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JOURNAL / JAPAN

だしいらずの、濃い旨味を持つ伝統野菜。大和まな

[奈良]未来に届けたい日本の食材 #24

2023.01.10

だしいらずの、濃い旨味を持つ伝統野菜。大和まな
text by Michiko Watanabe / photographs by Jun Kozai

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

ここ10年ほど、各地で伝統野菜復活の動きが盛んです。奈良県でも現在、20品目が大和伝統野菜として認定されていますが、その代表格が、独特の旨味と甘味を備えた「大和(やまと)まな」です。漢方薬の絞りかすを用いて、自家採種で栽培する大和高田市の「UEDAなっぱ工房」を訪ねました。

上田喜章さん

葉野菜に特化して家業を継いだ上田喜章さん。

大和まなは地中海、中国を経て日本に伝わったアブラナ科の野菜の一種です。かつては油をとるために栽培されていたのですが、奈良では漬物やお浸し、和え物などに使われる漬け菜として定着しました。まず、生のまま食べてみてください。軸はシャキシャキとして旨味がすごいでしょ。葉は柔らかくて甘味がある。アクがなく、旨味成分が多いから、苦味を感じないのも特徴です。1年を通じて作っていますが、冬場はぐっと柔らかく甘くなり、夏はピリッと辛味が出ます。

大和まなは他の葉野菜と違ってあまり品種改良がされていなかったため、暑さに弱く、病気にもかかりやすい。また収穫後、すぐに黄色くなるため、商品としてはリスクが高く、栽培する人が少なかったんです。2010年に奈良県と種苗メーカーの協力で、F1種が生まれ、広く作られるようになりましたが、僕は原種に近い味を守りたいと自分で味、形、色がいいものを採種用に選抜し、今も自家育種をしています。種は5月の半ばぐらいに採種して乾燥させ、大きいものだけを選んで冷蔵庫に保管しておきます。翌年から蒔き始め、夏は生育が早いので25〜30日で収穫できますが、冬は100日ぐらいかかります。

畑は露地とパイプハウスを合わせて、約4ヘクタールほど。土作りに力を入れていて、漢方薬の絞りかすを発酵させた堆肥を10年前から使っています。ここ数年、病院でも西洋薬だけでなく、漢方薬を選択できるケースが増えていますが、製薬会社から出る生薬の絞りかすも増えているそうです。そこで肥料屋さんが堆肥にしたものを見せてもらったのがきっかけで使い始めました。動物性の有機肥料に比べると塩分が低く、雑菌の心配もないので安心して使えます。土作りに力を入れた結果、味が濃く、葉が肉厚になり、棚持ちするようにもなりました。

堆肥と大和まな

自家採種の種と漢方生薬の絞りかすで作る土。上田さんは栽培のしやすさよりも味を優先し、自家採種にこだわる。漢方薬の絞りかすと奈良産の酒米の籾殻を混ぜ込んで1年ほど寝かせた堆肥は、微生物の力でさらさら。においもない。

開花した花に誘われてテントウ虫の姿も。

採種用の大和まなの畑では、開花した花に誘われてテントウ虫の姿も。

堆肥と出荷される大和まな

(写真左) 畑に届いたばかりの漢方薬の絞りかすは、まだゴロゴロと湿った土の塊。大阪の道修町には歴史的に製薬会社が多く、そこから出る絞りかすを使って堆肥が作られる。
(写真右)漬け物用に出荷される大和まな。白い軸の部分が小松菜などに比べて柔らかいのが特徴。

家は元々農家でしたが、私は経理畑のサラリーマンだったので、家を継ぐことになった時、売り方からまず考えました。米にしろナスやキュウリにしろ、農繁期と農閑期の差が激しい。収入も不定期になる。毎日出荷、換金できる作物は何かと考え、葉野菜に絞ることに。地元のシェフが使ってくれたりと、最近は少しずつ全国に知られるようになりましたが、まだまだ地元でも知らない方が多いのが実情。妻ともども小学校で栽培方法やレシピをレクチャーし、食育活動にも励んでいます。もっともっと大和まなの味を知ってほしいと思っています。

大和まなとハウス

(写真左)大和まなを3cmに切り、油で炒めると水がたっぷり出る。そこに醤油、砂糖、油揚げを入れてさっと煮浸しに。旨味が濃いので、だしもいらない。
(写真右)ハウスで栽培される葉野菜は、洗浄せずそのまま袋詰めに。2日おきに種を播き、露地と併せて安定出荷できるようにしている。

小松菜やしろ菜

小松菜やしろ菜も栽培。



◎UEDAなっぱ工房
奈良県大和高田市松塚811
☎0745-52-4583

(雑誌『料理通信』2018年7月号掲載)

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