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JOURNAL / JAPAN

日本 [広島]

ぶれない味を支える、目利きの存在

未来に届けたい日本の食材 #10海苔

2021.11.04

服部幸應連載 ぶれない味を支える、海苔専門店「三國屋」の目利き
text by Michiko Watanabe / photographs by Jun Kozai

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

海外では「黒い紙」と思われ、受け入れられない時期もあった海苔。
しかし、和食が人気の今は、ヘルシーな食品であることも知れ渡り、人気を博すようになっています。広島の海苔専門店「三國屋」は、安定した品質で信頼を集める海苔加工の第一人者。その工場に、目利きバイヤーの新尺(しんじゃく)基之さんを訪ねます。


26年のバイヤー歴を持つ新尺基之さん。「元々の海苔の質が良くなければ、味付海苔もおいしくなりません」。新尺さんの頭の中には膨大な数の生産者や浜の情報が蓄積されている。

26年のバイヤー歴を持つ新尺基之さん。「元々の海苔の質が良くなければ、味付海苔もおいしくなりません」。新尺さんの頭の中には膨大な数の生産者や浜の情報が蓄積されている。

海苔といえば、浅草か有明海では?と思われる方が多いと思います。400年ほど前、江戸湾で養殖した海苔を、和紙を作る要領で板状にしたのが浅草海苔の始まりです。遅れること100年、広島湾でも海苔養殖が始まり、冬場は盛んに養殖が行われるようになりました。ところが戦後、埋め立て工事などにより、養殖は衰退。今は、有明海を中心に各地から買い付けています。全国の海苔の生産量は少し前まで100億枚でしたが、本年度は63億枚となっています。


と舌に蓄積した情報で瞬時に判断して競り落とす。海苔は漁師が摘んですぐ板状の乾海苔に加工。その後、各漁協の入札にかけられ、加工業者が競り落とす。三國屋は初回摘みの海苔が入札される第1回と4回に参加する。漁協は浜ごとに分かれるため、把握すべき情報は膨大だ。

頭と舌に蓄積した情報で瞬時に判断して競り落とす。海苔は漁師が摘んですぐ板状の乾海苔に加工。その後、各漁協の入札にかけられ、加工業者が競り落とす。三國屋は初回摘みの海苔が入札される第1回と4回に参加する。漁協は浜ごとに分かれるため、把握すべき情報は膨大だ。

有明海の海苔の養殖は10月15日頃、海水温が23℃ぐらいになったところで網を張り、種付けをします。ただ、最近の気候変動で時期が大分ずれてきています。3〜5cm伸びたところで、半分は、病害などのリスクヘッジのため冷凍庫へ。種付けから30日過ぎた頃、刈り始めます。これが一回摘み。歯切れがやわらかく、厚手は一回摘みがおいしいと思います。刈ったところから伸びるので、また刈り取ります。これが二回摘み。そんなふうにして摘んでいき、12月20日頃には網を揚げ、冷凍していた網を海に戻します。

 養殖は気候風土の影響を受けやすいため、海苔のとれる秋から冬にかけて、あらゆる情報を集めながら全国の浜をまわり、出来を見極めていきます。同じ浜、同じ等級でも全然違うので、ひたすらチェックに回ります。12月から4月にかけて、漁協ごとに月に2回ほど、乾海苔の入札会が行われます。普通は入札時に、色艶、味、歯切れ、口どけなどをチェックするのですが、当社では入札前にすべてを回り、徹底的に調べ上げます。ともかく極上のものを探せばいいのではなく、お客様のニーズは様々ですから、そのご要望に沿ったレベルのものを安定供給するために、毎年奔走するわけなんです。

こうして吟味を重ねて仕入れた乾海苔はすぐに冷凍庫に保存され、用途によって加工を施していきます。焼海苔はクオリティに合わせて、職人たちが香ばしく焼き上げ、すぐに袋詰めにします。特徴的なのが味付海苔でして、普通の海苔屋さんが加工調味料を使う中、当社は、蔵囲(くらがこい)の利尻昆布、本枯れ節、瀬戸内の干しエビ、干しシイタケ、醤油、味醂などを合わせて炊いた自家製のタレで味をつけています。いわゆる味付海苔とは一線を画すおいしさ。ぜひお試しいただきたい味です。

当社はすべて定価販売。また、プライベートブランドやコラボ商品もお断りしています。これが、品質と味を守り続ける「三國屋」のプライドなんです。

干しエビは瀬戸内産を使用。香りも味わいも穏やか。

干しエビは瀬戸内産を使用。香りも味わいも穏やか。

(写真左)昆布は利尻・礼文島の香深(かふか)産を使用。 (写真右)味付海苔用の調味液は昆布と干しエビ、乾シイタケ、煮干しでだしをとってから砂糖、醤油で味を調える。国産唐辛子を加えると味が引き締まるそう。

(写真左)昆布は利尻・礼文島の香深(かふか)産を使用。
(写真右)味付海苔用の調味液は昆布と干しエビ、乾シイタケ、煮干しでだしをとってから砂糖、醤油で味を調える。国産唐辛子を加えると味が引き締まるそう。


初回摘みの海苔はやわらかく割れやすいため、人の手で詰められる。

初回摘みの海苔はやわらかく割れやすいため、人の手で詰められる。

焼き海苔も味付海苔もオリジナルブランドのみで販売。

焼き海苔も味付海苔もオリジナルブランドのみで販売。

加工場は広島県の山間部。まわりにはスキー場も多い。おいしいだしをとるために、水のよい場所が選ばれた。

加工場は広島県の山間部。まわりにはスキー場も多い。おいしいだしをとるために、水のよい場所が選ばれた。


◎藝州 三國屋
広島県山県郡安芸太田町大字上殿720
☎082-277-7201
https://mikuniya-nori.jp/

 (雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)

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