強い粘りが信条。蓮根を余すところなく食べ手に届ける。加賀蓮根
[石川]未来に届けたい日本の食材 #31
2023.08.28
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
加賀野菜の一つ、加賀蓮根はもっちりと粘りが強く、節間が詰まっているのが特徴。蓮根はクワ掘りと水掘りがあるそうですが、河北潟で作られる蓮根は水圧で収穫する水掘り。河北潟干拓地で3ヘクタールの蓮根畑を栽培する「蓮だより」の川端崇文(たかふみ)さんを訪ねます。
私は生きている実感が欲しくて脱サラをし、この世界に飛び込みました。独学でしたから、周囲の農作業を見て見様見真似で始めました。ところが、農薬をまいて10秒もすると、生き物の死骸がうわっと浮いてきた。これは蓮根にも人間の体にもよくないだろうと思い、農薬を使用しない栽培方法にしました。農薬不使用の蓮根農家は珍しいと聞きます。でも、子供たちの未来のためにも大事なことだと思いました。もう12年になります。
蓮根を植えるのは4月中旬から。1坪1本が理想です。種を蒔くのではなく、種蓮根を植えるのですが、地下茎でどんどん枝分かれし、横に伸びていくから場所が必要なんです。栽培して気がついたのは、種蓮根から生える蓮根は、色も形もまったく同じってこと。クローンみたいなものですね。いい種蓮根を見極めることも大事ということです。
収穫は8月から翌春の5月まで。8、9月は新蓮根で、まるで梨みたいな食感。生食もできます。夏は水の上に出ている茎と葉を刈り倒してしばらくおくと、白いきれいな蓮根に変わります。また、秋になって葉が枯れるとムチンというデンプン質が出てくる。これが加賀蓮根の大きな特徴であるもっちり感を生むんです。ちょっと切ってみますね。切り口から糸が出るでしょ。引っ張るとどんどん長くなる。粘りがそれだけ強いということです。これには土作りが大切です。土を耕し、ワラなどの有機肥料をたっぷりあげて、微生物の活性化をはかり、地温を上げて、その土から蓮根に欲しいものを吸ってもらうというやり方です。
自分でも納得のできる蓮根が出来たら、今度は販路の開拓です。東京の錚々たるシェフたちに、何の紹介もなく、飛び込みで売り込みに行きました。思いがけず、お取り引きいただけるようになり、驚いています。蓮根は掘り立てが一番なので、朝採れをすぐに発送しています。
蓮根の未来のためにできることはないかと、氷温熟成にも挑戦中です。凍る直前まで冷やすことで、細胞が身を守ろうして糖度と粘度がアップする。食味が増すんですね。また、少量ながら蓮根チップスも製造しています。穴があるので壊れやすいため、厚切りのものはよくあるのですが、うちは薄さにこだわって作りました。1袋に蓮根1節分にあたる 300グラムを使い、塩は能登の海塩で。おかげさまで好評をいただいています。
まだまだ挑戦したいことが山積み。自分も成長しながら、頑張っていきます。
◎蓮だより
石川県金沢市才田町乙183-2
☎080-2958-1190
https://hasudayori.jp/
(雑誌『料理通信』2018年1月号掲載)
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