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SDGs

「大丸有SDGsACT5」プロジェクト

食品ロス削減に向けて金融が担うこと。

2020.12.11

連載:大丸有SDGs ACT5

大手町、丸の内、有楽町エリアで2020年5月に始動した「大丸有SDGsACT5」。
三菱地所、日経新聞と共にこのプロジェクトを推進している農林中央金庫は2019年、SDGsの目標にも掲げられている食品ロスの削減に貢献すべく、世界銀行の発行する「フードロス債」に世界最大規模の投資をしました。
ACT5が掲げている5つのテーマのうち、食のサステナビリティについて考える「サステナブルフード」より展開されたワークショップ『フードロス解決に向けて金融が担う役割』から、農林中央金庫が進める社会・環境問題への取組みをレポートします。

レポート第1弾「『大丸有SDGsACT5』プロジェクトが示唆するこれからの都市の在り方」はコチラ




食品ロスが気候変動を加速させる

「日本の農林水産業」と「食品ロス」。遠からず、でも直接的な関係性が見えにくい2つのキーワードをつなぐのは、「もったいない」という思想だけではありません。
食品ロス削減を進めなければ、持続可能な農林水産業は実現しない。
日本の第一次産業を金融で支える農林中央金庫が、世界銀行の発行する「フードロス債」(食品ロス問題の解決を重点テーマとした債券)に世界最大規模となる1200億円を投資した背景には、そんな危機感が垣間見えます。

今、世界では8億人以上の人が飢餓に苦しむ一方、全世界で生産される食品の3分の1に相当する13億トンが年間廃棄されています。その量は中国の国土と同等の9億6千万ヘクタールの耕地における生産量に匹敵し、全世界の農業用水の25%が無駄になっています。
また、輸送や焼却など食品廃棄の過程で排出される温室効果ガスは、世界総排出量の8%にのぼると言われます。これは国別排出量で第3位のインド(日本は5位)を上回る量です。

森林を切り開き、地下水をくみ上げ、地球の限りある資源をむさぼるように生産した食べ物を、最終的に捨ててしまう。しかも、捨てるために膨大な負の副産物をもたらしている。
この計り知れない無駄が地球に与える負荷は、気候変動を加速させる一因と考えられています。洪水、長梅雨、超大型台風、酷暑、暖冬、海水温の上昇……近年、日本の第一次産業を悩ませる異常気象も、食品ロスと大いに繋がっているのです。


ワークショップのモデレーターを務めた国際ジャーナリストのスベンドリニ・カクチ氏は、会冒頭の挨拶で食品ロスが及ぼす気候変動への影響について指摘した。


大丸有SDGsACT5の企画サポートにも携わる、Social Gastronomy Movement野村舞衣氏からも、フードロス問題を取り巻く世界的な動きについて解説があった。



持続可能な地球環境が農林水産業の未来を守る

10月末に開催されたワークショップ。オンライン参加も合わせて、本テーマに関心を寄せる100人以上の申込があった。

農林中央金庫は、国内で第一次産業に携わる企業に資金の融資を行うと共に、人や資源や技術を繋いで困り事の解決や成長をサポートし、地域の活性化を促したり海外市場への橋渡しをしています。
一方、環境問題や社会課題に取り組むプロジェクト等へのESG投融資も積極的に行っています。ESG投資は、従来の投資のように財務的な信用力を示す格付けや短期的な利益だけにとらわれず、環境(Economy)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)に対する企業の取り組みも評価するもので、10年ほど前から注目を集め存在感を高めています。気候変動や環境問題、格差といった社会課題は、将来的に企業の存続を脅かすリスクがある。その改善に取り組むことは長期的な事業の安定に繋がるという考え方です。

「私たちのビジネスは、農林水産業の営みによる命や自然の循環と共にあります」と農林中央金庫の代表理事専務、新分敬人さんは言います。地球環境の持続可能性を探ることは、日本の農林水産業の未来を守ることと同義なのです。


ワークショップに登壇した農林中央金庫代表理事専務の新分氏。

農林水産業を取り巻くサステナビリティの課題について解説。

「つなぐ・ひろげる・ささえる」3つのビジネスを通じて農林水産業と食と地域のくらしを支えていることを、日本各地での様々な取り組みを通じて伝える。

国内では太陽光発電所などの再生可能エネルギー案件に約1300億円、豪州や中東では水処理の設備投資案件に約1100億円、英国・大陸欧州の洋上風力など海外の再生可能エネルギー案件には約4100億円の融資(プロジェクトファイナンス)を実施してきました。また、環境問題や社会課題の解決に取り組む事業の資金調達として発行されるグリーンボンドやソーシャルボンドといったESG債券への投資にも力を入れています。



投資の力で社会を変える

フードロス債への投資もその一つです。
世界銀行は、189の加盟国からなる国連の専門機関の一つであり、2030年までに極度の貧困を終わらせ、繁栄の共有を促進することを目的に、途上国への融資、技術協力、政策助言を行っている国際金融機関です。加盟先進国からの出資金や、債券発行により借り入れた資金を約80カ国の加盟途上国政府に貸し出し、教育・保健・インフラ・行政・農業・環境等様々な分野のプロジェクトに使われています。

これまでも、女性や子供の人権、海洋プラスチック問題に端を発するゴミ処理施設やインフラの整備といった、その時々に世界規模で取り組むべきテーマを啓発の意味合いも含めて債券として発行してきました。2019年に発行したフードロス債は、特に日本の投資家からの関心が高く、総取引量の8割を占め、中でも農林中央金庫が圧倒的なシェアを占めていると言います。

「食品ロスは先進国では小売りや消費段階で多く発生していますが、途上国では生産、貯蔵、流通において深刻な状況です。生産量のコントロールができない、設備の整わない環境で貯蔵、輸送するため腐らせてしまう、輸送段階でトラックが悪路を通ることで傷んでしまう。フードロス債を通じて借り入れた資金で技術の普及やインフラの整備が進めば、食品ロスは確実に減らしていくことができます」と世界銀行財務局駐日代表の有馬良行さん。


世界規模の社会課題解決を目指した投融資の仕組みについて解説する世界銀行財務局駐日代表の有馬良行さん。

たとえば干ばつに悩まされるベトナムのコーヒー農園に対しては、地中にパイプを通すことで安定的な水の供給を可能にし、生育不良によるロスを減らすことができています。また、米の生産者に対しては、生産効率を高めるべく品質の良い種の選別や保存に関する知識を提供したり、環境負荷の少ない農業の手法について大学と共同で研究を進めています。


それぞれのプレゼンテーションの後に展開された新分さんと有馬さんとのクロストークの様子。

「お金は貸して終わりではなく、成果のモニタリングも重視しています。行った投資が実際にどの程度、社会に影響をもたらしたのかレポートしていく必要がある。今後はそのインパクトを具体的に計算する手法を確立し、透明性を高めていきたいと考えています」。

農林中央金庫は世界の市場で64兆円の資産を運用し、そのうち約2兆円をESG投資に充てていると言います。「サステナビリティの達成度によって利息を増減させるような企業向けローンも始めています。環境対策をはじめとする社会貢献度は、融資や投資の判断材料としてより一層重視していく方針です」と新分さん。今後はSDGsが掲げる目標の中から事業に関連性の高いいくつかのテーマにフォーカスし、大規模な投融資を行っていくといいます。
「投資家には、お金がどう使われるのか知る義務と責任があります。自分たちの行う投資によって社会や地球の未来を変えていけるかもしれないのです」。





ACT5の一環として行われた本ワークショップの会場となった有楽町「micro FOOD&IDEA MARKET」は、基幹企業として農林中央金庫とともにプロジェクトを推進する三菱地所が手掛ける複合店舗。ACT5の様々な活動を体感できる空間としても機能している。食品ロス削減を目指し運用されている「あいのり便」の食材やジビエ等を活用した料理も提供されている。



同店の料理をプロデュースする比嘉康洋シェフから、食品ロス削減へのメッセージを込めた料理の解説を受ける参加者たち。

ワークショップで提供された3品。規格外の茄子とじゃがいもをベシャメルソースとあわせて焼き上げたグラタン(左奥)、日本ジビエ振興協会からの信州産鹿肉の色々な部位をひき肉にしてスパイスとハーブで煮込んだカレー(右奥)、そして広島県尾道のイノシシ肉とシャインマスカットのタコス(手前)。

◎micro FOOD&IDEA MARKET
東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル1F
https://yurakucho-micro.com/




◎ 大丸有SDGsACT5
https://act-5.jp/




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