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RECIPE

温めながら身体を冷やす【夏の薬膳/生涯現役レシピ】

2023.07.03

温めながら身体を冷やす【夏の薬膳/生涯現役レシピ】

photographs by Tsunenori Yamashita

連載:生涯現役レシピ

生涯現役の秘訣は食にあります。食事で身体の調子を整える習慣が、健康寿命を延ばします。食材が持つパワーを知って、上手に日々の食事に生かしましょう。薬膳料理家の村岡奈弥さんから夏に食べたいシニアミールを教わりました。

目次






村岡奈弥(むらおか なや)さん

村岡奈弥(むらおか なや)さん
薬膳料理研究家、中医薬膳師、国際中医師、NPO法人キャンサーリボンハウス委員。調理学校に勤務後、渡仏してフランス料理を学ぶ。国立北京中医薬大学日本分校食養・養生学科を卒業。「中医薬膳師」「国際中医師」の資格を取得。雑誌・テレビ・新聞、講演会などで薬膳を広く伝える。著書に『いつもの野菜で薬膳する! 』(講談社)、『おいしい! キヌアレシピ―アンデスのスーパーフード』(成美堂出版)など。


“温めながら身体を冷やす”夏の薬膳

とりわけ高齢者にとって厄介な夏がやってきました。冷房を入れなければ生命に危険が及ぶほどの暑さ、でも、冷房が効き過ぎると身体が冷えてしまう。ジレンマに悩まされる季節の到来です。加えて、冷たい料理や飲み物ばかり摂って、さらに身体を冷やしてしまうという事態に陥りがち。

そこでお薦めしたいのが、身体を冷やしてくれる働きのある野菜をあえて温かく食べる料理法です。

キュウリやナスには、熱を取り除き、かつ利尿作用によって余分な水分を排泄させてむくみを改善する働きがあります。また、ミョウガとショウガには、発汗作用と同時に胃や肺、四肢を温める働きが。これらの野菜をサラダではなく炒めて摂れば、お腹は冷やさずに全身の熱を冷ますことができます。

夏の薬膳

ナスの皮に含まれるナスニンというポリフェノールは血流を改善し、トマトにも熱を取り除いて血の巡りを良くする働きがあります。

日本人は昔からキュウリやナスを食べる時によく味噌を使ってきました。実は、味噌は身体を温める食材。知らず知らずのうち“温めつつ冷やす”という摂り方をしていたんですね。

夏の体調維持には野菜を上手に活用

以前、ゲートボールに集うお年寄りがキュウリの糠漬けを持参するという話を聞いた時、「なんて、すばらしい知恵!」と感動したことがあります。水分を野菜で補給する、しかも糠漬けだからミネラルも摂れる。一石二鳥のおやつと言えます。

熱中症にならないよう水を飲むことも大切ですが、夏の体調維持に野菜は有効です。キュウリに味噌を付けて、トマトに塩をふって丸かじりする夏の風物詩は、理に適っているんですね。

ごく短時間でさっと炒める調理法は、野菜のみずみずしさを残しながらも、お腹は冷やさない点でお薦めです。炒め油には身体の熱を冷ます働きのあるオリーブ油を、調味にはミネラル分の多い天然塩を使うのがよいでしょう。


“冷やす”と“温める”を組み合わせる。「きゅうりのシャキシャキ炒め」

きゅうりのシャキシャキ炒め

【材料】(2人分)
キュウリ・・・1本
ミョウガ・・・2個
新ショウガ・・・30g
大葉・・・5枚
E.V. オリーブ油・・・適量
天然塩・・・適量

【作り方】
[1]キュウリは細切り、ミョウガは縦にスライス、新ショウガは針生姜に、大葉は細かいせん切りにする。
[2]フライパンを熱し、オリーブ油を流し入れて、塩をひとふりする。
[3]新ショウガをさっと炒める。
[4]続けてキュウリを加え、ほんの数十秒炒める。温まればよいくらいの短時間でOK。

キュウリを加え、ほんの数十秒炒める

[5]ミョウガを加え、塩で味を調えて、すぐ火から下ろす。
[6]器に盛り、大葉をあしらう。

【薬膳のポイント】
キュウリ、新ショウガ、ミョウガという夏らしい野菜の取り合わせは清涼感たっぷり。調味は塩のみ、野菜自体の風味が食を進める。

●キュウリ
熱を取り除く。水分補給し、余分な水分は排泄させて、むくみ改善にも。

●新ショウガ
発汗作用がある。胃を温め、肺を温める。解毒の効果も。

●ミョウガ
身体を温める力があり、気や血のめぐりを促し、四肢や胸腹部の冷えに。


“巡らせる”と“補う”をバランス良く。「茄子のソテー トマトソース風味」

茄子のソテー トマトソース風味

【材料】(2人分)
ナス・・・2本
ミニトマト・・・8個
豚挽き肉・・・80g
ニンニク(みじん切り)・・・小さじ1
サフランパウダー・・・2つまみ
セージ・・・2本
天然塩・・・適量
E.V.オリーブ油・・・適量

【作り方】
[1]ナスは約1cm 厚さの輪切りに、ミニトマトは縦横8等分に切る。セージは1本半を粗みじんに切って、残りは飾り用に取っておく。
POINT:ナスは切りたてを、水にさらさずに使う。

[2]鍋にオリーブ油とニンニクを入れて弱火で熱し、ニンニクが色付き始めたら、豚挽き肉を加えて中火でしっかり炒める。

[3]サフランを加え、トマトと粗みじんに切ったセージも加えて、中弱火で炒め続け、水分が少なくなったら塩で味を調える。

[4]フライパンにオリーブ油を熱し、ナスを並べて、中火にかける。塩を少量ふって、薄く色が付いたら裏返す。表面に水分が浮いてきたら、器に盛り、3を上からかける。残りのセージをあしらう。

【薬膳のポイント】
ナスは油を吸い過ぎずに歯応えが残るよう、短時間で焼き上げる。利尿作用のあるナスと体液を補う豚肉を組み合わせ、“巡らせる”と“補う”をバランス良く。

●ナス
熱を取り除く。利尿作用でむくみを取る。血流改善。脾の機能を高め、胃を整える。

●トマト
熱を取り除き、身体を潤す。胃の働きを高めて、消化促進。

●豚肉
陰液(血液、体内の水液)を補い、臓腑を滋潤する。


◎村岡奈弥料理教室
https://naya-muraoka-yakuzencook.com/

(雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)

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