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RECIPE

時間にしか作れない味がある。「グリーンピースのトリフォラーティ」

スローレシピ06

2022.11.17

Text by Michiko Watanabe / photographs by Hide Urabe

連載:スローレシピ

材料をイチから用意し、時間をかけて、料理すること自体をゆっくりと楽しむ。それが“スローなレシピ”。時短とは真逆の価値観の先に、とびきりの味が待っています。寒くなってきた今月は、体も心も温まる、スローな煮込みレシピを紹介します。

教えてくれたシェフ
東京・富士見ヶ丘「バーカロ・フェッロ」河合麻希さん

東京都練馬区出身、日本大学芸術学部卒。2011年、東京「三鷹バル」が開いた2号店「バーカロ・フェッロ」の店長に。オープン前に現地でマンマが自宅で開く料理教室でヴェネトの味を学び、すっかりヴェネトフェチになって帰国。2016年に現在地に移転し、独立した。


違いは歴然!「時間」が担う味の領域

店名のバーカロは、ヴェネツィアの立ち飲み居酒屋(奥にはテーブル席も)のこと。朝から目覚めの一杯をあおる人もいるが、お酒を飲むだけの場所じゃなく、お昼どきにはランチもできるし、何より、近所の仲間との社交場としての存在が大きい。東京でバーカロを開くためホームステイをしながら50軒以上を巡った河合さん。バーカロでは、京都のおばんざい屋さんのように、ずらりと並ぶチケッティ(おつまみ)を食べ学び、ステイ先では、マンマと一緒に毎日の食事を作った。それが3カ月滞在した時の料理のレッスンになった。

ヴェネツィア料理の特徴は「茶色っぽい地味な料理。でも、おいしい」と、河合さん。ヴェネト州はヴェネツィアに代表される海に面した地域から、冬は雪が降る高地までバラエティに富む地形。新鮮な魚介類に加え、タラなどの塩蔵魚や干物なども豊富。内陸に入れば、農業も酪農も盛んなので、ワインはもちろん、米や野菜、果物、チーズなどにも恵まれた地。お菓子もバラエティ豊か。稲作地帯もあって、パスタよりも米。リゾット、そして、トウモロコシの粉で作るポレンタが主食である。

河合さんが、3人のマンマから教わったことで一番印象に残っているのは、「パツィエンツァ=忍耐、我慢」ということだった。3人が3人とも、よく口にした。そして、「早まるな!」と。もういいかなぁと思っても、「まだまだ」とよく言われた。皮をむいたり、骨を取ったりと、下処理にもかなりの時間をかける。マンマの料理は大雑把なのかと思いきや、仕事がとても丁寧なのだ。かけるべき手間はきっちりかける。切り方一つにしても、よく考えて仕事をする。たとえば、「バッカラ・アッラ・ヴィッツェンチーナ」、干しダラの煮込み。干しダラを数日かけて戻し、牛乳とアンチョビーとタマネギでゆっくりと煮たものだ。このタマネギをソースの食感のアクセントにするので、煮込んでも形が残るように切る。切れない包丁でザクザク切っているようで、マンマには料理ごとに決めごとがあるのだ。

でも、一番のポイントはやはり「時間」。時間がおいしくしてくれる料理が多いことだ。ずーっと火のそばにいなくて、たまにチェックしてあとは放っておけばいいプロセスがあるというのは、マンマにとっては知恵でもある。驚いたのはポレンタの作り方だ。ポレンタは、物語に出てきそうな大きな銅鍋で、今でも作っている店があるという。河合さんが大好きなバーカロ「ド・モーリ」の天井には、その鍋がいっぱいぶら下がっているのだとか。家庭ではもちろん鍋で作る。

日本人は鍋底にポレンタがくっつくのを恐れて、超弱火で作ってしまいそうだが、「見た目はきれいなんですけど、味がボケる。それに香りが出きらない」と、河合さん。「鍋底にくっつかない弱火」ではなく、「鍋底にくっつくくらいの弱火」で炊いていく。日本人にはちょっと勇気が要りそうだが、この鍋底のポレンタが、最後はおいしいおまけになってくれる。「ずっと混ぜてなくても、仕上がりはそんなに変わらない」という、ずぼら主婦にはありがたいお言葉も。逆に言えば、できた、と思ってから20分の「我慢」さえできたら、それだけで、もうヴェネトの味になるのである。そんな我慢なら、いくらでもします。

我慢は、野菜の蒸し煮「トリフォラーティ」にも南蛮漬けにも必要だ。というか、トリフォラーティも南蛮漬けのタマネギも、時間が「味に深みを増してくれる」。そして、時間をかけるからには、ではないけれど、展開できやすいものばかりだ。今日はそのまま食べるけど、明日はリゾットかパスタにする、明後日は卵焼きに、といったふう。「どれも、ひじきの煮物のようなもの。常備菜なんです」。時短の反対、“時長”料理には、マンマの知恵が生きていた。



<イタリア式スローレシピのコツ>
トリフォラーティは野菜の蒸し煮です。タマネギのみじん切りを炒め、たとえばズッキーニやキノコ、パプリカなら水は足さず、野菜の水分だけで蓋をして1~2時間煮込みます。5 分もあれば火の入る野菜をなぜ長時間煮込むのか? イタリアの味にするために必要だからです。グリーンピースは青臭さが完全に抜け、砂糖入れた?と疑われるほど甘くなります。最初にオリーブ油をきちんとたっぷり使うこともマンマの常識です。 

「グリーンピースのトリフォラーティ」の材料と作り方

【材 料】
グリーンピース・・・250g ※グリーンピースは冷凍でOK
タマネギ(みじん切り)・・・1/3個
E.V.オリーブ油・・・50g~60g
水・・・適量
バター・・・2g
塩・・・小さじ1弱

【 作り方 】
[1]タマネギを炒める
フライパンにオリーブ油を入れ、タマネギが透き通るまで中火で炒める。
POINT:オリーブ油はたっぷり。

[2]グリーンピースを加える

グリーンピースを加え、水をひたひたに加える。

[3] 蓋をして煮る

蓋をしたらすぐ弱火に落とし、水分がなくなるまで煮込む。1時間半が目安。
POINT:水分の多い野菜の場合は水を加えない。

[4]バターと塩を加える
10分前に蓋を取って木ベラで混ぜ、水分がなくなったら、バターと塩を加え、さらに煮込む。

5分もあれば火の通るグリーンピースを1時間以上蒸し煮に。その先には、時間にしか作れない、感動の味が!


【展開例1:フリッタータ】

溶き卵に塩とトリフォラーティを加えてよく混ぜ、厚さ2cmほどに焼き上げたフリッタータ。しっかり火の入ったトリフォラーティはフリッタータの味わいに深みをプラスする。

【展開例2:リゾット】

米をよく食べるヴェネトでは、チーズの入らないリゾットも多い。タマネギを炒め、米(ササニシキ)を炒めたら、トリフォラーティとひたひたの野菜のだしで炊く。

【さらに展開:アランチーニ】

ヴェネトのバーカロではリゾットは作り置いて、温めて出すのが一般的。余ると、翌日はゴルフボール大に丸め、パン粉を付けて揚げる。食べ物をおいしく食べきる知恵の象徴だ。



◎バーカロ・フェッロ
東京都杉並区高井戸西1-33-12
富士見ヶ丘センタービル101
平日17:00~22:00
土曜16:00~22:00
日、月、木曜休
京王井の頭線富士見ヶ丘駅よりすぐ

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2016年10月号掲載)

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