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PEOPLE / 生産者・伴走者

南房総で自給自足&セルフビルドな暮らしを求めて。

千葉「アンベッサ・アンド・コー」君島悠矢

Jan 31, 2022

text by Sawako Kimijima / photographs by Ayumi Okubo

【若き生産者の声から食を考える】

何があっても生きられる。どこへ行っても生きられる。――「アンベッサ・アンド・コー」の君島悠矢さんが実践するのは、生きる力を養う暮らしです。オーガニックのドライフルーツやスパイスの輸入販売と並行して、米、麦、野菜、果物などを無農薬・無化学肥料で栽培。3年半がかりでセルフビルドした店舗は「山の土、海の砂、間伐材や廃材、茅、籾殻など、資材は身の周りにあって土に還るものばかり」。自給自足に近づこうとするその生き方は、これからの時代へのメッセージと言えそうです。


君島悠矢(きみしま・ゆうや)
1977年、東京都深川で生まれる。父親の仕事の関係で京都、仙台などを転々とし、小学3年生以降は八王子で育つ。サラリーマンを回避すべく、アルバイトでお金を貯めては海外をバックパッキング。中米、中東、アジアの国々を回る中で自然と共生する生き方に触発される。チュニジアで出会ったデーツをきっかけとして、2010年、ドライフルーツの輸入販売を手掛け始め、千葉県の房総に移住して現在の暮らしを築いてきた。


問1.どんな農業を営んでいますか?

無農薬・無肥料。地力で育てる。

輸入卸売りとはいえ、品物を右から左へ流すような仕事は許されないと思っています。作物を作るということがどういうことか、身をもって知らずして、人が作ったものを扱ってはいけない。でなければ、相手の仕事を真に理解することはできないだろうし、対等な立場に立てない。米や麦を栽培する背景にはそんな思いがあります。

房総半島の先端に近い南房総市の千歳駅から徒歩7、8分ほどの場所。敷地の一角に建てた店舗「アビシニア」では、ドライフルーツやナッツ、スパイスの量り売りのほか、志を同じくする人たちが作る生活雑貨も。妻のあぐりさんが、パン、焼き菓子、シュトーレンなどをバックヤードのキッチンで製作。

米作りを始めたのは2010年ですから、もう10年以上続けていますね。休耕田だった棚田を手入れして、苗を植え、なるべく自然に近い状態で育ててきました。千葉県いすみ市で自給自足の暮らしを営む「R工房」の佐野洋夫さん――僕が心から尊敬する人です――の手ほどきです。

苗代田に籾種を蒔いて苗を作り、一本ずつ手植えするという昔ながらのやり方で、農薬はもちろん、肥料も一切使用せずに栽培します。最初は「こんなやり方でできるかな?」と半信半疑でしたが、考えてみれば水稲は日本の風土に合った作物で、農薬が登場するずっと前から栽培されてきたのだから、できないはずがない。肥料を与えず、草取りもせずに地力のみで育てた稲の力強く美しい実りを見た時、この米は土と太陽、自然の営みの恵みであると感謝の気持ちで満たされました。

収穫量は慣行農法と比べると1/2強。しかし、慣行農法の米作りは、種子の消毒、田植え後の除草剤散布、収穫前のドローンでの農薬空中散布など、農薬とセットという側面が否定できません。農薬を使うことが当たり前になり過ぎていやしないか? 持続可能性を考えたら、収量は少なくても農薬は使わないという選択にもっと目を向けるべきではないかと思います。

水田が1反5畝、麦畑が1反。昔ながらの栽培法で、コンバインは使わず、バインダーとハーベスターで収穫する。
photograph by Yuya Kimishima

水はけが悪い田んぼでは2020年からマコモダケを栽培。同年は99%イノシシに食べられてしまったが、2021年は大豊作。
photograph by Yuya Kimishima

数年前、岡山の吉備中央町で自然素材による染めと仕立てを手掛ける「マキマロ」さんから分けていただいた一握りのライ麦を、南房総の気候や土壌に馴染ませるように増やしてきました。やはり無農薬・無肥料です。収穫した麦は、妻のあぐりがシュトーレンやライ麦ブレッドの原材料として使います。茎はストローに、根っこや穂先や葉っぱは土に戻して土壌の栄養に。すべてを活かし切り、シュトーレン作りがひと段落する頃にまた翌年の種蒔きが始まります。1年かけて自然のリズムでゆっくり作り上げる、作物の生命力を詰め込んだシュトーレンです。

僕たちのライ麦栽培を見て、「このライ麦でウイスキーが造れないだろうか」と発想したのが、千葉県大多喜町(おおたきまち)「Mitosaya薬草園蒸留所」の江口宏志さん。2018年からは江口さんや地元有志のメンバーと一緒にライ麦栽培に取り組んでいます。畑を拡げて、2021年には150kgという量を良いクオリティで収穫できるようになりました。

脱穀した後の麦の茎はストローに。切り揃えて煮沸消毒して乾燥させてから包装、と手間がかかる。栽培量が増えたため、2020年からは館山市、大多喜町、いすみ市の福祉作業所に託している。

シュトーレンには、自家栽培のライ麦、アンベッサのドライフルーツ、mitosayaの蒸溜酒などが使われている。毎年心待ちにするファンが多い。


問2.どんな暮らし方をしていますか?

生きる力を養う暮らし。

生きる力と稼ぐ力は別物だと思っています。
現代社会は、お金を稼ぐことで生きるスキルを埋めているように見える。生きていくために本来できていなきゃいけないことができていない。身体のメンテナンスも他人に投げている人、多いですよね。

私は、生きる力を身に付けたいと思い、このような暮らしを選んできました。
百姓になりたいんです。江戸時代、百姓は農業以外の複数の生業を持つことで家計を維持していたそうです。でも、明治以降は生業が農業に集約されて、百姓は農家へと変化していったと言われます。僕はいろんな生業を持っていた頃の百姓でありたい。

今の暮らしの始まりは、世界各地を貧乏旅行していた20代にラスタファリズム(1930年代にジャマイカの労働者階級と農民を中心にして発生した宗教的思想運動)のコミューンを訪ねたことがきっかけでしょうか。コーヒーの仕事がしたかった僕は、メキシコ、グアテマラ、チュニジア、エジプト、エチオピア、イスラエル、パキスタン、インドといった国々を回る中で、ラスタファリズムの原始的な感覚を大事にした暮らしを知りました。彼らの自然と一体化した生き方、心の底から笑う笑顔を見ていて、人間も自然の一部として生きるべきだと思うようになった。
旅を通して、チュニジアのデーツなどのフルーツのクオリティの高さを知り、チュニジアやパキスタンのオーガニックドライフルーツを輸入しようとアンベッサ・アンド・コーを立ち上げたという経緯です。

アンベッサのドライフルーツは風味も食感も鮮烈。君島さんのサステナブルな生き方や考え方に加えて、味わいに魅了されて愛用するレストランやカフェが多い。

自然環境への負荷を考慮した店を自分で建てよう。自然に還る素材と手仕事による自力建設をサポートする千葉県いすみ市の「光風林(こうふうりん)」の指導を受けて、建設に取り掛かったのが2015年3月。3年半がかりで2018年9月に完成しました。山の粘土、海の砂、間伐材や廃材、茅や籾殻など、身の回りの素材を建材として使っています。自分で建てているから、修繕はもちろん、リサイクルも自然に戻すのもこの手でできる。土に還る店です。

「光風林」の指導を受けながら、設計も施工も自分自身の手で行なった。このイラストも君島さんが描いた。

外観、店内、共に光と温もりに溢れ、のんびり過ごしたくなる空気が漂う。

敷地内に牛舎を改造した建築資材置き場兼加工場がある。

また、2019年の台風被害を受けて、現在、店舗横のガレージをオフグリッド(電力会社の送電網につながっていない状態。電力を自給自足している状態)のコミュニティスペースに改造中です。屋根に太陽光パネルを設置して自家発電するほか、井戸水の供給、コンポストトイレのインストールなど、災害時には活動拠点としての役割を担える機能を持たせようとしています。

食品残渣、排水、排泄物に責任を持ち、自然のサイクルに戻していくことは、持続可能な生活を構築するために不可欠のファクターでしょう。人類はいつからか自然の循環の輪から外れてしまったのではないかと危惧するのです。

製作中のコミュニティスペースに設置したコンポストトイレ。
photographs by Yuya Kimishima


問3.これからの食のあり方について思うこと。

自分でできることを増やしていく。

田んぼの近くに里山を借りています。ウメ、ビワ、ユズ、ミカン、ハッサクなどの樹が生えていて、ドライフルーツにしたり、自分たちで食べたり、友人に配ったりしていましたが、Mitosayaの江口さんがそれらの果実で蒸溜酒を造るようになりました。ビワは年によっては100kg以上も採れる。ドライフルーツにするのがむずかしいビワが蒸溜酒として活かされるのは理想的です。

里山は、何かあった時の食糧庫であり、燃料庫でもあります。自分で木を切り倒して、丸太に割って、薪にしたり、その気になれば何でも作れる。樹々が過密であれば間引くなど手入れは必要ですし、ちょっと目を離すとすぐに荒れますが、山椒を植えるといった楽しみもあります。

里山のみかん畑の中にミツバチのための巣箱を置いた。2020年は棲みついたが、2021年は入らなかった。

2019年の台風の時には、水はけの悪い田んぼが手の付けられない状態になり、心が折れて収穫に至らないという経験をしました。大豊作になると、それはそれで収穫に追われて翌年の準備に取り掛かれない状況に陥る。季節的なリミットがあって、先延ばしが許されないのが農業です。ほどほどにしないときりがないと思うこともありますが、自然と調和した環境と方法で育った作物は生命力に溢れ、おいしくて健康的。私たちの健康だけでなく、地球の環境も守り、それを次世代に残すことにもつながります。

何があっても生きられる、どこへ行っても生きられるよう、食べものも住まいもできるかぎり自分の手で形にしてきました。自分で何でも作るようになると、ゴミが出ないことに気付きます。流通させようと思うから、包装する必要ができて、ゴミになる。みんなが少しでも自分でできることを増やしていったら、人類が抱えている問題の何割かは負荷を減らせるのではないか、そんなことを思ったりしています。


◎AMBESSA & CO
http://ambessa.jp/

◎オーガニック・グロッサリー アビシニア
千葉県南房総市白子671-1
Tel&Fax 0470-46-2880
基本的に木曜・金曜・土曜の12:00~17:00 OPENだが、当面の間、土曜のみの営業。
詳細はhttp://ambessa.jp/flagship/index.phpで確認のこと。



シリーズ「新・大地からの声」

新型コロナウイルスの感染拡大は、「食のつながり」の大切さを浮き彫りにし、「食とは生命の循環である」ことを強く訴えました。
では、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の声に耳を傾けよう。そんな思いで、2020年5月、スタートさせたのが「大地からの声 新型コロナウイルスが教えようとしていること。」です。
自然と対峙する人々の語りは示唆に富み、哲学者の言葉にも通ずる深遠さがありました。

コロナ禍が新たな局面へ転じようとしている今、もう少し幅広く「私たちの食はどうあるべきか?」を共に考えていくシリーズにしたい。そこで「新・大地からの声」としてリニューアルを図り、若き生産者たちの生き方・考え方をフィーチャーしていきます。

<3つの質問を投げかけています>
問1 どんな農林漁業を営んでいますか?
問2 どんな暮らし方をしていますか?
問3 これからの食のあり方について思うこと。

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