「ラール・エ・ラ・マニエール」で体感する
テタンジェとガストロノミーの幸福な出会い
2017.12.21
text by Megumi Nishidaphotographs by Hide Urabe
オーナーソムリエ・吉岡慶篤さん秘蔵のワインと、若手実力派・小清水寛美シェフの繊細な料理とのマリアージュに定評のあるレストラン、東京・銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」で、歴史ある家族経営のシャンパーニュ・メゾン「テタンジェ」を体感するMEETUPが11月16日に開催されました。
フランスから急遽スペシャルゲストが2名参加し、秘蔵のシャンパーニュがふるまわれた夜。これまでにない盛り上がりを見せた会の模様をリポートします。
自社畑を多く所有する家族経営のメゾン
だからこそ可能なシャンパーニュづくり
銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」19時。
飾り皿の代わりに置かれたガラスの器には一輪のピンクのバラ。各人がテーブルの中央に置かれた花瓶にバラを移すと、小さなブーケの出来上がり。
すべてのテーブルでブーケが完成したころ、テタンジェ社アジア太平洋地域ダイレクターのニコラ・デリオンさんが挨拶に立ちました。
「テタンジェは大手シャンパーニュ・メゾンとしては稀有な、テタンジェ・ファミリーによる家族経営のメゾンです。家族経営だからこそ、ファミリーの精神を継承し、長期的な視野をもって品質管理ができる。
300ヘクタールという広い自社畑を所有しているのも大手の家族経営メゾンにしては珍しいこと。自分たちでブドウを育てることは、高品質なシャンパーニュを造る上でとても重要なのです。
テタンジェ・ファミリーが長きにわたり守ってきたスタイルは、シャルドネを中心とした繊細さとエレガンス。今日のディナーを通じて、それを感じていただければと思います」。
アペリティフの「ブリュット レゼルヴ」を掲げ、ニコラさんの「乾杯」で宴がはじまりました。
フランスからスペシャルゲストが登場!
実はこの日はフランスからスペシャルゲストをお招きしていました。
ミシェル・ベタンヌさんと、ティエリー・ドゥソーヴさん。
ふたりはフランスでもっとも尊敬されているワイン評論家で、毎年発刊するワインガイド『Bettane + Desseauve』『Le Grand Guide des Vins de Franc』は世界中で高く支持されています。
「偉大なワインと料理のマリアージュの会にみなさんとご一緒できてたいへん嬉しく思います。テタンジェは繊細なスタイルが特徴。今日はそのスタイルと料理のマリアージュを楽しみにしています」と、ドゥソーヴさん。
ベタンヌさんは、「複数年をブレンドしたノン・ヴィンテージは、もっともメゾンのスタイルが出るシャンパーニュ。ブリュット レゼルヴには、テタンジェの十八番であるシャルドネのフレッシュさとエレガンスが見事に表現されています。果実の複雑さと厚みもあるので、アペリティフとしてだけでなく、幅広い料理にも合うでしょう。さらに3~4年くらい熟成させることで、このシャルドネのよさがもっと出てくると思います」と、さっそくワインの解説を始めました。
意外な食材がもたらすマリアージュの妙
ブリュット レゼルヴに合わせ“プロローグ“として供されたのは、オーストラリアから空輸で取り寄せた「グリーンアスパラガスの四重奏」。
通常、アスパラガスをワインに合わせるのは難易度が高いと言われ、メニューを見た時には顔を見合わせていたふたりでしたが、いざ料理を口に運ぶと表情がパッと一変。
「アスパラガスのほのかな苦味と、ブリュット レゼルヴのシャルドネのフレッシュなシトラス風味がとてもよく合いますね。アイスクリームのなめらかな食感はシャンパーニュのなめらかな泡と見事に溶け合っています。アスパラガスがこんなにシャンパーニュに合うなんて!」と大絶賛。
うれしい驚きでプロローグの幕が上がりました。
この日の料理は、小清水シェフ自らテーブルを回って最後の仕上げを施します。
前菜の「さざえのミント風味とリコッタ 蕪のサラダ仕立て」は、添えられたマローという花のソースに仕上げとしてレモンを垂らすと、ソースの色が青く変化するという楽しい仕掛け。そこに合わせたのは、ほのかな甘口の「ノクターン スリーヴァー」です。
「フランスと日本の食文化を合わせた料理です。さざえの肝の苦味は日本ならでは。それをチーズのムースでまろやかに仕上げ、貝の旨味との橋渡しにしました。ノクターンはまろやかな甘みと果実味のコクがありますから、ミントで中和させたさざえの苦味にも対応してくれます」とソムリエの吉岡さん。
「甘味のあるワインというのは、豊かな糖分と調和できる酸味があってこそ完成されるもの。ノクターンはそのバランスが見事です。フランスではこのような甘味のあるシャンパーニュを料理の最初に合わせることは稀。それだけに、このさざえとのマリアージュには目を見張りました。香りが複雑という点も共通していますね」と、ドゥソーヴさんが感想を伝えます。
ロゼ・シャンパーニュで奏でる海と陸のマリアージュ
続いて「シャラン産鴨胸肉と足赤えび、フォワグラのコンソメ ハイビスカスの薫り」には、テタンジェの最高峰、「コント・ド・シャンパーニュ ロゼ」の2000年と2006年が登場。2006年はなんとマグナムでのサーブです。
鴨と海老のジュにハイビスカスの酸味を効かせたコンソメのスープがテーブルで注がれると、華やかな香りがぱっと広がりました。
「コント・ド・シャンパーニュ ロゼは華やかな果実のコクがあるので、魚介だけでなく肉料理とも一緒に楽しんでいただきたくて。2000年は天候に恵まれたリッチな味わい。06年のマグナムは柔らかく熟成されています。ぜひふたつを、飲み、食べ比べてみてください」と吉岡ソムリエ。
「コント・ド・シャンパーニュのロゼがすばらしいのは、ベースワインがシャルドネ100パーセントのコント・ド・シャンパーニュだから。白ワインに赤ワインという香水を足すようなもので、華やかな風味は加わるけれど決して重くはなりません。
シャンパーニュ地方の白亜質土壌由来のミネラル感やフレッシュさが備わったシャルドネの部分は海老に、エレガントで複雑な果実味のピノ・ノワールの部分は鴨に。それぞれの海と陸が見事に調和していると思います」と、ベタンヌさん。
日本とフランス、味わいの共鳴
そしていよいよテタンジェのフラッグシップ、コント・ド・シャンパーニュが。
こちらも2004年と2006年マグナム、ふたつのヴィンテージが用意されました。
コント・ド・シャンパーニュは、シャルドネの名産地であるコート・デ・ブラン地区のグラン・クリュから厳選されたブドウの一番搾り果汁のみで造られ、8~10年という長い熟成期間を経て生まれます。
「テタンジェのシャルドネは、土地からくるミネラル風味とまろやかさの調和が身上。近年は仕上げに糖を加えないドサージュ・ゼロという超辛口が流行っていますが、テタンジェは市場の流行に惑わされることなく、メゾンのスタイルを守り続けている。これこそ、家族経営ならではの伝統の継承といえるでしょう」とベタンヌさんが解説してくれました。
合わせる料理は、「岩手県産ホロホロ鳥のロティとそのジュ エミュルションシャンピニョン」。目の前でシェフ自ら白トリュフを削りかけて完成です。
小清水シェフは、国産のホロホロ鳥を使った理由を
「フランス産よりやさしい味わいですが、日本らしい繊細さを表現すべく、あえて国産を使いました」と語ります。
「コクのあるシャンパーニュに合うよう、マッシュルームをカプチーノ仕立てにして香りを立たせ、ジャガイモのピュレはいつもより練り込んで粘性を持たせました。マッシュルームを敷き、鴨の下には栗ご飯を。白トリュフはシャンパーニュにも共通する風味。全体的に晩秋をイメージしました」
このシェフ渾身のひと皿に対してドゥソーヴさんは、
「ホロホロ鳥に白トリュフというのはクラシックなフランス料理。でもこのお皿には日本人シェフの感性がプラスされ、繊細で、よりディティールに深みのあるものに仕上がっていますね!」と感心しきり。
べタンヌさんも、「塩加減が見事!フランスだと塩は強めにしますが、今日の塩加減は完璧。複雑な深みのあるコント・ド・シャンパーニュ、どちらのヴィンテージにも完璧に合っています」と大絶賛。
ディナーが始まる前には、「“完璧”なんてつまらない。つねに“あと少し”というのがマリアージュでは楽しいのですよ」と言っていたのに、いつの間にか“完璧”を連呼しています。
デザートの「ラ・フランス 薔薇でポワール・ベル・エレーヌに見立てて」には、ふたたび「ノクターン スリーヴァー」が注がれます。
ただし、サービス温度は、最初よりもやや低め。
「最初は料理に合わせるために、冷やしすぎないようにしてワインのコクを引き出しました。今回は洋ナシのクレーム・ダンジュとバラのソルベに酸味があるので、冷やし気味にして酸を際立たせています」と吉岡ソムリエ。
サービス温度を変えることで、料理にもデザートにも合わせることができるというノクターンの懐の深さを見事に表したプレゼンテーションです。
「これなら自宅でもいろいろな料理と合わせて楽しめそう」と、参加者のみなさんにとっても、ヒントとなった様子。
最後にドゥソーヴさん、ベタンヌさんのおふたりに、今日のディナーの感想を伺いました。
「マリアージュについて、かつてルカ・キャルトンのシェフ、アラン・サンドランスはこう言いました。“偉大な料理には偉大なワインが必要、偉大なワインにも偉大な料理が必要“と。今日はまさにそれを体感することができました。フランスやヨーロッパに影響を与え続けてきた日本のフレンチの洗練と斬新さと、それを受け止めたテタンジェの複雑さと品格。両者の見事なマリアージュに感激と感謝しかありません」と、ドゥソーヴさん。
ベタンヌさんは
「この精密さ、細部へのこだわりに集中力を発揮する日本人シェフは本当にすばらしい。味わいだけでなく演出もそう。皿の上にアートがある。今宵のテタンジェとラール・エ・ラ・マニエールの饗宴は、アートの饗宴であったとも言えると思います」と締めくくりました。
そしてニコラさんは、
「みなさんの喜ぶ声を聞けて本当に嬉しい。テタンジェで働くすべての人、醸造家だけでなく、畑で作業する人、ボトルを洗浄する人、トラックの運転手、すべての人たちは、まさにこの瞬間のために、日々、懸命に働いているのです。
さらに、シェフやソムリエはそこからインスピレーションを得て、ワインの可能性をさらに引き出してくれる。今日の完璧なマリアージュをありがとうございました。このような完成度の高い会はめったにありません!」と、吉岡ソムリエと小清水シェフに惜しみない拍手を送っていました。
◎ ラール・エ・ラ・マニエール
東京都中央区銀座3-4-17 オプティカB1F
☎ 03-3562-7955
11:30~13:00LO(火~土曜)
18:00~20:30LO
日曜、月曜昼休
昼コース4000円、5500円、8000円
夜コース10000円、18000円
(税、サービス料別)
東京メトロ銀座駅より徒歩2分
◎ 「テタンジェ」に関する情報
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/