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JOURNAL / 世界の食トレンド

ガストロノミーへの期待が高まるベトナムで注目の豪州出身シェフ

Vietnam [Ho Chi Minh City]

2025.03.24

ガストロノミーへの期待が高まるベトナムで注目の豪州出身シェフ

text by Rie Suzuki
「オガワバフンウニ、平貝、グリーン・ドリアンのピクルス、新鮮な蓮の実、サワークワルク、発酵黒豆油」。器の底にはバターミルクで作るフレッシュチーズをスプーン1杯。平貝はサイコロ状に切り、半分は軽く炙り、半分は生のままでワカメ酢、魚醤、黒豆油で和える。北海道産のウニと、グリーン・ドリアンのピクルス、セルタス(山クラゲ)をアクセントに、何層もの風味と食感を楽しむ。

2023年に初の『ミシュランガイド』が刊行されたベトナム。2年目となる2024年は、一ツ星7軒、ビブグルマン58軒の他、地元客が日常的に通う大衆食堂や麺店など、全164軒が紹介されている。

2年連続一ツ星を獲得したレストラン「アクナ(Akuna)」は、ベトナム版ミシュランで唯一の外国人シェフ、オーストラリア出身のサム・エイズベット(Sam Aisbett)が率いる。

オーストラリア・シドニー「テツヤズ(Tetsuya’s)」(現在閉店)でキャリアをスタートした氏は、シェフの和久田哲也氏から料理人としての姿勢を貪欲に吸収し、その後、シドニー「キー(Quay)」で研鑽を積みシンガポールへ。日本人シェフが率いる一ツ星フレンチ「ホワイトグラス(Whitegrass)」では店の立ち上げから参画した。世界各国を旅しながら出会った料理をシームレスに掛け合わせ、オーストラリア原産の食材に焦点を当てながら、モダンオーストラリア料理を新たに解釈したことが評価され、ミシュランの星獲得や、アジアのベストレストラン50のランクインに貢献した。

サム・エイズベット氏
「テツヤズ」和久田氏の下で学んだことが料理観の主軸になったというサム・エイズベット氏。日本の食材や調味料、調理法の研究もライフワークとし、時間ができれば日本各地を訪れているという。

2020年、旅で訪れたホーチミンの混沌とした雰囲気に惹かれた氏は、ベトナムに拠点を移す。南北に長いベトナム各地を頻繁に訪れ、ベトナム土着の食材、ハーブやスパイスを探求し、新たな生産者と出会い、多くのインスピレーションを得ている。

客の6割はアクナの評判を聞きつけて訪れる外国人観光客だ。ミシュランの発刊後は、海外の著名なシェフを客席で頻繁に見かけるという。
「ベトナムの豊かな風土と食材、著しい食の欧米化、地元客の美食の追求など、ベトナムのポテンシャルの高さを確かめに来ているのだろう」とエイズベットシェフ。今後、ガストロノミーの食べ手だけでなく、作り手である料理人をはじめサービスチームの海外からの上陸が早くも待たれる。

豚顎肉のコンフィ、フリーマントル産タコ、ワラ茸のピクルス、白昆布、タケノコ、魚醤
「豚顎肉のコンフィ、フリーマントル産タコ、ワラ茸のピクルス、白昆布、タケノコ、魚醤」。豪州産豚顎肉は塩漬けの後、85℃のチキンブイヨンで8時間茹でる。さらに冷燻してから薄く削った白板昆布で包み、昆布がきつね色になるまでフライパンで焼く。カブのピュレ、緑茶酢などに漬けたワラ茸のピクルスと共に盛り付け、豪州産タコをトッピングに、魚醤のソースをあしらう。
ホロホロ鳥の塩水ポシェ、タスマニア産アワビ、クワイ、白ナスのクリーム、黒ニンニク酢
「ホロホロ鳥の塩水ポシェ、タスマニア産アワビ、クワイ、白ナスのクリーム、黒ニンニク酢」。ホロホロ鳥は62℃の塩水で2時間ゆっくり火を入れ、アワビは殻付きのまま10〜12分間調理後、殻の中で10分休ませることで柔らかな食感に仕上げる。白ナスのピュレ、パリパリに焼いたホロホロ鳥の皮、蓮の茎、クワイを添えた食感に変化のある一皿。
内観写真
50席のオープンキッチンの店内は、深海の中を漂うイメージに設える。

Akuna
9th Floor, Le Méridien Saigon, 3C Ton Duc Thang, District 1, HCMC
ティスティングメニュー(6皿)390万ベトナムドン
https://akunarestaurant.com/

*1ドン=0.0058(2025年3月時点)

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