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FEATURE / WORLD GASTRONOMY



“ガストロノミーで社会を変えるシェフ”を支援する
「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」

Feature / World GastronomyMay. 17, 2018

photographs by Basque Culinary World Prize





「ガストロノミーを通して社会を良くするシェフ」を表彰する「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」が、5月末まで、候補者を募集中です。2016年にスタートして、今年で3回目。選ばれたシェフには、活動を支援する10万ユーロが授与されます。審査員の一人である「NARISAWA」成澤由浩シェフに、賞が創設された背景や選考の経緯を語っていただきました。

食の力をクローズアップする。

「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」は、「バスク・キュリナリー・センター Basque Culinary Center(略称BCC)*」の後援の下、バスク州政府によって創設されました。
すべての国籍のシェフを対象とし、教育、健康、研究、持続可能性、社会的起業家精神、慈善活動、地域文化の保存など様々な領域において、ガストロノミーが変化をもたらす強い力であることを証明する業績をあげた人物に贈られます。その活動を支援するための賞金は10万ユーロ!
審査にあたるのは、ジョアン・ロカを審査委員長として、フェラン・アドリア、ミシェル・ブラス、マッシモ・ボットゥーラ、ガストン・アクリオなど14人。成澤シェフも初回から審査員を務めています。

プレスリリースに、「ある世代の国際的シェフたちは、自らのアプローチに新しい技術と創造性、イノベーションと社会的関心事を取り入れることで、社会における役割を拡大し、シェフという職業の定義を変えました。バスク・キュリナリー・ワールド・プライズはその進化を称えるものです」と書かれています。
つまり、シェフがより社会とコミットするようになったことが賞の背景にあるわけですが、成澤シェフはその理由を次のように語ります。

「食に携わる人間が、自分たちの使命に気付いたということがあると思います。きっかけとしてSNSの影響は無視できないでしょうね。誰もが発信源になった。そして、その情報が瞬時に世界中を行き交うようになった。地球上の食の現実が明らかになったのだと言ってよいでしょう。かつて、多くの料理人が目指したのは、ミシュランの星やタイトルだったかもしれません。サッカー選手がセリアAやワールドカップを目指すように。でも今、地球上の食の現実を目の当たりにするようになって、料理人は気付いた。自分たちが手掛けているのは、地球上のすべての生物にとって重要な事柄であると」

自然災害、環境破壊、人口増加、貧困、紛争、移民……地球上には様々な問題が起き続けています。どの事例をとっても、バックグラウンドは異なり、いくつもの要件が複雑に絡み合って、容易に解決するものではないでしょう。
「それでも“食べるという行動”においては共通するものがある。宗教が違っても、政治思想が違っても、“食べる”という一点においては誰も否定できない共通の認識を持つことかできるのです」

と同時に、「食べることは教育である」と成澤シェフ。
「シェフや親が無農薬しか選ばなければ、それが当たり前になって、子供たちは無農薬を選ぶようになり、自ずと無農薬が増えていくでしょう。食材のすべてを使い切る習慣が身に付いていれば、多少なりともロスは減るに違いありません。理屈ではなく、日々の経験が何よりの教育であり、食によって伝えられることはたくさんある」
だからこそ、ガストロノミーで社会を変えることが可能になる……。
「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」は、そんな食の力をクローズアップする賞でもあります。



10年先、20年先にも意味を持つ活動に。




フェラン・アドリア、ミシェル・ブラスなど、世界のトップシェフたちが審査にあたる点も、「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」の大きな特徴です。
「国も違えば、アプローチの仕方も違いますが、本質を追い求めて、自らの対象に集中して追求してきたシェフばかりです。選考にあたって、メンバー間で様々な意見が出ますが、重要視するのは、今だけでなく10年先、20年先にも意味を持つものであるかどうか」
審査員長は、スペインのジョアン・ロカ。


初回から審査員を務める成澤シェフ。




第1回の2016年は、30カ国110人のシェフがノミネートされ、ベネズエラ人シェフのマリア・フェルナンダ・ディ・ジャコッベが受賞しました。彼女はベネズエラ産カカオを活用したプロジェクト「Kakao」や「Cacao de Origen」を立ち上げ、カカオを軸とした教育と起業、研究開発のエコシステムを構築。複雑な政治状況下にあるベネズエラにおいて、経済的に不安定な女性たちに就業や起業の機会を与えてきました。
第1回目の受賞者、ベネズエラのマリア・フェルナンダ・ディ・ジャコッベ(中)。




第2回目の昨年は、コロンビアのシェフ、レオノール・エスピノサに。ボゴタで2軒のレストラン「Leo」と「Misia」を経営する彼女は、Funleo財団を立ち上げ、コロンビアの先住民とアフリカ系コロンビア人が祖先から受け継ぐ知識とノウハウを現代に蘇らせようとしています。

食糧主権に根ざした農村開発を支持し、小規模生産者が市場に参加できる道筋や、民族固有の土地における教育、栄養、起業、ツーリズムの場を促進しています。同財団が運営する「インテグラル・キュリナリー・センター(Integral Culinary Center)」(麻薬密売に取って代わる起業策として機能)での業務に加えて、自国の食文化の豊かさへの認識を高め、その生物学的、文化的、そして無形の財産を社会経済的な発展のツールへと転換できるよう、広くコロンビア人とそのコミュニティに訴えかけています。
第2回目の受賞者、コロンビアのレオノール・エスピノザ(右)。
自国の料理に誇りを持ち、それを受け継ぎ、伝えるべく、人々の中へ入っていく。




ちなみに、レオノール・エスピノサ以外の昨年のファイナリストは次のような顔ぶれでした。

アンソニー・ミント(アメリカ)
「食品は、気候変動問題の一因になるのではなく、解決策の一部であるべきだ」との考えから、環境にプラスとなる情報やツールを提示すると共に、「ZeroFoodprint」を立ち上げ、レストランオーナーと連携して、店の二酸化炭素排出量をゼロにするための取り組みを実施。また、「The Perennial」をはじめとするレストランのオーナーとして、「進歩的な農業」のためのプログラムへの資金提供、「Farm to Fork」を根付かせることを目的とした「The Perennial Farming Initiative」を設立。

ダン・ジュスティ(アメリカ)
レネ・レゼピ率いる「NOMA」の厨房を離れた後、学校の食堂のデザインや機能性を見直すためのイニシアチブ「Brigaid」を設立。生徒たちの食事に本質的かつ実際的な変化をもたらすため、才能あふれるシェフたちのノウハウを活用。食卓に出す料理にじっくり時間をかけるといった、ごく基本的な、しかし現代では忘れられがちな方法に目を向けながら、リアルフードを提供することを目指している。

ダニエル・パターソン&ロイ・チョイ(アメリカ)
ダニエル・パターソンの高級レストラン業界における豊富な経験と、ロイ・チョイのストリートフードに関する知識を融合させて、ファストフードの概念を変えるレストラン「Locol」を生み出す。人種と食と貧困の負の連鎖を断ち切り、低価格でより良い食事ができることを目指している。

デヴィッド・ハーツ(ブラジル)
中南米におけるソーシャル・ガストロノミーの提唱者。10年以上も前に、貧困地区の若者にケータリング業界への就職を目標とした無料の調理レッスンを提供する「Gastromotiva」をサンパウロに設立。子供向けワークショップや刑務所での調理クラスなどの活動を含むコミュニティサポートネットワークを築き上げている。
同プロジェクトは、リオデジャネイロ、サルバドール・ダ・バイーア、メキシコシティでも展開。リオ五輪では、マッシモ・ボットゥーラの食品廃棄プロジェクト「Food for Soul」とのコラボによる無料食堂「Refettorio Gastromotiva」も運営。

エブル・バイバラ・デミール(トルコ)
約1万4千人のシリア難民がキャンプで暮らすトルコ南東部ハランに「ハラン・ガストロノミー・スクール・プロジェクト」を設立。経済的な影響を受けやすいトルコとシリアの女性たちに調理レッスンを提供することで、雇用の見通しを改善しようというイニシアチブ。
また、難民たちに、地域の文化的・芸術的遺産を活用したガストロノミック・ツーリズムに関するトレーニングを提供することで、トルコとシリアの文化の橋渡し役となることを目指す。

ホセ・アンドレス(アメリカ)
複数の人気レストランを経営、ワシントンD.C.を拠点として、移民や労働政策の改革のほか、「食糧政策へのより賢明なアプローチ」を政界に働きかけ、料理を原動力とする社会改革プロジェクトの資金集めにも尽力。「World Central Kitchen」をはじめとする教育・訓練プログラムなど複数のイニシアチブを運営。米タイム誌により、100 Most Influential Peopleに選ばれている。

メリンダ・マクロスティ(オーストラリア/ギリシャ)
レスボス島北部の自治体と連携して、シリアやパキスタン、アフガニスタン、イラクからレスボス島に来た何10万人もの難民に対する支援と食料の提供を実施。当初は自身のレストラン「The Captain’s Table」に難民を迎えていたが、その後、一時滞在キャンプを設営し、食料や水、避難所、医療設備、レスボスの主都ミティリーニまでのバスの運行などの供給を開始。
同キャンプには、温かい食事を提供するフードトラックもある。また、マクロスティが設立した「アステリア=スターフィッシュ財団」では、世界中から集まった90人の職員と数千人のボランティアが、人道危機に取り組み、孤児や困窮家庭の支援にあたっている。

ニコ・ロミート(イタリア)
ローマのサピエンツァ大学と共同で、より健康的でおいしい病院食を提供、ひいては患者の身体的・精神的な満足感を高めるためのシステムを考案(イタリアでは、病院で出される食事の45%が最終的に廃棄されている)。
「インテリジェンシア・ニュートリシオナル」プロジェクトを立ち上げ、自身の三ツ星レストラン「Reale」で開発したテクニックとコンセプトを活用して、費用は病院の予算内で、五感に働きかける品質と栄養価の最大限の向上に取り組む。

リカルド・ムニョス・ズリータ(メキシコ)
生物多様性を支持する活動家で、地元の農産物の支持者にして自国の食文化の促進に取り組む。米タイム誌に「メキシコの伝統料理の保護者にして預言者」と評されるなど、近年のメキシコ料理ブームの立役者の一人。著書に『メキシカン・ガストロノミー大事典』。



より活動資金を必要としている人に。








「どの活動も優劣がつけられるものではありません。そこで浮かび上がるのが賞金の重みです。言ってみれば、審査員の一人であるマッシモ・ボットゥーラのRefettorio(レフェットリオ)やFood for Soulもすばらしい活動であることに変わりはない。けれど、マッシモはもはや賞金なくして社会を動かしていくだけの力を持っています。ファイナリストの中でもより活動資金を必要としているのは誰なのか? 今、10万ユーロという賞金を得ていっそう活動が社会や未来に効果を発揮するのは誰なのか? その観点での議論も重ねられています」

第1回目の受賞者、マリア・フェルナンダ・ディ・ジャコッベが2017年のマドリードフュージョンで発表の場を持ったように、「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」の獲得は活動を促進し、活躍の場を広げていくことになります。(マドリードフュージョン2017の様子はコチラ)

「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」の運営サイドは、日本からも積極的な応募がなされることを希望しています。とはいえ、政治や経済が比較的安定している日本からのノミネートはむずかしそうに思われるのも事実。
「地球全体を見渡した時、より緊急性が高い活動は他のエリアに多いかもしれません。ただ、この賞が対象とする範囲は多岐にわたり、地域文化の保存なども含まれます。たとえば、自然と共生する日本人の森林文化や魚食文化は、これから先、地球環境の保全を考えていく上でヒントを与えてくれるものではないでしょうか」と成澤シェフ。長期的な視点と広い視野で見れば、私たちの周りにも、今後大きな役割を果たしていく可能性のある食の活動は存在しているに違いありません。「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」は、私たち自身が食の力を見つめ直す格好の機会とも言えるでしょう。



◎「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ」概要
www.basqueculinaryworldprize.com
*料理の教育・研究・革新を促進するため、2011年、スペイン・バスク州のサンセバスチャン郊外に開校。技術や発想の革新はもちろん、料理を通して社会をイノベーションしていくことを目的としている。4年制の大学を擁し、約25カ国の学生が学ぶ。





<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。

        



  






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