALファースト&ビジネスクラスの機内食の監修など、日本をフィールドとする活躍も幅広い。昨夏ニューヨークにオープンした「MIFUNE New York」の料理プロデュースも手掛けている。
吉武シェフは、日本でフランス料理の基礎を学んだ後、26歳から1年間、世界40カ国を渡り歩いた。パリに「sola」を開く前に、シンガポールで自らの名前を冠する店を任された経験も持つ。
日本人だからといって舞台が日本である必要はない。むしろ、日本人の特質が海外で活躍する可能性を広げる――その事実を身をもって証明してきた吉武シェフが、昨年、パリの店を閉めた。10年の海外経験を糧として、今後は拠点を日本に移していく。
12月23~25日、東京・青山「INTERSECT BY LEXUS - TOKYO」において、吉武シェフがスペシャルディナーを披露した。それは、吉武シェフの現在――彼が蓄えてきたもの――を示すと同時に、なぜ、パリの人々は日本人シェフに魅了されるのかを示す場となったように思う。
「多国籍な環境で仕事をしてきて、日本人の長所や短所がいろいろ見えた。集中力を切らさない持続力、ぶれないクオリティとおいしさ。一方、海外の料理人たちの瞬発力と爆発力には日本人に真似できないパワーがある」と吉武シェフ。シェフには自分の特質が見えている。
海外の人々が鮨やラーメンに夢中になって、日本に熱いまなざしを送るのは、鮨という食べものを生み出した日本、ラーメンというスタイルに昇華させた日本の文化へのリスペクトと言っていい。
だが、吉武シェフら、パリで活躍する日本人シェフたちは、フランス料理という彼岸の文化領域、グローバルな方法論の中で凌ぎを削る。世界共通のフィールドに立ちながら、個人の技量によって、彼らにしかできない表現を繰り出して評価を受ける。その中に日本のエッセンスが混じっていたり、日本人でなければできない表現があるから、フランス人は夢中になる。
たぶん、これまでの美術やファッション、音楽の世界で起きてきたことと同じだろう。
フランス料理の伝統的な文脈の上に立った食材のセレクトとコースの流れ、食材と調理法の取り合わせなど、吉武シェフの勝負の仕方は王道である。フォワグラのテリーヌ、ホタテのポワレ、舌平目のムニエル、鴨はローストとパイ包みに。彼がパリで現地の料理人と互角に闘ってきたことが一目瞭然。それらに何を足し引きし、どんなニュアンスで仕上げ、どう見せるのかの個性が際立っている。
毛ガニに鰹と昆布のジュレと柚子を合わせて白醤油を隠し味に。フォワグラには西京味噌を。ボタンエビにキャビア、ホタテにバターナッツ・スカッシュ、舌平目に下仁田ネギ、と素材使いは縦横無尽。鮮度、旨味、酸味、苦味の組み合わせ方、焦げ味、軽み、濃密さ、香りの効かせ方、食材による味のコントロールに長けている。
かつて、ガストロノミー界の重心はフランスにあった。21世紀に入って、スペイン、北欧、南米と重心移動がめまぐるしい。つい先日、ポール・ボキューズが逝去したことは、どこか象徴的だ。それと共に、料理は国ではなく個に依拠する時代になった。
吉武シェフはちょうどそのつなぎ目に位置する。西と東を結び、これまでとこれからを結ぶ。新しさの奥にフランス料理の伝統が息づいて、信頼に足るクリエイションであると料理自身が語りかけてくる。
世界の先端のワイン情報と現物はここにある。
今回、フリーのワインテイスター&ソムリエとして活動の場を広げる大越基裕さんがワインを受け持った。吉武シェフの表現の幅の広い料理に対応して、自ずと多彩なラインナップになっていく。
大越さんは日本を拠点とするけれど、フィールドは完全にグローバルである。というのも、ワイン界のカウンターカルチャーと言うべき自然派の世界の最先端を日本が担っている部分があるからだ。それは、才能を逸早く見出して買い支えるという点において。ひとえに優れたインポーターの存在ゆえだが、彼らのワインを手渡す先として厚い信頼を受けるのが大越さんなのである。大越さんの手元には常に世界の先端のワイン情報と現物がある。
吉武シェフも、大越さんの手中にある世界の広がりに賛辞を惜しまない。「イベントなどで共に仕事をする機会は何度かありましたが、シェフ対ソムリエとして1対1で向き合うのは初めて。大越さんの知識量やアプローチ、料理とワインのリンクのさせ方に驚かされた」。
ボタンエビには「仙禽 しぼりたて活性にごり酒 雪だるま」(栃木)を、スズキのカルパッチョに北海道余市のワイナリー農楽蔵が地元のナイアガラで仕込んだ「ラロ・フリッツァンテ・アロマティコ 2015」を。ホタテのポワレには卵を使っているため(大越さんいわく、卵に合わせるワインはむずかしいらしい)、ジョージアの最古品種を甕で仕込んだオレンジワイン「シャラウリ ルカツィテリ 2013」という変化球をぶつけた。舌平目のムニエルに南オーストラリアの自然派御三家トム・ショブルックによる「ディディ・ジャッロ」を合わせるあたりは今という時代ならでは。そして、高原で栽培されたフラッパートとネロ・ダーボラで造られるシチリア初のDOCG「チェラスオーロ・ディ・ビットリア」を鴨に。デザートはペドロ・ヒメネスに特化した小規模生産者が手摘み・天日干したブドウで造るシェリー「ボデガス ヒメネス・スピノラ」で。
古いものも新しいものも、重厚さも軽快さも、洋も和も。混在する中から鋭敏で繊細な審美眼をもってこれと思うものをすくい上げ、立ち上げて、表現していくのが日本人の特質。日本人が海外で受ける評価には然るべき裏付けがある。
海外からの視点を持ち帰ることになる吉武シェフは自らの役割をしかと認識する。「海外に出た者が日本に伝えるべきこと、日本でやらなければならないことなど、やりたいことだらけ。より説得力を持って人々に伝えられるよう、がむしゃらに自分と向き合っていこうと思っています」。
◎ INTERSECT BY LEXUS - TOKYO
東京都港区南青山4-21-26
☎ 03-6447-1540
・1F CAFÉ SHOP & GARAGE 9:00-23:00
・2F BISTRO LOUNGE 11:00-23:00
(不定休)
東京メトロ銀座線、千代田線、半蔵門線
表参道駅より徒歩3分
www.intersect-by-lexus.com/tokyo