HOME 〉

JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】大豆の旨味を味わう醤油「たまり醤油」

三重・四日市「伊勢藏」

2024.04.22

大豆の旨味を味わう醤油「たまり醤油」 三重・四日市「伊勢藏」

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。愛知や三重など中部地方で作られる「たまり醤油」の製造元「伊勢藏」へ。1年半じっくり手間をかけることで生まれる濃厚な旨味は格別です。

底部に溜まった液体をポンプで汲み上げ、循環させてもろみに酸素を送り込む。

もろみの上に重石をのせる。夏場は発酵が盛んでもろみが膨らむため、石の量を増やす。

1年半熟成させたもろみを布に流して畳み、それをいくつも重ねて油圧機で絞る。その後、澱引き、ブレンド、加熱処理といった工程を経て商品に。

上が濃口で下がたまり醤油。


大豆の旨味を味わう醤油

味噌が熟成する間に滲み出る上澄みを汲み出したのが始まりと言われるたまり醤油。主に愛知や三重など中部地方で造られており、こっくりした色ととろみ、濃厚な旨味が特徴だ。「伊勢藏」がある四日市でも各家庭に1本常備が当たり前。「他の地方に嫁いだ娘さんに送ってあげるという方もいらっしゃいます」と5代目の式井一博さんは嬉しそうに話す。

旨味の秘密は、タンパク質が豊富な大豆を主原料とするためだ。「大豆9割以上に対し、小麦が1割弱。麹菌もタンパク質の分解を得意とするタイプを使い、大豆の旨味を引き出します」。また、独特のとろみと濃い色は、濃口醤油に比べ3~4割少ない塩水で仕込むことで生まれる。

まず、マッシュして小さな団子状にした蒸し大豆に、炒って砕いた小麦の粉末をまぶし3日かけて麹を作る。その麹に対し、加える塩水は5~10割。ゆるい味噌のようなもろみは撹拌が難しいため、上に石をのせ、固形分から滲み出る水分だけを循環させて発酵を促す。木桶の真ん中に突き出たパイプから、底部の液体が吹き上がる。「汲みかけ」はたまり造りならではの光景だ。

季節によって石の量を変えたり、汲みかけのタイミングを見計らう。そうして1年半かけて造られるたまりは、他の醤油にはない個性で、料理を理想の色味、味わいに着地させてくれる。甘辛い煮物や照り焼きにはもってこいだ。

(上)三重県産原料で造ったたまり「丸大豆醤油」600円/200ml、(下)小麦1:大豆9で仕込む「白醤油」580円/200mlは甘味が豊か。(photograph by isegura)



◎伊勢藏
三重県四日市市泊町12-3
☎ 059-345-3483
https://www.isegura.com/

(雑誌『料理通信』2019年6月号掲載)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。