2030年までに100%カーボンニュートラルを目指して。
オージー・ビーフが取り組むサステナブル・フレームワークとは?
2019.03.29
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2015年9月に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が採択されて以来、日本でも「食」にまつわるサステナビリティが語られる機会が増えてきました。
その好事例として、今春2月14日、幕張の国際会議場で開催された「オージー・ビーフ サステナビリティ フォーラム2019」をリポートします。
オージー・ビーフの大消費国、日本との相互協力。
このフォーラムを主催したのは、MLA豪州食肉家畜生産者事業団 (以下、MLA)。オーストラリアの牛肉業界は、2030年までに100%カーボンニュートラルという意欲的な目標をたて、環境、アニマルウェルフェア、社会、経済の各分野における透明性のある活動を行っていくことを表明しました。
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フォーラムの進行役を務めたMLA駐日代表のアンドリュー・コックスさん
このフォーラムでは、オーストラリアの牛肉産業が現在取り組んでいるサステナビリティに関する経験や見識を、オーストラリア産牛肉の最大輸入国である日本の主要顧客に開示し、日本側の取り組みをも共有することで、相互協力して地球規模の課題に取り組むことを確認する場となりました。
オーストラリアは世界の牛肉五大輸出国の一つであり、輸出先の第1位はなんと日本。オージー・ビーフは今や、日本人の食生活に完全にとけ込んでおり、その安全性やサステナビリティへの取り組みを知ることは、消費国日本にとって非常に重要です。
フォーラムの冒頭でMLA駐日代表のアンドリュー・コックスさんが紹介したオーストラリア牛肉産業の取り組み「サステナビリティ・フレームワーク」は、日本の牛肉産業のロールモデルになるものであり、また「食」のサステナビリティの理想的なあり方を考えるうえでも最適なテキストとなる示唆に富むものでした。その内容の抜粋をここにご紹介しましょう。
環境、社会、経済、そしてアニマルウェルフェアに対して責任ある牛肉生産を。
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オーストラリアの牛肉産業は2017年4月、「サステナビリティ・フレームワーク」(持続可能性に関する枠組み)を発足させました。世界の主要牛肉輸出国として、地球規模の重要課題であるサステナビリティに取り組むためです。
もちろんそれまでも、国内外の市場からの期待に応えるために、安全性や完全性、そしてトレーサビリティに積極的に取り組み、牛の品種の多様化、持続可能な畜産慣行の採用、食肉品質の格付けプロセスの厳格化、これらを可能にするシステムの開発等々、様々な面で工夫を重ねてきました。
こうした従来の取り組みに加えて新たにスタートした「サステナビリティ・フレームワーク」では、天然資源、人と地域社会、動物の健康と福祉に配慮しながら、社会、環境、経済に対し責任ある方法で牛肉を生産するというビジョンを掲げ、以下の4つを重点項目にしています。
① Animal Welfareアニマルウェルフェア
アニマルウェルフェア(動物の健康と福祉)は、生産者だけでなく牛肉産業全体にとっても最も重要な課題です。サステナビリティ・フレームワークでは、家畜の取り扱いの熟達・健康維持、家畜の安全な輸送、畜産管理処理技術、苦痛の少ない加工技術の向上、防疫リスクの最小化に取り組みます。オーストラリアでは動物虐待は犯罪行為にあたるため、加えて「5つの自由」も策定しています。
<5つの自由とは>
1.饑餓と乾きからの自由:健康と活力を維持するため、新鮮な水と資料をすぐにとれる環境であること。
2.物理的、熱の深いからの自由:畜舎、快適な牛床などを備えた適性な環境であること。
3.苦痛、傷害または疾病からの自由:速やかに診断・治療して防ぐこと。
4.正常な行動ができる自由:十分なスペースのある適正な施設で、同種の動物とともに飼育すること。
5.恐怖および苦悩からの自由:精神的な苦痛を感じないよう条件を整え、取り扱うこと。
② Economic Resilience 経済的強靱性
オーストラリアの牛肉産業は世界トップレベルの生産効率性を誇ります。しかし、農場収益率は他産業におよばず、農場以外の多くのコストは海外の主な競合国を上回っているという現状があります。サステナビリティ・フレームワークでは、サプライチェーン全体の生産性と収益性を高めるために継続的な投資を行い、生産性と生産コストを最適化し、製品の一貫した品質を保つことに注力します。
③ Environmental Stewardship 環境への責務
牛肉産業は、特に環境リスクの大きい産業です。例えば、気候変動は水や飼料の調達を左右します。土壌、水、空気等、良好な自然環境なしに牛肉産業の発展はありえません。サステナビリティ・フレームワークでは、気候変動への対応と影響緩和に取り組み、農場等の土地管理方法の改善、廃棄物の最小化などに重点的に取り組みます。
④ People and the Community 人と地域社会
豊かで強靱な地域社会に生きる健全な労働力は、牛肉産業のサステナビリティに欠かせない存在です。オーストラリアでは、人権と公正な労働に関する法規制が徹底されており、サステナビリティ・フレームワークにおいても、業界従事者の健康・安全・幸福の実現、労働者の能力向上、さらには消費者に安全で栄養的に優れた食品を提供することに取り組みます。
生産者との連携がフレームワーク推進のエンジンになる。
牛が飼育され、その肉が消費者の口に入るまでには、実に多くの工程を経ることになります。そのすべての工程に関わる人・事業体にサステナビリティ・フレームワークを浸透させるのは、決して容易なことではありません。とりわけ生産者は、課題に取り組むがためにコストが上がって収益が落ちることが予想されれば実行には踏み切れません。だからこそ、フレームワークの主要項目に「経済的強靱性」(前述)という項目が組み込まれています。
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MLAの戦略マネジャー、ピップ・バンドさんは言います。「フレームワークに取り組むことで牛肉の品質と安全性はさらに上がり、それが国際競争力アップにつながり、オージー・ビーフの価値をより確かなものにします。それは生産者の利益を押し上げ、雇用の創出にもなる。このことを生産者に丁寧に説明し、理解してもらうことが何より大切です」。同時に、これは消費者、自然環境、動物にも有益性をもたらし、この好循環の仕組みを生産者から消費者に至るまですべての人に理解してもらうことが、サステナビリティ・フレームワークの取り組みを推進させる原動力になる、と。
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クイーンズランド州の生産者代表 プライス・キャムさんは、みずから取り組むサステナブルな飼育として、放牧地の環境、飼料の自給、アニマルウェルフェアなどについて説明した。
日本のステークホルダとの連携。
今回のフォーラムでは、オージー・ビーフの日本国内の流通における主要なステークホルダである、農林水産省、日本マクドナルド株式会社、イオントップバリュ株式会社より、それぞれのサステナビリティに関する取組みについての発表がありました。パートナーシップが必要不可欠であることも同時に示唆された会となりました。
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農林水産省生産局畜産部食肉鶏卵課 国際情報分析官 関川寛己氏。
関川氏より日本独自の食の安全・環境保全に関する認証JGAPの取り組みについて報告された。JGAPでは安全な畜産物の生産と持続可能な畜産経営の実現を支援中。
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日本マクドナルド株式会社執行役員サプライチェーン本部長 コナー・マクベイ氏。
ハンバーガーパティ用肉の約5割に、保存料・添加物フリーのオーストラリア産牛肉を使用。高品質・安全のイメージが市場に定着しているオージー・ビーフを使用することで、消費者・投資家両者の信頼が得られ、売り上げ増や資金調達のしやすさにつながること、サステナビリティに配慮し生産された肉を大量調達することで、社会貢献の一旦が担えることを示唆。
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イオントップバリュ株式会社 商品開発本部 生鮮・デリカ商品統括部畜産商品部部長 杉本浩也氏。
自社で策定した「サステナビリティ基本方針」に基づき、安心安全でトレーサビリティが確保され、自然・生態系・社会と調和のとれた持続可能な畜産物の調達に取り組み中。タスマニア島で行っている抗生物質・成長ホルモンフリーのアンガス種牛の直営飼育もその一環。国際的な食品安全認証を取得済みで、イオン主要店舗に認証品コーナーを設置して販売中。
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MLA豪州食肉家畜生産者事業団
http://www.aussiebeef.jp/