先住民族の伝統を守るために サーミ人のためのトナカイ解体教室
Norway [Oslo]
2024.01.18
text & photographs by Asaki Abumi
(写真)オスロにあるサーミ人のための交流施設「サーミの家」で行われたトナカイの解体教室。ノルウェーでは過去に同化政策が行われ、ノルウェー語を話すことを強制されていたので、参加者の誰もがサーミ語を話せるわけではない。トナカイの部位の名前をサーミ語で学びながら、解体作業を行っていく。
ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ロシアの先住民族サーミにとって、トナカイは特別な存在だ。伝統的な生業であるトナカイの放牧やトナカイ肉を食す文化は、サーミにとってのアイデンティティでもある。
かつては北極圏で暮らしていたサーミ人も、今では都市に移り住む人たちが多い。そんな“シティ・サーミ”のために、2023年11月中旬、オスロにあるサーミ人のための交流施設「サーミの家(Samisk Hus)」で、トナカイの解体・燻製を学ぶ“伝統的なトナカイ料理教室”が開催された。
「夏は野生のサーモン、冬はトナカイを食べたくなる季節」と語るのは主催者のペール・オーラヴ・ニーモさん。「大人のトナカイは脂肪が多いから、煮込むのに時間がかかる。秋冬に子どものトナカイ肉を注文するのが一番だ」
参加者は誰もがトナカイ解体の初心者。ニーモさんの説明に真剣に耳を傾け、試行錯誤しながら自分たちで肉を解体していく。4時間かけて解体作業を終えると、一晩塩漬けにする。
翌日は、オスロ郊外にあるソグンスヴァン湖に集まり、燻製の準備だ。
トナカイ放牧時に使用する、サーミの伝統的な移動型住居ラヴヴォを組み立てると、肉をぶら下げ、その下で焚火をしてそのまま6時間。燻製が完成するまでの間、湖畔で焚火をしながら、トナカイ肉を使った鍋料理などを楽しむ。
講座に参加していた1人であるミッケル・バルグ・ノルドゥリエさんは、オスロ・メトロポリタン大学のシニア研究者として働き、先住民の文化や歴史に詳しい。
「トナカイはサーミ文化において常に重要な存在。移動手段としてだけでなく、トナカイのミルクや肉を利用してきました。トナカイ飼育に関わるサーミ人は、伝統の守り手。食料としてだけでなく、トナカイの皮や骨で作る製品も重要なサーミ文化の一部なのです」
ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアでのトナカイ産業は、今、脅かされているという。「特にノルウェーではトナカイ放牧地であるサーミの土地に、風力発電所が建設され、論争が起きています」
首都オスロで個人がトナカイを丸ごと入手したり、解体方法を学ぶことは簡単ではない。だからこそ、オスロのサーミ協会による料理教室は、トナカイ肉のオーダーから入手、解体、そして活用法まで、サーミの伝統を学ぶ貴重な機会なのだとノルドゥリエさんは話す。
◎Samisk Hus Oslo
https://www.samiskhus.no/
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