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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】糸は引かない。中国生まれ、日本育ちの発酵豆「浜納豆」

静岡・浜松「ヤマヤ醤油」

2022.09.29

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、古来、静岡・浜松で作られ、徳川家康も好んで食べたという「浜納豆」の生産現場を案内します。

蒸した大豆に味噌用の黄麹カビを付け、40℃の麹室で 48時間かけ豆麹を作る。

重石を載せて熟成。「重石をまっすぐ載せることが意外と難しい。バランスが崩れると、豆に均一に圧がかからず、漬かり具合も変わってしまいます」


ゆっくり塩水を吸収した豆は、黒く軟らかくなり、芳しい香りを漂わせる。

気温や天気を見ながら天日干し。


塩水を継ぎ足し、15カ月熟成して生まれる旨味

“納豆”と言っても、粘って糸引くアレではない。豆麹を塩漬けした発酵食品で、元々は遣唐使によって中国から伝えられ、寺の納所(台所)で作られたことから、「寺納豆」または「唐納豆」と呼ばれていた。黒豆ではなく大豆を使うこと以外、中華食材の豆豉によく似ている。大徳寺など京都の寺で作られていたのが浜名湖畔に伝わり「浜納豆」と呼ばれるようになったという。保存がきき、栄養価も高いことから、兵糧としても重宝され、徳川家康にも献上された歴史を持つ。

江戸末期より続く「ヤマヤ醤油」は、今では数少ない浜納豆の作り手の一つだ。使うのは、北海道産の大粒黒目大豆。「熟成が進む間に豆が縮むので、大粒のものを。黒目大豆は硬いので、潰れないのが良いですね」と、社長の金原利征(きんぱらとしゆき)さん。これに麹菌を付け、塩水と混ぜ合わせて容器に仕込んだら、約100キロの重石を載せて熟成に入る。豆が吸った分の塩水を継ぎ足しながら、寝かせること約15カ月。八丁味噌のような色と香りになった豆を丁寧にほぐし、1日天日干しをする。せん切りにしたショウガと混ぜて馴染ませれば完成だ。

「珍味としてだけでなく、コク出しの調味料にも」と、使い方の提案に力を入れる。粒状なので、味噌や醤油と違い、料理に溶け込むことなく旨味と香りのアクセントをつけられる。アイデア次第で可能性は無限だ。

「浜納豆」480 円/86g は、チーズやワインとも相性が良い。味のしみたせん切りショウガが名脇役。料理に使いやすい「きざみ浜納豆」298 円/48g も人気(価格はすべて税込み)。



◎ヤマヤ醤油
静岡県浜松市中区助信町 15-1
☎053-461-0808
https://ymy.co.jp/

(雑誌『料理通信』2018年4月号掲載)

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