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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

生涯現役シリーズ #09

85歳の料理人。「働くことは大事。寝よったらいかんです」

高知「ともよし屋」和田唯由(わだ・ただよし)

2021.10.07

和田唯由(わだ・ただよし)

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢化社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


和田唯由(わだ・ただよし)
御歳85歳 1933年(昭和8年)10月12日生まれ
「ともよし屋」

高知生まれ。学校を出た後、18歳で高知市中心部の居酒屋に入り、下積みをスタート。1973年、「ともよし屋」をオープン。店名の由来は、妻と娘の名前にある「智(とも)」と自分の名前の「由(よし)」を掛け合わせたもの。「私は妻の下に入りましょうとなりましてね(笑)」(和田さん)。趣味はカメラ。現在、孫が弁当作りの修業中。

(写真)皿鉢料理を仕込み中の、「ともよし屋」主人・和田唯由さん。昔に比べると皿鉢料理の需要は減ったが、暮れや正月は忙しい。繁忙期は旅館や料亭から助っ人を呼ぶのがお決まり。今年(取材時2019年)の正月は盛り付け役も含めて、3人が手伝いにきてくれた。


調理場で倒れるのが本望。

皿鉢(さわち)料理は、山・川・海に囲まれた高知の郷土料理。刺身や鰹のタタキにすし、それから揚物、煮物、酢物などを組み合わせて、宴会や法事なんかで、大人数で囲んで味わうものとして伝わってきました。

皿鉢はね、単なる料理やない。ご馳走です。バブル時代は、皿鉢をはじめ仕出し料理がよう売れた。1日に500~600枚出たこともあります。3日間寝ずに作業したこともあったなあ。昔ながらの皿鉢は、海、山、川の食材を使う。品目は基本的に7品で、うち3品は生物(なまもの)じゃないもの。ただ今は、そんなルールもどこかに消えて、出来合いのものをアレンジした皿鉢が増えてしもうたね。若い料理人も、皿鉢を作りたいという人はほとんどおらんなった。だから今は、皿鉢をつくる板前が育てられない時代です。

うちで言えば、昔から客がほとんど変わってない。長く続く客と離れていく客との違いは、文句を言ってくれるかどうか。長い客ほど、「こないだの煮物、ちょっと薄かったで」とか、文句を寄せてきてくれる。離れていく客ほど、何ちゃあ言わずに、次の注文が来んなります。だからうちは、客に支えられてここまで来られました。

私は、高知県東部の芸西村(げいせいむら)出身でね。6人兄弟の長男で、常にお腹を減らしちょったき、将来は食べるものを作る仕事に就こうと思うた。そしたらお腹も膨れるやろうと思ってね(笑)。それで18歳で修業に入ったのが、当時、高知市中心部にあった居酒屋。そこで住み込みで働き始めました。入って4~5年は、皿洗い担当。その後、リヤカーを引いて出前の配達を担当してました。皿鉢は大きいき、リヤカーやと10枚ぐらいしか乗らん。遠方へもリヤカーに自転車を付けて、届けに行ってましたよ。働かせてもらう以前に、料理を習うのが目的やったき、給料はほとんどもらえません。やけど「いつか自分も店の主人になりたい」という一心で、下積み時代を過ごしました。

皿鉢料理(一皿1万4千円・税込)。品目は、客の好みに応じて変える。

皿鉢料理(一皿1万4千円・税込)。品目は、客の好みに応じて変える。


この店を始めたのは46年前。独立する時、修業しよった店の主人が軍資金として100万円くれました。ほんまにようしてもろうて、感謝してます。「こりゃあ頑張らんといかん。やるからには、修業した店を追い抜いちゃろう」と思いました。それからは妻と二人三脚で店を切り盛り。うちは仕出し屋やけど、皿鉢を作りながら、店ですしや惣菜も売ってました。それが評判になって、遠方からわざわざ買いに来てくれる人もようけおった。あんまりよう売れて忙しいき、休んだ時期もあったけど、今はまた再開。赤字覚悟の原点回帰で、350円と700円の寿司弁当を出してます。これまで儲けさせてもらった分のお返しやね。

皿鉢の注文が入った日は、朝5時に市場に魚を仕入れに行きます。店の仕込みは7時頃から開始。午前中に仕込みを終えて、注文の時間に合わせて配達に行きます。朝ごはんは食べんねえ。お腹がいっぱいになったら疲れるし、食の商売はできん。日中お腹が減ったら、近くで弁当を買うて食べます。

家族からは「そろそろやめたら」と言われるけど、調理場で倒れるのが本望。注文があるうちは続けます。働くことは大事。寝よったらいかんです。


毎日続けているもの「皿鉢料理」

◎ともよし屋
高知県高知市新本町1-14-35
☎0888-72-0538
11:00~18:00
不定休
JR高知駅より徒歩5分

雑誌『料理通信』2019年5月号掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです

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