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JOURNAL / 世界の食トレンド

村の女性たちとサステナブル・ラグジュアリーを実現。夢の直火レストラン

India [Tipeshwar]

2024.09.19

(写真)アムニンダーさんは、各国のシェフが腕を競ったNetflixのリアリティ番組「ファイナル・テーブル」にインド代表として出演した実力派シェフ。ティパイのダイニングエクスペリエンスパートナーとして、施設内のレストラン全てを任されている。

text by Akemi Yoshii
(写真)アムニンダーさんは、各国のシェフが腕を競ったNetflixのリアリティ番組「ファイナル・テーブル」にインド代表として出演した実力派シェフ。ティパイのダイニングエクスペリエンスパートナーとして、施設内のレストラン全てを任されている。

国連が掲げる世界レベルでのSDGs達成において、重要な役割を担うインドで、“サステナブル・ラグジュアリー”をテーマにしたレストランが登場した。その本気度に、まさに夢のレストラン!と注目が集まっている。

2023年10月にオープンした「パラーシュ(Palaash)」は、インド中部、マハーラシュトラ州のティペシュワル野生生物自然保護区近くの宿泊施設「ティパイ-ワイルドライフ・ラグジュアリーズ」に併設されたレストラン。率いるのは、インドを代表する女性シェフ、アムニンダー・サンドゥさんだ。

アムニンダーさんは、パラーシュのようなレストランを作るのが長年の夢だった。
「野外での焚火を使った調理法など、昔ながらの料理テクニックに思い入れがあり、またハイパーローカルなインドの郷土料理を世界に広めたいという強い気持ちがありました。ティパイの創始者であるケユール・ジョシ氏から、“サステナブル・ラグジュアリー”をテーマにするというビジョンを聞いた時、他では味わえない食の体験の場を創る絶好の機会だと思いました」

ここではガスを使わず、伝統的な土のかまど「チューラー」や、地面を掘って作ったアースオーブン、炭火焼器「シグリー」で調理する。どの調理法も直火でじっくり火を通して、素材の風味を最大限に引き出すだけではない。チューラーの燃料となる牛糞は伝統的なバイオ燃料で、アースオーブンは大量にエネルギーを消費するガスオーブンよりも持続可能性が高いのだ。


(写真)ティペシュワル産の竹筒の中で調理した豚肉あるいは山羊肉に、ターメリックの葉で包んで炊いたインドラーヤニーライスを添えたもの。ベジタリアンバージョンはジャックフルーツを使用。
(写真)ティペシュワル産の竹筒の中で調理した豚肉あるいは山羊肉に、ターメリックの葉で包んで炊いたインドラーヤニーライスを添えたもの。ベジタリアンバージョンはジャックフルーツを使用。

食材は広大な敷地を持つティパイ内の菜園で収穫したものや、近郊の提携農園で栽培されたものを使い、農家に直接利益をもたらしている。メニューは、ティペシュワルのテロワールを生かした全7品のデギュスタシオンメニューのみ。地元の伝統料理や、アムニンダーさんが幼少期に過ごしたインド北東部の料理をベースにしており、ティパイの景色の移り変わりを反映し、季節ごとに内容を変える。

レストランの最大の特徴は、スタッフが全員女性だということ。隣村に住む彼女たちは、ガスを使わない調理には慣れていたものの、家庭での料理経験しかなく、最初は戸惑いや不安もあったという。しかし今では、皆仕事に自信と誇りを持ち、生活環境も草の根レベルで変化している。

アムニンダーさんには女性だけのチームで働きたいという夢があった。「私は男性優位の業界で働く女性シェフです。メンバーが少しずつ“ガラスの天井(見えない障壁)”を破ることができるよう応援していきたいです」

鳥のさえずりや木々のざわめきが聞こえる森の真ん中で、炎が舞うように飛び散るのを目の当たりにし、アースオーブンから熱々の料理を一緒に掘り出したり、女性だけのチームとの温かい交流など、ここだけにしかない特別な食体験をするためだけに、インド旅行を計画するのもいいかもしれない。

(写真)パラーシュとは、オレンジ色の花を咲かせるハナモツヤクノキで、レストランは何百本ものパラーシュに囲まれている。モンスーンで倒れた木の幹を建物の構造柱として使い、それをライブキッチンのある森の中にうまく溶け込ませている。テーブルリネンからユニフォームに至るまで、すべて植物染めというこだわりようだ。
(写真)パラーシュとは、オレンジ色の花を咲かせるハナモツヤクノキで、レストランは何百本ものパラーシュに囲まれている。モンスーンで倒れた木の幹を建物の構造柱として使い、それをライブキッチンのある森の中にうまく溶け込ませている。テーブルリネンからユニフォームに至るまで、すべて植物染めというこだわりようだ。
(写真)アンバーディ(ローゼル)の葉、焦がしパイナップル、タマリンド、ホイップした自家製ヨーグルトの前菜。
(写真)アンバーディ(ローゼル)の葉、焦がしパイナップル、タマリンド、ホイップした自家製ヨーグルトの前菜。

(写真)安眠を誘う、ナッツ類とスパイスを合わせた自家製の伝統飲料「タンダーイー」。キンマの葉にビンロウジや香辛料を包んだ「パーン」を串に刺し、タンダーイーに浸して食べる。
(写真)安眠を誘う、ナッツ類とスパイスを合わせた自家製の伝統飲料「タンダーイー」。キンマの葉にビンロウジや香辛料を包んだ「パーン」を串に刺し、タンダーイーに浸して食べる。
(写真)インテリア設計士のAriane Thakore Ginwalaがデザインしたティパイは、2023年、優れたプロダクトデザイナーが選ばれる「エル・デコ インターナショナル デザイン アワード(EDIDA)」のインド版、EDIDA India Sustainable Achievementを受賞した。
(写真)インテリア設計士のAriane Thakore Ginwalaがデザインしたティパイは、2023年、優れたプロダクトデザイナーが選ばれる「エル・デコ インターナショナル デザイン アワード(EDIDA)」のインド版、EDIDA India Sustainable Achievementを受賞した。

Palaash
Tipai – Wildlife Luxuries, Gondwakadi, Maharashtra 445302
☎91-96997-86275
19:00~ (要予約)
デギュスタシオンメニュー 8000ルピー
https://www.wildlifeluxuries.com/

*1ルピー=1.74(2024年9月時点)

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