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JOURNAL / JAPAN

東京の「旬」を伝える畑に。植物性堆肥の無農薬野菜

[東京]未来に届けたい日本の食材 #43

2024.08.05

東京の「旬」を伝える畑に。植物性堆肥の無農薬野菜
text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

住宅地や屋上で展開する都市型農園が注目されています。消費者と近く、環境面でも安心・安全を心がけ、近隣から愛される農園が多いようです。東京・世田谷でイチゴやレタス、枝豆などを多品種育て、飲食店やパティスリーに卸す「そらまめ農園」の関田ファミリーを訪ねました。


関田ファミリー
関田ファミリー。和敏さんと妻の未歩さんに、9歳の渓悟(けいご)君と3歳の達月(たつき)君。※年齢は取材当時

わが家は花農家で、私で4代目。父は胡蝶蘭を栽培していたのですが、いずれ手伝うという約束でしたので、結婚の際、家内にもそのことは伝えていました。ところが、リーマンショックで家内は仕事を辞めることとなり、ちょうどいい機会と、父の仕事を手伝うことに。そして、この畑の開墾も始めました。

元々ここは造成地で、5アールしかありませんが、祖父母がハナミズキを育てていた場所です。私は当時、勤め人だったので手伝う程度で、家内が中心でした。開墾を始めたものの、残土やら石の塊も出てくる。全部取り除いたのですが、超酸性の土地だったので、どこでも育つといわれたジャガイモやサツマイモも育たない。土地を戻すのに2〜3年かかりました。

長男が誕生して半年もしないうちに東日本大震災が起こり、食の安全について深く考えるようになりました。安心安全な野菜を作りたい。そこで、数年ののち、私も農業専従にしたのです。私たちは2人とも農業は未経験。本を読んだり、ネットで調べたり、また、家内は市民講座で学んだりと、独学で自分たちに合ったムダのないやり方を探っていきました。

農園の入口には、現在作付中の野菜と収穫できる野菜がボードで案内されている
一畝に複数の野菜を混植栽培する。トマト、枝豆、レタスが混植された畝。コンパニオンプランツの考え方で組み合わせれば、虫を防ぐ効果も期待できる。農園の入口には、現在作付中の野菜と収穫できる野菜がボードで案内されている。
キウイの棚が住宅地の畑に心地良い影を作っていた。
農園に着くと、キウイの棚が住宅地の畑に心地良い影を作っていた。
畑は5アール(500平方メートル)。別にブルーベリーの畑も所有している。
畑は5アール(500平方メートル)。別にブルーベリーの畑も所有している。

最初は、牛糞や鶏糞を肥料にしていたのですが、肥料の勢いが強すぎたのか、虫が大量発生。牛糞は牛のエサも関係してきますし、鶏糞はどうしても未熟(発酵途中)なところがあって、植物性の有機肥料にシフト。沖縄のヨモギを植え、先端を刻み、黒糖をまぶして発酵液を作り、米ヌカや油カスと混ぜて発酵させたぼかし堆肥を与えています。ちょっと匂ってみますか。味噌とか醤油っぽい匂いがするでしょう。これに変えてから虫がつかなくなりました。

現在、春はそら豆やスナップエンドウ、ルーコラ、イチゴ、夏はプチトマトやナス、別の場所ではブルーベリーも。秋冬はキウイフルーツやサツマイモ・・・と、年間のべ30種類ほどですが、畑が小さいこともあって、一つの畝に何種類かの野菜を混植しています。1畝が短いですし、種や苗の植え付けも時期が分散しているので、耕すのはクワで足ります。トラクターはありますが、使っていません。

雑草は生やしっぱなし。野菜の根っこは残して、あとは踏みつけています。こうすることで、土中の微生物とも共存しています。土も舞い上がらない。住宅街での農業には大事なことです。
まだまだ勉強の日々ですが、東京にも「旬」があるということを、うちの畑から感じていただけたら嬉しいですね。

米糠と油かすにヨモギの発酵液で作ったぼかしは、味噌や醤油に通じる香りがする。
(写真左)ホームセンターで購入できる道具で自作したハウス。ここで、畑に移植する前の苗を栽培する。リーマンショックと東日本大震災が二人を農業へ導くきっかけになった。(写真右)米糠と油かすにヨモギの発酵液で作ったぼかしは、味噌や醤油に通じる香りがする。
農園の名前にもなっているソラマメ。
農園の名前にもなっているソラマメ。東京では5~6月が旬になる。
2019年から栽培に取り組み、初めて実ったイチゴも旬は5月
2019年から栽培に取り組み、初めて実ったイチゴも旬は5月。早くも東京の有名パティスリーがショートケーキに使い始めた。


◎そらまめ農園
facebook:@soramamenouen

(雑誌『料理通信』2020年7・8月号掲載)

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