日本 [高知]
端境期をつなぐ温室育ちの青柚子
未来に届けたい日本の食材 #12ハウス柚子
2022.01.13
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
日本一の柚子の産地といえば高知県。全国シェアの5割を占めます。柚子といえば、黄色い玉がポピュラーですが、春からお盆までは香り高いハウス青柚子が人気です。我が子のように大切に育てているため、少し高価ですが、その爽快感は稀少です。安心安全なハウス柚子を育てて20年の、別役次雄(べっちゃく・つぎお)さんを訪ねました。
まずは、匂いをかいでみてよ。爽やかで品のいい香りでしょ。黄柚子もいいけど青柚子の爽快感はまた格別だよね。
ハウスを見てもらいましょか。ムワッとするのは、中の温度が26〜28℃、湿度が70〜80%だから。夜は20℃ぐらいになります。この1棟に100本ぐらい柚子が植わっていますが、すべて、カラタチの木に接ぎ木したもの。木のそばに行く時は、鋭いトゲがあるから気をつけてよ。
露地の柚子は7月下旬から青柚子を収穫し始めますが、メインは11月に黄柚子になってから。遅くても12月の頭には収穫を終えます。
すぐに出荷しない分は貯蔵しておき、在庫が終わるのが毎年3月終わり頃。ハウス青柚子はその後、4月からお盆にかけての出荷になるんだけど、実の直径が5〜6㎝、50gほどになったところで収穫します。露地の青柚子より、サイズは少し小さめになります。
ハウス柚子の歴史は50年ぐらいあります。僕は20年前に、ハウス柚子の先輩である北川村に見学に行って始めました。
それまでミカンを長いことやってたけど、ミカンと柚子は育て方も収穫の仕方もぜんぜん違う。ミカンの木は上から下まで花をいっぺんに咲かせて、どんどん収穫するけど、柚子は上から花をつかせて順次収穫していきます。でも、自然の間引きというか、かなりの実が小さいうちに落ちて、収穫は一枝3〜4個ほど。
青玉は黄色くなる前の、いってみれば柚子の赤ちゃん。ちょっと当たっただけで黒ずむほど繊細なので、摘み取ったら上向けにひと並べし、上にクッションをかぶせて、またひと並べと重ねて、大事に大事に扱います。市場の扱いも違っていて、ミカンは果物だけど、柚子やスダチは野菜部門になるんですよ。
一番大切にしていることは市場と消費者からの「信頼」です。農薬は花に灰色カビが生えることがあるので、花の時期と、アザミウマ類の病害虫が発生する春先にごく少量を散布します。青柚子は皮を必ず使うので、農薬の使い方には特に気を使います。私が所属している温室柚子部会全員で取り組んでいますので、安心してお使いいただけます。
現在、主な取引先は東京と名古屋、それも料亭やすし屋など高級店が中心です。まだまだご家庭で使われるまでには浸透していませんが、スダチやカボスとは異なる、ハウス青柚子の清々しい香りは他の柑橘にはない素晴らしさ。見かけたら、ぜひ試していただきたいですね。
◎JA高知県 香美地区本部 山北果樹集出荷場
高知県香南市香我美町山北1307
☎0887-55-4165
(雑誌『料理通信』2019年6月号掲載)