【ようこそ発酵蔵へ】醤油のルーツ?古の調味料「ひしお」
千葉・銚子「銚子山十」
2023.02.27
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text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、万葉の昔からある発酵調味料、“食べる醤油”と呼ばれる「醤(ひしお)」造りを案内します。
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原料の大麦と大豆。大豆は蒸す前に炒ることで熟成後も形が残る。
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味噌用の種麹を用い、麹蓋で製麹。触ると菌が舞うくらい4日かけてしっかり生やす。
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重石をのせて常温で2年熟成。
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熟成中。まだ豆や麦の粒がしっかり残っている。
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熟成した醤(写真)に水飴等を加えて完成。濃厚な旨味だが角がなく、料理に使いやすい。
醤油職人の賄いがはじまり
701年制定の大宝律令には、塩、酢、味噌と共に、すでに調味料としての記載があったという「醤(ひしお)」。炒った大豆と麦を蒸し、麹にしたものを塩水と共に仕込み、重石をして寝かせる。製法は醤油に似ているが、室町時代に初めて書物に登場するそれより歴史はずっと古い。
「山十(やまじゅう)」の創業は1630年、銚子ではなく紀州広村(現和歌山県広川町)という漁師町だった。当時、広村からは多くの人が黒潮にのってイワシを追い、銚子に進出。隣村の湯浅から仕入れた醤油造りのノウハウを生かし、銚子で醤油業を興していた。
創業者もその一人で、1700年頃には銚子に拠点を移す。江戸の人々の嗜好に合わせ、濃口醤油の製法が生み出されると、銚子はいよいよ一大産地として栄え、利根川沿いに多くの醤油蔵が立ち並んだ。醤油造りの傍ら、蔵にある原料を使い、住み込みの職人たちの賄いとして造られたのが醤だった。
醤油の原料として一般的な小麦ではなく大麦が使われるのは、「濃口醤油が開発される前の名残では」と社長の室井房治さん。2年寝かせると、固形分と上澄みに分かれ、芳しい香りが漂ってくる。味噌よりキレがあり、醤油よりマイルド。中国にルーツを持ちながらも、日本独自の菌と技術で生み出され、食文化を紡いできた醤。その歴史に思いをはせつつ、可能性に満ちた発酵調味料として味わってみてほしい。
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(手前)「ひ志お」は水飴とオリゴ糖で調味。使い切り6袋入り950円/250g。(奥)「源醤」1100円/210gは、醤の上澄み液を自然落下で漉したもの。醤油のルーツとも言われる。
◎銚子山十
千葉県銚子市中央町18-3
☎0479-22-0403
https://www.hishio.co.jp/
(雑誌『料理通信』2018年9月号掲載)
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