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  カカオに魅せられた人々

    vol.1 カカオから見るチョコレート最前線

Feature / MovementJan. 25, 2018

健康志向、Bean to Barなど、チョコレートは今、ハイカカオブームだ。
カカオ産地のバラエティも増え、以前にもまして、カカオでチョコレートを語る時代になった。
カカオ豆の発酵から手掛けるパティシエもいる。
カカオに思いを及ぼし、カカオを取り巻く事情に耳を傾けると、これまであまり知らなかった遠い国々の様子が見えてくる。それらはちょっぴり苦くもあり、また、希望にも満ちている。


「エスキスサンク」成田一世シェフ×パプア・ニューギニア

東急プラザ銀座4階にある「エスキスサンク」のチョコレートは、成田一世シェフが発酵から携わったカカオ豆で作られている。カカオ豆の産地はパプア・ニューギニア。
「もう3年になりますね、パプア・ニューギニアへ足を運ぶようになって」

きっかけはバニラだった。
昨今のバニラの高騰ぶりはかつてないほどで、この4年で10倍に跳ね上がったとの報道もある。主要産地であるマダガスカルがサイクロンの被害にあったり、アジアでの消費が伸びて世界中で奪い合いになったり、理由は様々。インターネットの普及によって産地の農家が消費地における末端価格を知り、自ら高値で輸出を始めたからとの声も聞こえてくる。
シュークリームのカスタードにバニラを使うのをやめたという店もあるほど、入手に苦労するパティシエが多い中、成田シェフはまったく困っていない。
というのも、主流のマダガスカル産やタヒチ産に頼り切らず、パプア・ニューギニア産も仕入れるからだ。
「人気のタヒチ産より小ぶり。でも、フレーバーはタヒチ産に遜色ない」。パプア・ニューギニア産バニラのクオリティに太鼓判を押す。

「エスキスサンク」では、タルトレット・ショコラもパプア・ニューギニア産のバニラやカカオで作られる。

成田シェフとパプア・ニューギニア産バニラとの関わりは、「レストラン タテル ヨシノ 芝」(現在は閉店)のシェフパティシエ時代にさかのぼり、もう10数年に及ぶ。パプア・ニューギニア産の食材を輸入するVanilla Houseの小瀬一徳さんから相談を受けたのが始まりだった。

小瀬さんは、1994~96年の3年間、青年海外協力隊としてパプア・ニューギニアに滞在した経験を生かし、2005年、現在の仕事をスタートさせた。「パプアでは温かい思い出ばかり。その恩返しがしたくて」と語る。
バニラを輸入し始めた当初は、マダガスカル産やタヒチ産の前に苦戦が続いた。そんな中で成田シェフは小瀬さんのバニラと真剣に向き合い、厳しく優しく、様々なアドバイスをくれたという。「日本のトップレストランで求められるクオリティ、そのために現地でどんな栽培・加工をしたらいいのか、等々、多くの示唆をいただきました」とふり返る。

2014年、成田シェフは、小瀬さんからの誘いでパプア・ニューギニアへ赴く。
小瀬さんの現地活動の本拠地マヌス島(パプア・ニューギニア北東部、ビスマルク湾に浮かぶ島)でシェフが目にした光景は、カカオの木に絡み付くバニラの姿だった。
「バニラは蔓性の植物で寄生種。そこではカカオの木に寄生していたんですね」と成田シェフ。

小瀬さんによれば、カカオは単にバニラの支柱として存在しているわけではなく、実もちゃんと収穫されている。「青年海外協力隊時代、僕の専門は製材技術の指導でしたが、同じ事務所でカカオやバニラの加工も行われていた。発酵箱内のカカオ豆を移し替える手伝いをしたものです」。

元々、パプア・ニューギニアはカカオ豆の産地として実績がある。生産量は世界12位(2016年)、アジア・オセアニア地区ではインドネシアに次いで2位を誇る。ただし、グローバル企業の買い付け先のひとつに位置付けられ、質より量の素材として買われてきた現実がある。キオスクで売られるようなチョコバーの原材料と言えばいいだろうか。

パプア・ニューギニアは数多くの島々で構成されている。船なくしては人の行き来も物流も成り立たない。

折りしも、現地では、5年計画でカカオ豆の収穫量を5倍にしようというプロジェクトが立ち上がっていた。医療設備も教育機関も十分ではない島々に、それらを設けるには資金が要る。その手段としてカカオ栽培を活性化させ、パプアのカカオの価値を高めようというものである。プロジェクトの推進役、「パプア・ニューギニア ココア・ココナッツ インスティテュート」(パプア・ニューギニア政府が設立した研究機関)のカナ・ポールという人物から、成田シェフはプロジェクトへの参画を依頼される。

現地に暮らした経験から小瀬さんは言う、「パプアには南国特有の時間が流れている。正直なところ、一生懸命働かなくても食べるのに困らないという風土です。しかも、大きな農園があるわけでなく、小さな農家の集まりだから、みんなの作業のコントロールがむずかしい。島々を結ぶ船の行き来も十分でない。そういった土地柄で、単に収穫するだけでなくクオリティを上げる努力をしようというのは、実に大変なことなんです」。
カナ・ポールさんは、そんな彼らのモチベーションを成田シェフの存在によって高めたいと考えたのだった。

地元の農民に指導する成田シェフ。みな熱心に話を聞いている。

快諾したシェフは昨年5月、1週間滞在して、身をもって発酵の指導に当たった。農家から集められてくるカカオ豆を発酵箱に入れ、自ら発酵箱の中に入ってカカオ豆をかき混ぜ、箱をひっくり返し……を繰り返した。
「昨日収穫したカカオ豆の発酵箱に、今日収穫したカカオ豆を追加してしまう(発酵度合いの制御不能に陥る)といったことがしばしば起こってきた。当然、それでは良い発酵状態は得られません。価値あるカカオ豆に仕上げるにはどんな作業が必要なのか、成田シェフが丁寧にやってみせた」と指導の様子を小瀬さんが語る。
パプアのカカオ豆が質より量とされてきたのは、発酵の不完全さに拠るところが大きく、「そもそも、どの程度発酵させればよいのか、よくわからないままやっていた。それが成田シェフによって示された」。



より適切な発酵を促すため、発酵箱の中に入ってカカオ豆を撹拌したり、発酵が終わると天日干しのスペースに広げて乾燥させたり、自らやってみせる。

「ポテンシャルは高い」と成田シェフは期待を寄せる。「パプア・ニューギニアのマヌス島はサンゴ礁が隆起した島です。アルカリ性土壌のため、バクテリアが棲みにくい環境と言えますね」。
カカオ豆は、収穫後の発酵次第で品質が大きく左右される。その点、マヌス島は発酵を良い状態で進めやすい環境とシェフは考えている。
成田シェフは言う、「パプアへ行って、チョコレートもテロワールの産物だってことがよくわかった。なぜ、日本には、日本酒と焼酎の分布があるのか。土地それぞれの栽培条件や生息する菌、発酵が成立し得る環境があるからですよね。パプア・ニューギニアの風土に身を置いて、『だから、この味になるんだな』ってことを体験するともう、他の産地のカカオを使おうとは思わない。私はパプア・ニューギニアのカカオ豆だけでいい」。

日本に届いてきたカカオ豆を、成田シェフはラボのオーブンで焙煎し、スタッフ総出で皮をむき、メランジャーでコンチングしてチョコレートにしていく。
「パプアのカカオに何をプラスするのかが、私のクリエイション」
成田シェフが作るチョコレートは、他の誰とも異なるステージにある。と同時に、パプア・ニューギニアの未来が託されている。

地元民にすっかり溶け込んで。成田シェフはカカオを使う度にこの島の人々を思い浮かべる。

成田シェフは、パプア・ニューギニア産のカカオに柿柚子、豆腐などの和素材や、リナロール、オイゲノールといったアロマを合わせてボンボンに仕立てる。


カカオを通して国や地域を支援する。

Bean to Barが浸透したおかげで、私たちはこれまで接点を見出しにくかった国々へ思いを馳せることができるようになった。たった1枚のチョコレートが、私たちと産地を結ぶ。
日本におけるその立役者が、カカオ豆の輸入・販売を手掛ける株式会社立花商店だ。Bean to Barに取り組む人々の多くは立花商店からカカオ豆を仕入れている。

同社の生田渉さんは、渡航した国が50カ国以上というカカオのプロフェッショナル。買い付けやトレードのみならず、シエラレオネ産カカオの共同開発支援事業やフィリピンのクリオロ種保全プロジェクトなど、カカオ栽培の支援によって地域経済をもバックアップする。
西アフリカの小国シエラレオネは、1992年から2002年までの10年間、内戦状態にあった。数少ない外貨獲得手段であるカカオ産業が、内戦のために衰退。その復興に生田さんたちは尽力した。
シエラレオネのカカオが、昨年10月に開催された「インターナショナル・カカオ・アワード 2018」でベスト18に入った。クオリティへの世界的な評価は、必ずや、シエラレオネのカカオ産業に新たな展開を生むに違いない。

生田さんはタンザニアやウガンダにも期待を寄せる。
カカオの産地は日本から遠い国が多いから、どうしても国の名前でしか認識しにくい。加えて、国をあげてカカオに力を入れていたりすると、その国の名前ばかりが耳に入ってきがちになる。けれど、同じ国でも地域によって、土壌も気候もカカオの木も異なるし、生産者の仕事の仕方も違う。必ず産地を訪ねて、自分の眼で見て、買い付けをする生田さんは、国より地域で判断する。
「タンザニアのキエラ地区ママブ村のカカオは100%無農薬。村の主婦たちが乾燥後のカカオ豆を丁寧に手選別して出荷しているんですよ」

生田さんが期待を寄せるタンザニア。「Bean to Barのためのカカオとして優れていますね」。

同じく立花商店の鶴田絹さんが注目するひとつがハイチだ。
「ハイチは世界の最貧国のひとつです。加えて、2010年の地震、2016年のハリケーンなど度々災害に見舞われてきた。産業は農業しかないと言っていいくらいなのに農業もままならない。でも、2013年に世界銀行のプロジェクトとして立ち上げられたピサ社によって、北部地域の豆は急速にクオリティが向上した」

様々な産地でカカオ豆の品質向上が思うように進まない場合、理由のひとつに「小さな農家の集まり」という点がある。農家によって知識や経験がまちまちで、作業のレベルが一定しない。南国気質のせいか個人の性格や都合が優先されがちなため、クオリティを上げようにも上がらない。
「ピサ社が立ち上がったことで、収穫後は同社が一手に引き受け、適切な発酵・乾燥を施して出荷されるようになった」と鶴田さん。ピサ社によって、ハイチ産カカオへの評価は格段に上がった。「元々、植えられていたカカオの木がよかったとも言われます。神様が残していった宝物、と」。
鶴田さんは2016年12月、ハイチのピサ社を訪ね、カカオ畑を見てきた。「海が近くて、海風が吹いていて、森の中は湿気があるけれど、空気が循環していて、とても良い環境でした」。

ハイチのカカオ畑で。左から2人目が鶴田さん、右から2人目が現地のキーパーソン、プロダクトマネジャーのエリン。

環境に加えて、鶴田さんの心を捕らえたのは、エリンという一人の女性の存在だった。
「以前、ドミニカでコーヒー栽培の技術指導に携わっていたそうです。農業指導のプロジェクトは数年単位で終了し、関わっていた人々がその地を離れてしまうことが多い。でも、彼女は継続的な関係性を持ちたくて、ピサ社に入ったんですね」。
農家が収穫したカカオ豆を一手に引き受ける分、ピサ社は358日稼動である。収穫がいったん落ち着く10月第1週に1週間だけ全社的な休みがあるのみ。
「カカオの荷受けが夜中になることも多く、繁忙期には50人いるスタッフが7~17時と14時~夜中の2シフト制で対応する。『カカオの収穫には区切りがないから休みなんてないけど、ここのカカオの地位を高めるためだから、やりがいがあるの』と彼女は言うんです。彼女のような存在の上に、カカオのクオリティは向上しているんだと実感しました」

可愛らしいピサ社の建物。広い空に雲が湧き立っている。

タンザニアのカカオ豆選別所で働いている婦人たちと生田さん。


カカオからチョコレートへ。より繊細な表現を求めて。

蔵前「蕪木」の「かもがや」と銘打たれたタブレットは、このハイチ産カカオで作られる。コーヒーとチョコレート、いずれも豆の焙煎から手掛ける蕪木祐介さんの代表作である。「レーズンのようなドライフルーツを思わせるアロマ、中盤から後半にかけて、ナッティな香ばしさが立ち上る」と彼は表現する。

「蕪木」のスペシャリテ「かもがや」はハイチ産のカカオで作られる。

Bean to Barを初めて体験した人の多くは、その味にきっと衝撃を受けることだろう。カカオはこんなにも鮮烈で多様な味や香りを持っていたのか。今まで自分が食べてきたチョコレートの味は、カカオが本来持つアロマのほんの一部にすぎなかったのか、と。

事実、Bean to Barの作り手はできるかぎりカカオから味を引き出し、産地や品種の特性、持ち味を伝えるタブレットを作ろうとする。
でも、蕪木さんはその上で、「要らない香りは削ぎ落とす」。なぜなら、カカオの持ち味を生かしつつも、自分自身の表現であろうとするからだ。どういう作り方をすれば、求める味を実現できるのか、アプローチを考える。「かもがや」「果香」「撫子」「煉々」……タブレットの名はそのイメージだ。
チョコレートを通して、カカオの産地へ思いを及ぼすことができる時代になったのは事実。しかし、豆のセレクトショップに留まっていてはつまらない、とも蕪木さんは思う。カカオ豆から先の表現をしなければ、カカオ豆を託された身として役割を果たし切れていないんじゃないか、と。

「蕪木」のチョコレートは、一般的なBean to Barのクオリティをはるかに超えている。

「欧州のプロが気付かないのに、日本の一般のお客様は気付くんですよ」と蕪木さん。舌触りのちょっとした差にも日本人は敏感だという。「日本人の味覚は繊細で鋭敏。単一な中の奥行きや陰影、キレや透明感をキャッチする。シンプルだけれど滋味深い味を理解する」。
であるならば、そういうチョコレートを作りたい。世界有数の技術と言われる大手チョコレートメーカーで7年間開発職に就いた経験を持つ蕪木さんは、その技とクオリティを自らのチョコレートに投影させる。
砂糖の粒子の細かさは舌触りの滑らかさに直結するため、メランジャーですり潰した後、さらにリファイナーで粒子を細かくし、その上で熱を与えながらコンチングする。Bean to Barの多くがメランジャーにかける工程自体をコンチングと捉えるのに対して、摩砕と精練(コンチング)を別工程と考え、それぞれを緻密に行なう。
「雑味を飛ばし、角を削り、滑らかにし、立たせる香りは立たせる。ひとつひとつ細かい部分に手を尽くすことが大切」と蕪木さん。

リファイナーで微細な粒子にする。滑らかな口溶けはこの工程から生まれる。

溶け方を計算して、厚みは5.5mm。視覚も大切と考えるから、エッジを立たせた特注の型で流す。
「かもがや」を舌の上でゆっくり溶かしていると、鼻へ抜ける香りが広がって、思わず深呼吸してしまう。
「チョコレートには色気があってほしい」――蕪木さんは、ハイチ産カカオから「うっとり」を導き出す。

厚みやフォルムにも徹底的にこだわった。美しさとおいしさの両方を突き詰めた。

Bean to Barの浸透によって、産地と消費地との連携が深くなり、チョコレートは産地の気候風土、精神風土を映し出し、社会を映し出すようになった。チョコレートが伝えてくれることは山ほどある。ひとかけ口に入れる時に、そっと意識を及ぼしてみる……それだけで見えてくるものがあるはずだ。



SHOP DATA
◎ エスキスサンク
東京都中央区銀座5-2-1 東急プラザ銀座4F
☎ 03-5537-7477
11:00~21:00
無休
東京メトロ銀座駅より直結
http://www.esquissecinq.com/

◎ 蕪木
東京都台東区鳥越1-15-7
☎ 03-5809-3918
13:00~20:00
水曜休
都営線蔵前駅A1出口より徒歩8分
http://kabukiyusuke.com/











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