日本料理を通じた社会復帰プログラム。北イタリアの刑務所で、プロが“和食の授業”を開催
Italy [Lecco]
2025.01.23
text by Mika Hisatani
左より日本料理講師、城戸貴志氏。今回のプロジェクトのスポンサーで、ミラノで和食材の卸業を営むジュン・ジエ・サン氏。「NIPPON FOOD ACADEMY」パオロ・トゥッチ氏。
2024年11月末、北イタリアの街レッコにある「ペスカレニコ刑務所」の食堂は、だしや照り焼きの香りに包まれた。イタリアで初めて、日本料理を通じた受刑者の再教育を目的としたプロジェクトが実施され、8名の受講者が、2日間で合計12時間の和食の授業に挑んだ。刑務所に協力したのはミラノにある調理師学校「ニッポン・フード・アカデミー(NIPPON FOOD ACADEMY)」だ。
初日は代表取締役パオロ・トゥッチ氏による和食の体系的な知識を学ぶ授業。醤油や米酢、柚子胡椒などの日本食材の知識から、“うまみ”や懐石料理の定義まで、日本料理の基礎知識を解説。2日目は同校の日本人講師、城戸貴志氏による実技指導が行われ、参加者たちは「鮭の手巻きずし」「おにぎり」「鶏の照り焼き」「豆腐とわかめのみそ汁」の4品を習得した。三徳包丁で鮭をおろす工程も含み、本格的なコース内容だったという。
スペインの星付きレストランで経験を積み、14年前からイタリアに在住する城戸氏は「この話を受けた時、受刑者たちが日本料理に興味を持ってくれるか心配でしたが、授業では全員が懸命に取り組んでいました。彼らと共に仕事ができたことは、私自身にとっても貴重な経験となりました」と話す。
調理実習では生徒が全受刑者と関係者、合わせて120名に刑務所初の和食ランチメニューを提供。刑務所にいることを忘れてしまうほどの充実した時間だったようで、ニッポン・フード・アカデミーの日本料理基礎コースの修了証を受領した受刑者からは、また実施してほしいという予想以上のポジティブな反響があったという。
翌日には、この前例のない取り組みが地元レッコの数社の地方紙の一面を飾り、料理業界のプロたちが協力した試みが高く評価された。
ペスカレニコ刑務所のルイーザ・マッティーナ刑務所長は、今回の日本料理コースは単なる料理教室以上のものであり、受刑者にとって新しいスキルの習得、自己形成、日本という遠い国、異文化とのつながりを提供する有意義な機会となったことを評価。料理を通じて、他者との連帯感が促進され、外部の世界との新しい関係を築くきっかけになったと強調した。
「食」の力を通じて受刑者の社会復帰、再犯率の低下を目指すイタリア。革新的で多様なプロジェクトの成果に期待が寄せられている。
◎NIPPON FOOD ACADEMY
https://nipponfoodacademy.com/
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