81歳。「余計なことは一切考えない。今、元気であればそれでいい」
生涯現役|「おむすび てしま」手島弘子
2024.12.27
text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima
連載:生涯現役シリーズ
世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。
手島 弘子(てしま・ひろこ)
御歳81歳 1943年(昭和18年)1月10日生まれ
米屋の娘に生まれ、22歳で米の卸問屋の夫と結婚。家業を継ぐ。米の販売だけでは先細りになるからという夫とともに、1968年(昭和43年)頃、焼きたらこ、梅、おかかといったスタンダードな具材から米屋のおむすび屋を始める。その後次々とアイデアを形にしていき、現在は30種類までに。弁当を始めると、テレビで紹介され、SNSでも人気に。弘子さんを目当てに旅行客が立ち寄る。2011年、現店へ移転リニューアル。
(写真)一ミリの無駄のない洗練された動きで、手際よく次々とおにぎりを握っていく手島弘子さん。132センチという小柄な体ながら、がっしりと大きな手で、力を入れずに包むように握る。一日約300個がベース。
おむすびは握らず、ただ転がすだけ。
おむすび、何がいいですか。何でも握りますよ。一番人気があるのは、やっぱり紅鮭。最近の人気はおかかチーズ。芯におかかを入れてむすんで、スライスチーズで包んでから海苔を巻いて仕上げるんです。ふわっとほどけます? あら、よかった。コツは「握らない」こと。手のひらにのっけて、ひょいひょいと2回ぐらい転がすだけで、海苔を巻いちゃうの。
手に塩をつけないで、飯台にご飯を広げて塩をふって、先に合わせておきます。
私、米屋の娘でね、米問屋にいた夫と一緒になって、夫婦で跡を継いだんです。夫はよく勉強をする人で、将来のこともいろいろ考えて、せっかくおいしいお米があるんだからおにぎりをやろうということに。今と違って、当時はスーパーでもおにぎりを売るところは珍しかったの。夫はあちこちのお店に行って研究して、5年後、おにぎりを始めたんです。それが50年以上前のこと。最初は機械でやろうかなと思ってたんだけど、食べてみたらおいしいないの。やっぱり手作りが一番だと思って。
このTシャツの赤いイラストのキャラクター、かわいいでしょ。“ころりん”っていうんだけど、おむすぴ屋がスタートするとき、私をモデルに知り合いの代理店の人が作ってくれたんです。あの頃、こんなお団子みたいな髪型してたから(笑)。そんな昔にできたものとは思えないでしょ。そのキャラクターを今もずっと使ってるんです。
当初はここの5、6軒先で、長男と私たち夫婦でやってたんです。このあたり、学校もあるし、駅に近いこともあって、通勤通学の行き帰りに立ち寄る方が多くて、ありがたいの。
夫は精米中に腰を痛めて以来、家にこもりがちになって、長男は米屋のほうで、健康米ぬかを販売する仕事をするということで、次男と私がメインでやることになったの。米の販売はもうやってないんだけど、「おむすび てしま」のお米は、次男が精米してくれています。そう、うちのおむすびは精米したてのお米で作るから、おいしい。お米は新潟は胎内市の特別栽培のコシヒカリ。海苔は佐賀海苔を使っています。
お店を始めてから1日も休んだことはなかったの。よくやって来られてたねってくらい。それで、5年ぐらい前にやっと木曜日を定休日にしたんです。年とともに、立ち仕事だから、腰が痛くなったり、どこかが痛くなるでしょ。でも、ここに来るとスイッチが入るのか、しゃんとする。お客様には笑顔で接しなきゃいけないしね。
だいたいが、悪いことは忘れてしまうの。過去を振り返らない。余計なことは一切考えない。今、元気であればいいというタイプなんです。だから、長く続けられるのかも。
ただね、大きな変化は、長年の立ち仕事のせいなのか、背中が曲がってきちゃって、もともと148㎝あった身長が年とともに縮んできて、今は132㎝になっちゃった。だから、踏み台にのっておむすびを握ってます。
自宅はこの上だから、毎朝5時頃起きて夫の食事の支度したら、すぐにここへ。バナナ食べて、薬飲んで、仕事を始めます。具材の仕込みなんだけど、たらこはフライパンで軽く煎る。おかかはかつお節を手でもんで細かくしてから、お酒と醤油で40分ぐらい煮てます。どなたにも好かれる肉そぼろ、うちは豚肉を使ってて、炒めて卵も入れて甘辛く煮てますね。鮭は焼いて身をほぐしておく。そんなふうに下ごしらえをしておくの。
毎日300個ぐらい出るんだけど、大きな注文が入った時は、500〜600個ぐらいになるかしら。そんな時は、息子は3時半頃から仕込みを開始。私は少し遅れて入ります。
昼は軽くつまむ程度。夜は夫と一緒に食事します。サラダは必ず食べるようにしてるんだけど、ご飯は夜はあまり食べないわね。毎晩、テレビが楽しみで、月曜日はこれ、火曜日はこれ、と見る番組をメモしてある(笑)。小さいときから歌が好きで、レッスンも受けてたの。演歌とかシャンソンとか、歌は何でも好きですね。
とりあえず、健康でいられればいいなと思ってます。看板ばあちゃん、まだまだ頑張ります。
毎日続けているもの「おむすび」
◎おむすび てしま
東京都調布市仙川町1-12−12−12
☎03-3307-5649
7:30~17:00(日曜、祝日は9:00~16:00)
木曜休
Instagram:@omusubiteshima
(料理通信)
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