日本[和歌山]
「ヴィラ アイーダ」小林寛司シェフが案内するお宝食材巡り
「パティスリー パリセヴェイユ」×「STOVE+」×「Gracia」
2022.04.21
【PROMOTION】
text by Kei Sasaki / photographs by Ayumi Okubo
連載:日本 [和歌山]
まるで磁石のように食のプロたちを引き寄せる和歌山県岩出市のレストラン「ヴィラ アイーダ」小林寛司シェフから、ある日突然、声がかかった3人のシェフたち。口数の少ない小林シェフに案内され、3月初旬、和歌山の生産者を訪ねる旅へ出掛けました。味覚で会話するシェフたちが感じ取った和歌山のお宝、そして小林シェフのメッセージとは?
<案内されるシェフ>
1年のうち10カ月が柑橘の収穫シーズン
広い和歌山県の旅は、県南部の田辺市「紀州原農園」からスタートした。今回、和歌山を訪れたのは、東京・自由が丘「パティスリー パリセヴェイユ」の金子美明シェフ、秋田「STOVE+」の齋籐毅シェフ、東京・広尾「グラシア」のジェローム・キルボフシェフ。ジェロームシェフは、レストラン以外に「ジェローム シグネチャーレシピ」というバスクチーズケーキを柱にした洋菓子ブランドも展開している。小林シェフが「お菓子の味に惚れ込んで」というのが、今回の3人の共通項だ。
「ヴィラ アイーダ」がある岩出市から「紀州原農園」までは車で約1時間。到着した一行を、代表の原拓生さんが出迎えてくれた。小林シェフが最も信頼し、長きに渡り交流を続ける生産者の一人だ。まずは農園からほど近いグリーンツーリズム施設「秋津野ガルテン」内の柑橘資料館へ。
「地域内で栽培される柑橘は約80種。酸味、甘味、苦味、香りのバランスなどそれぞれに個性があります。収穫期は9月に始まり翌7月まで。つまりほぼ通年、何かしらの柑橘が実る、世界的に見ても稀有な産地です」という原さんの解説に、柑橘は和歌山を代表する農作物だとよく知るシェフたちから、感嘆の声が漏れた。
「では、実際に畑を見ていただきましょう」と原さんの先導で再び車に乗り込み、狭い山道を分け進み、農園に向かう。傾斜地に広がる畑では、黄色に橙色、大中小と様々な柑橘が実っていた。
「ここからが本番だから」という小林シェフの言葉を合図に、木に実る柑橘を次々とテイスティングしながらの農場案内が始まった。
「これはポンカン。弊園では人気の高い品種です。紅まどかは、レストランでのニーズも多い。これはせとか。せとかは“柑橘界の大トロ”と呼ばれる大ヒット品種です。ブドウでいうところのシャインマスカットのような」
剪定鋏で手早く器用に皮をむき、シェフたちに試食を勧める。一歩進むごとに、異なる品種が実る“柑橘パラダイス”。年間栽培品種は、約50種。和歌山にあっても比類なき造り手である。
畑での試食はまだまだ続く。様々な品種の掛け合わせや自然交配で誕生した、津之輝(つのかがやき)、黄金柑(おうごんかん)、メイポメロ。ビニールハウスでは、フィンガーライムや仏手柑(ぶっしゅかん)、ベルガモットなど、外国産品種の栽培が試験的に行われていた。原さんいわく「ラボ」。県と共同で、あるいは独自に新品種の開発も手掛けている。
膨大な情報量に圧倒されるシェフたちを見て、小林シェフがにやりと笑う。「こんな農家さん、他にいないでしょ」というように。原さんの育てる良質かつ多彩な柑橘は、世界中からゲストを集める「ヴィラ アイーダ」の料理に欠かせない食材だ。
3人のシェフたちにとっては、試食の数もスピードも想定外だったことは容易に想像が付くが、当然ながらそれぞれに「これぞ」というものをインプットしていた。
「印象に残ったのは三宝柑とクネンボ。クネンボは果皮を使ってみたいと思いましたね」と、齋籐シェフ。
「生食と違い、酸味が強いものほど加工の可能性を感じる」と話す金子シェフは、はっさくとレモンが自然交配で掛け合わさっただろう新品種に強く惹かれたようだ。「これでまだ一部とは。ほかの季節のものにも興味がわきます」。
大充実の視察を終え、「紀州原農園」を後にした。
続いてもう1軒。和歌山県は全国のはっさく生産量の約7割を占めるが、その中でも県内生産の約6割を誇る紀の川市の農家へ。はっさくは12月後半から1月に収穫し、約1カ月間貯蔵し、追熟させて出荷するのが一般的だが、この地で120年続く果樹農家「まつばら農園」の畑には、まだ実が木に残る。
「収穫期を3月まで遅らせ、樹の上で完熟させる“樹上完熟はっさく”に取り組んでいます。糖度の高いデコポンの栽培方法を応用してはっさくを作っているのはうちだけ。甘味がより引き立ちます」
農園を案内してくれたのは、6代目の松原好佑さんだ。
「樹上完熟はっさくは、酸味のポテンシャルが不可欠。夏に水をやりすぎないことで木にストレスを与え、酸を残し、長く“持つ”実を育てるのです」
年間を通じて温暖な気候が柑橘栽培に好適といわれる和歌山県だが、近年、県北部に位置する紀の川市では冬に霜が降りるように。世界中で温暖化対策が議論される中で意外だが、越冬する果実を寒さから守るため、はっさくにも袋がけするようになった。
「パティシエにとっては柑橘の皮も貴重な製菓材料。皮が美しいのはありがたいです」と、金子シェフ。ジェロームシェフは、葉をちぎってもらい、熱心にその香りを確かめていた。
◎まつばら農園
https://matsubarafarm.com/
県北西部沿岸部の海南市は県内有数のみかん産地で、昔から養蜂業が盛ん。明治37(1904)年創業の「西村養蜂場」では、みかんの花の開花時に採取する「みかん蜜」が看板だ。4代目代表の西村洸介さんは、2021年から北海道にも拠点を構え、二拠点で養蜂を行う。
「養蜂は、気候や周辺環境に大きく左右される仕事です。この先、温暖化がどれだけ進むかわかりませんが、和歌山の夏はミツバチの生育には厳しい環境なのに対し、北海道は夏も蜜源が豊富で、気候的にも養蜂にとって理想的な環境。質のいいミツバチが育ちます」
ハチミツは春に採取する。和歌山で採蜜を終え、北海道へ移動すれば、一年に二度採蜜することができ、生産量も増やせる。
制御することができない自然の気候変動に対処しながら、代々受け継いだ仕事と、味を守る。柑橘でも養蜂でも、未来を見据えた挑戦を厭わない若い生産者たちこそ、和歌山の宝だ。
里山の洗練、世界が認めるぶどう山椒
柑橘、梅に加え、和歌山が全国に誇る農作物がある。山椒だ。生産量は全国1位。とりわけ、有田川町原産の「ぶどう山椒」は、粒が大きく香りが鮮烈で「緑のダイヤモンド」と呼ばれている。そのぶどう山椒の栽培から加工、販売まで一貫した仕事に、小林シェフが絶大な信頼を置くのが「かんじゃ山椒園」だ。
畑の木々はまだ芽吹き前で、花のつぼみも硬い時期だが、「枝も香るんですよ」と、代表の永岡冬樹さんが、折った小枝を手渡してくれる。「本当だ、かすかに山椒の香りがする」と、シェフたち。屋内に場を移し、試食を開始。「実山椒は収穫期で味わいが異なります。5月に収穫する早摘みのものは、粒が小さく香りもソフト。遅くなるにつれ、香りも辛味もしっかりしてきます」。永岡さんの解説を頼りに、頷きながら味を確かめる。
フランス人でスペイン料理人であるジェロームシェフにとっても、ぶどう山椒は興味深い食材だったようだ。
「日本での生活も長く、今は日本の食材ありきで料理をしている。肉や魚は当然のこと、昆布や鰹節などのだし、唐辛子などの香辛料まで。日本の素材とスペイン料理の技法で“私の料理”ができる。山椒にも、可能性を感じます」と、ジェロームシェフ。
加工品も一通り試食した中で、1週間かけて甘味を含ませる実山椒のシロップ漬け「山椒ジャム」は、製菓のプロであるシェフたちをも唸らせていた。
◎かんじゃ山椒園
https://www.sansyou-en.com/
お茶農家の“手わざ”が光るクラフト茶
県南西部、白浜町では一軒の茶農家を訪ねた。同町の山間部で作られる「川添(かわぞえ)茶」は、知る人ぞ知る和歌山県産ブランド茶。「上村茶園」の上村誠さんが、「名人」と呼ばれるトップ生産者だ。「上村茶園」は、地域で協同製茶の傍ら、自園で栽培した茶葉の製茶まで手掛ける、ワインでいうところの“ドメーヌ”茶園でもある。実は小林シェフも念願叶っての初訪問。
作業場兼事務所で、上村さん自らがお茶を淹れ、製法を解説してくれた。まずは中国茶の白茶の製法にならった「白露(しらつゆ)」から。収穫した茶葉を萎凋(いちょう:日陰でしおらせて、水分を飛ばしつつ発酵させる)し自然乾燥する、いわく「もっともシンプルな製法」で作る茶で、香りと甘味が豊か。シェフたちも口々に「旨い」と、感嘆の声を漏らす。
続いて供されたのは、紀州番茶の製法を生かした釜煎り玉緑茶「将軍川」。香ばしい香りとすっきりした味わいが特徴だ。茶園のフラッグシップである煎茶「ひきがわ」は、低めの温度の湯で十分に味と香りが引き出され、だしのような旨味がある。
「茶の品種はすべて同じ。やぶきたです。でも加工法次第でいろいろな味が作れる。若い生産者にも、そのことを知って欲しくて」と上村さん。
「この飲み比べは貴重な体験でした。こんなにも味が違うのかと。煎茶は、私もよく使う食材で、そういえば柑橘とよく合わせています」と、金子シェフ。
お茶は、世界的に注目が高まっている日本の食材の一つ。ガストロノミーのノンアルコールペアリングはもちろん、シェフやパティシエ、バーテンダーまでが良質なお茶を求めている。上村さんの仕事に刺激されたシェフたちのクリエイションが、お茶から発想する味を広げていきそうだ。
◎上村茶園
和歌山県西牟婁郡白浜町市鹿野562-2
TEL/FAX 0739-54-0024
微生物のご機嫌をうかがう味噌、醤油造り
旅の最後に「三ツ星醤油」「徑山寺(きんざんじ)味噌」で知られる創業300余年の「堀河屋野村」を訪ねた。大豆を蒸すのも小麦を煎るのも薪で焚く直火で、麹造りも手作業で行う。仕込みは木桶で。
「よく“蔵付き酵母”という言葉を聞くけれど、私は“桶付き酵母”だと思っている。この桶は、農家にとっての土。醤油蔵の命です」と、十八代目・野村圭佑さん。微生物という、目には見えない命の働きと、人の手で作るクラフトな味。製法だけでなく、設備も道具もほぼ創業時のままの形で使い続ける。
「大豆の状態もその時々で異なるし、気温や湿度も季節で違う。毎回同じようにやっていたのでは、同じ味にならないけれど、製品には同じ味が求められる。だから面白いんです」という野村さんの言葉に、3人のシェフたちは、深く頷いた。
2日間、小林シェフの案内で生産者を訪ね、その仕事と味に触れる間に、自然とそれぞれの仕事の話に発展したシェフたち。共通するのは、「レシピありきの仕事は、プロの仕事といえない」ということだ。料理と比べてレシピの厳格性が高い製菓においても、やはり「レシピ頼みでは、新しいものを生み出すことはおろか、クオリティを保ち続けることさえできない」という。
自然に逆らわず、変化する環境に柔軟に対応しながら品質を追求する和歌山の生産者たち。彼らから受けた刺激は、厨房に持ち帰る食材以上に、価値あるものになったはずだ。
◎Restaurant Caravansarai
https://caravansarai.jp/
◎villa aida
http://villa-aida.jp/
◎パティスリー パリセヴェイユ
Instagram:@paris_seveille
◎STOVE+
https://stove-plus.com/
◎Gracia
https://www.gracia-tokyo.jp/
【問い合わせ先】
和歌山県農林水産部 農林水産政策局 食品流通課
和歌山県和歌山市小松原通1-1
☎073-441-2814