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JOURNAL / JAPAN

街中に初のチーズ工房
静岡・浜松「チーズ工房 HAKU」

地方のチーズ工房

2025.07.03

text by Mie Tsuyukubo / photographs by Koshi Asano

連載:地方のチーズ工房

日本の柔らかい水と草で育った牛のミルクを使い、土地の菌で醸す国産チーズ。かつての豆腐屋さんのように、作りたてのチーズを地元の人に提供する、“おらが街のチーズ工房”を紹介します。

特産品を取り入れ
地元客が身近に感じるチーズを

「搾りたての牛乳を使った、作りたてのチーズが近所で買えたら素敵ですよね」と語るのは「チーズ工房HAKU」代表の池田さん。この理想を具現化するため、大きな病院や住宅が密集する街中に、あえて工房を構えた。

きっかけは旅先で出会った国産チーズ。工房のオーナーと話が弾んで興味を抱き、自分の工房を持つと決意するまで時間はかからなかったという。早速、浜松市の保健所に相談をしたところ、前例がないと担当者は首を捻るばかり。なんとか許可は下りたものの、今度は生乳探しで難航を極めた。鮮度にこだわり浜松市内の酪農家に掛け合うも、小売はできないと門前払い。唯一、東区の「村井牧場」から賛同を得て、2018年5月に晴れて工房をオープンした。


ひと組の客に15~20分かけて丁寧に試食をすすめる店長の鈴木さん。製造にも携わっているため、接客にも熱が入る。
自家製のミカンパウダーを入れた「三ヶ日みかんゴーダ」(手前)。香味の良いピールが必要なため、無農薬栽培の農家探しに奔走したという。  

チーズ作りは週2回のペースで行う。前日の夜に生乳を買い受け、翌朝5時から作業をスタート。65℃で約30分低温殺菌した生乳を、モッツァレッラやゴーダなどに加工する。

HAKUを語る上で外せないのが、チーズに混ぜる地元の特産物。三ケ日 みかん、浜名湖の青海苔、篠原産の白タマネギ、遠州ニンニク、三方原のたくあん、静岡茶などで香味と彩りを添える。

「地元の食材を使うとお客さまに喜ばれるんです。乾燥したり細かくしたり、試行錯誤を重ねました」と池田さん。「三ケ日 みかんゴーダ」は、甘さの中にも清涼感のある香りが弾け、チーズとみかんの酸味が程よく調和する。青海苔やタマネギが入ったグリルチーズも焼くと香りが際立ち、酒のつまみにぴったりだ。

まだチーズに馴染みのない地元の人々のため、販売商品はすべて試食可能に。低温殺菌乳からフルコースで味見する客も多く、店内はいつもミルクの甘い香りと会話に満たされている。

地元産のイチゴは、乾燥させてイチゴパウダーに。リコッタチーズに混ぜてシチリアの冷たいデザート「カッサータ」にする予定。  
レモンとブラックペッパーをゴーダ用のカードにまぶす。レモンは、常連客の庭先に実った無農薬のもの。  
1回のチーズ作りに使う生乳は約180L。ミニマムな生産量ゆえ大掛かりな道具は少なく、家庭でも馴染みのあるキッチン用品を活用する。  

壁面を飾るHAKUのラインナップ。チーズの紹介から作り手の思い、食べ方の提案など、初心者にもわかりやすく詳細がしたためられている。

地方を元気にする、工房の魅力
「気軽に立ち寄れる都市型立地」
「搾乳から24時間以内の生乳を使用」
「遠州が誇る特産品とチーズの融合」

◎チーズ工房 HAKU
静岡県浜松市住吉1-24-10
☎053-477-6316
11:00~18:00 火曜休
Instagram:@cheese_haku

◎名古屋チーズ工房HAKU
名古屋市中川区高畑1-170
金曜、土曜、日曜営業
11:00~18:00

※2023年3月、チーズ工房HAKUは愛知県名古屋市に「名古屋チーズ工房HAKU」をオープン。名古屋市内の牧場の新鮮な生乳で地域のチーズを作っています。(2025年7月追記)

(雑誌『料理通信』2020年6月号掲載)

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