日本の食 知る・楽しむ
どら焼き「うさぎや」 since 1950
連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應
2016.05.01
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大ぶりのどら焼きは1個190円。皮は手にふんわりと柔らかく、中にはあんがずっしり。夕方前になると売り切れることが多いため、確実に入手したい場合は予約を(店内で食べられるのは、あんみつとかき氷などで、どら焼きは持ち帰りのみ)。
text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura
連載:世界に伝えたい日本の老舗
私は、無類のあんこ好き。あんこを食べれば、自然と顔がほころびます。草団子も小倉アイスも、どら焼きも大好きです。どら焼きといえば「うさぎや」。上野、日本橋、阿佐ヶ谷と3店舗ありますが、私は阿佐ヶ谷派。夏のある日、和菓子を求める地元客でにぎわう阿佐ヶ谷「うさぎや」に、3代目の瀬山妙子さんを訪ねました。
老若男女に愛される和菓子屋のヒットアイテム
3軒はどこが本店なのか、関係はあるのか、などとよく聞かれます。3軒は親戚同士。でも、暖簾分けではなくて、それぞれが独立した店舗です。
そもそもは、祖父の谷口喜作が上野・黒門町でロウソク屋をやっていたのですが、電気の普及で商売が傾き、「食べてなくなるものなら、潰れることもなかろう」と、大正2年(1913年)に和菓子屋を開いたのが始まりです。職人もおりましたが、母をはじめ叔父たちも「家族従業員」として働いていたようです。
その後、蔵前の材木屋に嫁いでいた母は戦災で焼け出されます。叔父が戦争から復員してくると、日本橋に店を開くことになり、開店当初、母はこちらの和菓子作りを手伝っていました。私が中学生の頃のことです。当時は、待合のお土産によく売れていたようです。
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写真は瀬山妙子さんの母、龍さん。
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戦後、復員した職人さんを見つけだし、西荻窪で一見間口の小さな店を開いたのが始まり。昭和32年に現在の場所へ。
やがて母も、復員した黒門町の職人を見つけ出し、昭和25年(1950年)、西荻窪に一軒間口の店を開きます。まだ統制下でしたから、砂糖、小豆、米などの確保が至難な中、本物の材料しか使わなかったのが母の誇りでした。当時、西荻窪には多くの文化人が住んでらして、よくお店に遊びにいらしてくださったんですよ。今もそうですが、人と人とのつながりをとても大切にしてたんですね。7年後、現在の阿佐ヶ谷へ。まだ、冷蔵庫もない時代ですから、北向きで日の当たらない場所を選んでのことでした。
現在、私は店主として、弟は職人として働いております。「うさぎや」といえば、どら焼き屋だと思っていらっしゃるかもしれませんが、昔から、季節の生菓子や餅菓子もある和菓子屋です。餡は国産小豆を用い、お菓子によって内容を変えております。すべて手作りですから、手間と時間がかかります。
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店の看板商品、うさぎ饅頭は1個160円。耳と目は、羊羹で一つひとつ手書きされるため、すべて表情が微妙に異なる。
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ショーケースにできたお菓子をずらりと並べると乾いてしまうから、と見本を1個だけ飾り、注文ごとに奥で包んで渡すスタイルは創業から変わらない。
黒門町からの伝統で、お菓子は店頭に1種類につき1個ずつだけを並べるスタイル。それをご覧いただいて、1個からお求めいただけます。普段使いの場合は、少量ならば紙包みで。箱はお使いもの用(有料)と普段用の2種ご用意していて、お使いもの以外はなるべくなら箱を買っていただかずに済むようにと思っています。御用向きを聞いてからお包みするので、アルバイトさんも入れて現在スタッフは35名。それでも、てんてこまいです。
夏は、水羊羹がおすすめ。店内では、あんみつやかき氷をご用意しておりますので、どうぞ涼みにいらしてください。
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「自宅用に箱代がかかるのは申し訳ないから」と包装紙でくるり。紐も自宅用は飾り気がないが、どこか温かみに溢れる。
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ご近所さんはもちろん、遠方からのお客さんも多く、店の入り口はいつも人が絶えない。
◎うさぎや
東京都杉並区阿佐谷北1-3-7
☎03-3338-9230
9:00~19:00
土曜、第3金曜休
JR阿佐ヶ谷駅より徒歩2分