自然が作った最高のサプリメント ハチミツ
[東京]未来に届けたい日本の食材 #28
2023.05.08
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
蜜蜂の生態には解明されていない部分が多いそうです。今(2017年当時)、問題になっている集団失踪事件は、農薬を始め環境悪化のせいもあるとか。ハチミツは「自然が作った最高のサプリメント」ともいわれます。東京・国分寺市で、質のいいハチミツを作る「中村農園」の田中久幸さんにお話を伺いました。
うちは元々、酒屋でね、養蜂は父がやってたの。とれたハチミツは酒屋で売ってたんだ。ところが、周囲に家がどんどん建ったもんだから、できなくなって、今は中村農園さんに場所を借りてやってるわけ。巣箱から何からみんな自分で作ってね。日本蜜蜂は、自分で巣をゼロから作るけど、西洋蜜蜂は人間が作った巣箱に蜜を集める。巣箱見る? 燻煙器でカンナくずを燃やして煙を出すと大人しくなるから、ちょっと待ってて。
日本蜜蜂はおとなしいけど、西洋蜜蜂は割と攻撃的なの。巣箱を開けますよ。縦に並んでいるのが「巣枠」。今は蜂が一杯で見えにくいけど、木枠に針金を3本張ってロウの板を挟んでおくと、働き蜂が自分の体から出る蜜ロウを使って巣を作る。みんなが知ってるきれいな六角形の形に巣ができてるでしょ。ただ、蜂って、巣枠が気に入らないと逃げてしまうこともある。巣箱は2階建て構造で、巣枠の下には、「隔王板(かくおうばん)」という境界板があって、下には女王蜂とオス蜂がいる。その板には隙間が空いていて、働き蜂は通れるけど、女王蜂とオス蜂は通れない仕組み。
働き蜂は全員、メス。夜が明けると飛び立ち、花蜜と花粉をめいっぱい持ち帰るんだけど、その重さたるや、自分の体重を抱えて飛んでる感じ。飛行範囲は半径2キロ圏内。毎年4月半ば頃にスタートして、6月一杯で終わり。最盛期は4、5月。この界隈は桜や最近ではブルーベリーが増えてるね。開花に合わせて全国を移動する専門業者と違い、うちは定住型。定住型養蜂で大事なのは冬期の管理。蜂の体温を維持するために、砂糖水ときなこ、ハチミツで作った代用花粉を与えます。砂糖は3日で500グラムも必要。こまめなケアが大事なの。
よく、蜜蜂は社会性昆虫と言われるけど、1匹の女王蜂から生まれる、働き蜂、女王蜂、オス蜂で1つの社会を構成してる。新しい女王蜂が生まれると、巣を譲って、旧女王蜂軍団はどこかへ移動してしまう。女王の寿命はだいたい5〜6年かな。働き蜂の寿命は約40日。
時期によって仕事が決まっているのも面白い。生まれてすぐは掃除係、次に育児係、それから門番もする。そして、最後の10日間ぐらいに、命を燃やして花蜜と花粉を採る。一生に採る蜜は茶さじ1杯ぐらいと言われてるけど、何とも、壮絶な働きぶりだよね。その汗の結晶のハチミツは、本当はすべて子孫繁栄のために集めてきたもの。それを人間が横取りしているの。だから、感謝して食べてね。
◎国分寺中村農園
東京都国分寺市日吉町4-24-1
☎042-324-4909
https://naks-farm.com/
(雑誌『料理通信』2017年5月号掲載)
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