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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】米の栽培から始め、レシピ完成に12年「どぶろく」

岩手・遠野「とおの屋 要」

2025.01.30

text by Tamaki Akasaka / photographs by Yasuhiro Yahata

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。料理人でもある発酵のプロフェッショナルが、米の栽培から手掛ける唯一無二の「どぶろく」を紹介します。

(左)仕込んで51日目ながら力強い発酵が続く水酛仕込みのもろみ。(右)原料の「遠野1号」はモチ性遺伝子を交配していない在来種。1年寝かせて使う。
(左)作業に使う「暖気樽」。(右)料理人であり発酵のプロフェッショナルとして知られる、オーベルジュ「とおの屋 要」の佐々木要太郎さん。毎日もろみに櫂入れをする。
瓶詰め後、3~6カ月間の熟成を経て完成したどぶろく。

米の栽培から始め、レシピ完成に12年。

「どぶろく」とは、米・米麹・水を発酵させて造る酒のこと。日本酒と同じ造り方だが、もろみを漉さず、火入れしないので、白く濁り、酵母や乳酸菌が生きたまま含まれる。甘酒に似た素朴な味で、時間が経つと酸っぱくなるのだが、オーベルジュ「とおの屋 要」の佐々木要太郎さんが造るどぶろくは別物。柔らかい酸味と切れのある発酵感は、数年経っても変わらず。どぶろくではなく、「どぶろくという名前の酒」造りを目指し、探究してきた成果だ。

遠野市が「とぶろく特区」に認定されたことがきっかけで、佐々木さんは2003年に原料である米の栽培からスタート。以降、酒母造り、発酵、瓶詰め後の熟成などあらゆる工程で試行錯誤を繰り返し、12年かけてレシピを完成させた。重視しているのが、自然栽培の米のすべてを生かしきること。そのため、酒造りで一般的な「米の磨き」もほぼ行わない。また、もろみ内の雑菌を死滅させ、発酵に必要な菌を増殖させるため、もろみの温度管理も工夫している。

ここ数年、もろみ内の酵母の活性期間が長くなっている。「10年以上無農薬・無施肥で米を栽培してきた結果、田の土壌細菌が健全化し、それが米に入り込んで『力強い発酵』につながっている」と佐々木さん。米・土・微生物など「声なきものの声を聴き、姿なきものの姿を見る」ことに徹し、今後も唯一無二の酒造りに邁進し続ける。

2015年からは香港とスペインに輸出するなど、海外でも高く評価されている。速醸酛で作る「スタンダード」、生酛仕込みの「生酛」、水酛仕込みの「水もと」をベースに、火入れタイプ、低アルコールタイプ、米糠も使用して木桶で作る「権化木桶どぶろく生」など様々に展開。


◎とおの屋 要
岩手県遠野市材木町2-17
☎0198-62-7557
http://tonoya-yo.com

(雑誌『料理通信』2020年5月号掲載)

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