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JOURNAL / 世界の食トレンド

日本酒・焼酎を和食から解放。世界で活躍するバーテンダーコンビが開いた「近所の立ち飲みバー」

America [New York]

2026.09.28

日本酒・焼酎を和食から解放。世界で活躍するバーテンダーコンビが開いた「近所の立ち飲みバー」

text by Akiko Katayama / photographs by Shannon Sturgis
シナモンとグレープフルーツを使ったトロピカル・カクテルの定番シロップ「ドンズ・ミックス(Don's Mix)」をヒントに、日本の酎ハイを繊細に表現した「トロピハイ(Tropi Hai)」。

SUSHIがすっかり食生活の一部となったアメリカだが、日本酒や焼酎は和食店の範疇をなかなか抜け出せていない。和食店以外で見かけることはほとんどなく、日系のバーで見る日本酒や焼酎を使ったカクテルも、ゆず、しそ、緑茶といった和の風味を伴うことが一般的だ。

そんな現状を揺さぶるきっかけになりそうな、新たなコンセプトを提案するのが「ドキドキ(Dokidoki)」。2026年7月に、ブルックリンに開いたカクテルバーである。

オーナーのA-K(エイ・ケイ)・ ハダ氏とクリスチャン・スズキ・オレヤーナ氏(通称スズ)は、2人とも日本人ハーフ。A-Kはフランス・イタリア、スズは中米エルサルバドルの血も引く、グローバルなコンビだ。

両氏は世界のカクテル業界で名を知られる存在だ。A-Kは世界屈指のバー「PDT」のヘッドバーテンダーを務め、カクテル界のアカデミー賞とされる「スピリテッド・アワーズ」のブランドアンバサダー部門で最終候補にも挙がった。スズは世界最高峰のバーテンダー賞「バカルディ・レガシー」ファイナリスト、またNetflixの「ドリンクマスター」に出演するなど、第一線で活躍してきた。

共同オーナーのA-K・ ハダ氏(右)とクリスチャン・スズキ・オレヤーナ氏
共同オーナーのA-K・ ハダ氏(右)とクリスチャン・スズキ・オレヤーナ氏。

カクテル業界をリードする2人が、一体どんな店を開くのだろう・・・?

意外にも彼らが選んだのは、華々しいマンハッタンのカクテルバーとは対照的な“近所の立ち飲みバー”を思わせる空間。
「僕は小さい頃から、浅草で飲食店を営む祖父母をしょっちゅう訪れ、時には店で働いて、日本のおもてなし文化をとても大切に感じてきたんです。それをたっぷり伝えられる店にしたい」とスズ。
A-Kは「仕事の後、あるいはディナーの前に、気軽に行って誰かに会える。そんな場所は、予約がないと入れない店ばかりの大都市で、とても少なくなっています。日本の立ち飲みバーみたいな、人と自然につながることのできる店になったら嬉しい」と話す。だから2人は予約を一切取らない。

店内は、中米の伝統的な土壁や織物をモチーフにカラフルに彩る。その雰囲気は、ふたりのラテン音楽好きも反映する(同店のホームページにも曲のリンクがある)。そもそもスズはエルサルバドルというラテン系のバックグラウンドに加え、高校時代はサックスを演奏。新宿のラテンバーにもしばしば繰り出していたという。A-Kは元ダンサーとして多くのラテンダンスに触れた経験があり、ラテン音楽に強い愛着を持つ。「日本とラテン文化には、純粋な“おもてなし”という共通点がある。その自然な組み合わせをこの空間で感じてほしい」と2人は言う。

「ドキドキ(Dokidoki)」店内
ブルックリンのウィリアムズバーグの一角にある、17畳ほどのこぢんまりとした店内。ふと気ままに訪れたくなる雰囲気だ。

ニューヨーク州で飲食店が取得する酒類販売業免許には2種類ある。ウイスキー、テキーラ他、アルコール度数の高い蒸溜酒用と、より度数の低いワイン・ビール用に分かれており、同店はあえて後者を選んだ。

「蒸溜酒の強い風味は、繊細な日本酒や焼酎の個性を消してしまう。そこで蒸溜酒は不要と判断しました」と両氏。また2022年のニューヨーク州の法律改正により、焼酎はアルコール度数24%以下であれば、ワイン・ビールと同じ免許で販売できるようになり、焼酎活用の可能性が広がったことも選択の後押しになった。

アメリカのカクテル文化をリードしながら、日本酒・焼酎文化も熟知する2人が共同で生み出すメニューには、独創的な9品(各16ドル)が並ぶ。

たとえば「トロピハイ(Tropi Hai)」は、麦の風味が主役。グレープフルーツとシナモン風味のトロピカル・カクテルの定番シロップ「ドンズ・ミックス」をヒントに、麦焼酎と麦茶、グレープフルーツ、シナモンを合わせ、さらにタマリンドのほのかな酸味と甘さを加えて、繊細なバランスを楽しませる。「酎ハイという日本独自のジャンルを、最高の形でニューヨークに伝えたいと願って作りました」と両氏。

またカクテルの定番マティーニを独自に表現した「イチキティーニ(Ichiki Tini)」も人気の一品。鹿児島県のいちき串木野産の風味豊かな芋焼酎に、フランスのコルシカ島産のベルモットとレモンバーベナを合わせ、ハーブ香の力で、芋焼酎独特の土っぽさを新たな角度で表現した。

ドキドキ流のマティーニ「イチキティーニ(Ichiki Tini)」
ドキドキ流のマティーニ「イチキティーニ(Ichiki Tini)」。米酢とみりんに漬けたパイナップルの一片を添えてアクセントに。

その他、メープルシロップのような甘い香りを持つキノコ「キャンディキャップ・マッシュルーム」のビターズや黒糖が、生原酒と熟成古酒の風味を引き立てる日本酒カクテル「コーストライン・クロニクル(Coastline Chronicle)」など、多彩な品揃えだ。

2人によれば、焼酎や日本酒に馴染みのない客が「こんな味になるのか」と驚くことも少なくないという。

和食のための酒ではなく、一杯のカクテルとして日本酒や焼酎を選ぶ。ドキドキが提案するのは、和食から独立した、新たな和酒の楽しみ方だ。


*1ドル=156円(2026年9月時点)

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