【特集】シェフが証言!見えないところで差がつく油「マルホン 太白胡麻油」をめぐる旅
2023.12.18
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text by Kyoko Kita / photographs by Masahiro Goda, Daisuke Nakajima(Comme’N)
プロが作る料理は、何かが違う。素材や道具や技術の違いもあるけれど、実は「油選び」が違うってご存じですか? 「色も香りもない胡麻油」をプロたちはなぜ、愛用するのか? 8人の言葉からその理由に迫ります。
【8人のプロが証言!】
■イタリアン「チェンチ」坂本健シェフ
■和食「賛否両論」笠原将弘さん
■フレンチ「フロリレージュ」川手寛康シェフ
■中国料理「茶禅華」川田智也シェフ
■てんぷら「清壽」清水良晃さん
■フランス菓子「PRISM」柴田勇作シェフ
■パン「コム・ン トウキョウ」大澤秀一シェフ
■料理家・渡辺麻紀さん
※料理通信Instagramにてレシピを公開!
料理人のリクエストから生まれた「色も香りもない胡麻油」
「太白」――それは古代中国における金星の呼び名。その名の通り、澄んだ黄金色に輝く太白胡麻油が生まれたのは1924年(推定)のことだ。1725年から三河国(愛知県)で製油業を営む「竹本油脂」が、料理人からの要望に応えて編み出したのがはじまりとされる。
従来の胡麻油のように焙煎せず、生のゴマに圧力をかけて搾るため、無色透明に近く香りもほとんどない。どんな料理にも使いやすいと評判を呼び、以来、日本の外食文化をひっそりと裏方で支えてきた。
誕生から100年。太白胡麻油は今、和食にとどまらず、イタリアンやフレンチ、中華、パンに菓子と、幅広いジャンルの食のプロたちに愛用されている。太白胡麻油を「なくてはならない存在」と語る8人の厨房をたずねてみた。
この素材にオリーブオイルの香りは本当に必要なのか?
「イタリア料理にオリーブオイルは不可欠」。かつてはそう思い込んでいたという「チェンチ」の坂本健シェフ。しかし、イベントなどを通じて国内外のシェフと共に料理をする中で、その固定観念がほぐれていった。「この素材に、本当にオリーブオイルの青い香りが必要なのか?」、「そもそも何のために油を使うのか?」。油の役割について改めて考える中で使い始めたのが、太白胡麻油だった。
「イタリアで郷土料理を何年も作ってきた人にとっては、その地方のオリーブオイルをたっぷり使うことが料理のおいしさにつながることもあると思う。でも僕は、生まれ育った京都の食材を前面に出したいから、油脂で味の骨格を作ることはせず、だし(鶏節と昆布のだし)もよく使います。日本の食材は水分が多く味わいもやさしいから、丸い口当たりで香りが前に出ない太白胡麻油は、とても相性が良いと感じています」
油に求めるのは香りだけでなく、素材をつなぐ役割やまろやかさ。たっぷり油を使う料理でも、太白胡麻油はさらっと軽く仕上がると言う。
「コンフィのようなオイル煮に使うと、素材の旨味を閉じ込めながら同時に香りオイルができる。酸化しにくく、最後までオイルをおいしく使い切れるのも嬉しいですね」
存在感はないけど脳が満足する
「日本料理における油の役割は、旨味と食べ応え」と語るのは、「賛否両論」の笠原将弘さん。「ただ切っただけのトマトもおいしいけど、油を少し垂らすとさらにおいしくなる。脳が満足するんじゃないでしょうか」。中でも太白胡麻油は「良い意味で個性がない。だからこそ使いやすい」と言う。
笠原さんが作る料理には、食べる人はほとんど気付かない程度だが、随所に太白胡麻油が使われている。たとえば鱧に添えられる梅肉や、ぬたにかける酢味噌。いずれも少量の太白胡麻油でのばしている。お造りに添える「変わり醤油」にも太白胡麻油は欠かせない。変わり醤油は、旬の野菜をピュレ状にして、醤油や塩などで調味したもの。「太白胡麻油を入れることで乳化して、ふわっとクリーミーになります」
また、海老真薯を作る際、卵と油を乳化させた「玉子の素」を加えるのは日本料理の定石だが、笠原さんはこれにも太白胡麻油を使う。「ちょっと贅沢だけど、すごくおいしくなるんですよ」
あちこちに忍ばせても、食後感はあくまで軽い。「満足して帰ってもらって、家に着いたらちょっとお腹が空く。そのくらいがちょうどいいと思っています」
野菜が主役になるほど、オイルの役割が増していく
緑茶オイル、焦がし昆布オイル、パセリオイル・・・料理にフレーバーオイルを多用する「フロリレージュ」の川手寛康シェフ。これまでに作ったものは80種類を超え、厨房には常に5~6種類がスタンバイしている。そのベースとなるのが太白胡麻油だ。
「フレーバーオイルを作る時、欧米のシェフはよく、比較的個性のないグレープシードオイルを使います。でもやはり特有の香りが残ってしまうんです。一方、太白胡麻油はどんな素材を合わせても純粋にストレートにその持ち味を表現できる。イメージ通りのオイルを作りやすいんですよね」
伝統的なフランス料理において、本来、オイルの出番は決して多くない。ほとんどの料理が濃厚な動物性の油脂や旨味に支えられているからだ。しかし、日本の食材を積極的に使い、素材の味わいを重視するようになるにつれ、川手シェフの作るソースは軽くなり、替わりにオイルで香りを補うようになっていった。
「最初は香りづけ程度の意味合いでしたが、次第に旨味や味わいもプラスしたくなって。フレーバーオイルの作り方も変わっていきました。もはや料理の骨格の一部と言ってもいいくらいです」
植物性の素材だけで構成するプラントベースの料理が増えてきた今、「油に求める役割がさらに広がってきました。その中で、太白胡麻油がより一層欠かせない存在になっているのを感じます」。
水のように素材を引き立て、加熱しても傷つけない
太白胡麻油を「水のような油」と表現する「茶禅華」の川田智也シェフ。水でお茶を淹れたりだしをとったりするように、素材の個性を純粋に引き出すことができる油、という意味だ。また、「太白」という名前も象徴的だと言う。「色も味も香りも、まさに白のイメージです。すべての基本となり、他の色を重ねていける。清らかで、美しく、洗練された油だと思います」
純白の大根餅には、そんな太白胡麻油の魅力が凝縮されている。大根餅と言えば一般に、腸詰を刻んで旨味をプラスするところ、川田シェフの大根餅はその対極。大根は拍子木に切って存在感を残しつつ、干しエビと米粉の生地を滑らかにつなぐ。蒸し上げた大根餅はメイラード反応による旨味をつけないよう、焼くのではなく太白胡麻油で香りをつけずに揚げる。みじん切りにした大根に270℃まで熱した太白胡麻油をジュッとかけて香りと甘味を引き出し、柚子の搾り汁を加えて大根餅にのせる。
「日本料理は水の料理、対して中国料理は炎の料理と言われますが、太白胡麻油は水と炎、両方の性質を持ち合わせた油だと思います。発火寸前まで熱しても酸化臭がせず、大根や柚子の香りを引き立たせてくれる」
それは伝統的な大根餅に柚子の香りを添えた、新しい大根餅。
「『真味只是淡』(真の味は淡味に宿る)という中国の古い言葉、そして『和魂漢才』(日本人の精神性と中国の知識や技術を併せ持つ)という日本で生まれた思想。私が大切にしている2つの言葉を体現するのがこの大根餅であり、太白胡麻油そのものにも通じるところがあるように思います」
太白は調味料。縁の下で素材の味を押し上げる
「太白胡麻油、一択」。そう言い切る「清壽」の清水良晃さんが目指すのは、油の存在を前面に感じず、素材のおいしさを堪能できる天ぷらだ。「『揚げる』というのは、食材の香りを閉じ込める秀逸な調理法です。ただ、油によってはその香りを邪魔してしまいます」。無味無臭と言われる油は他にもあるが、天ぷら一筋で長年油に向き合ってきた清水さんは、そこに独特な癖やネガティブな香りを感じ取る。太白胡麻油も全く味や香りがしないわけではない。「でも、むしろ心地よく、旨味がある。まるでだしのようです」
レンコンやイカなど、香りがやわらかな素材を揚げると、その持ち味は一層際立つ。口に含んだ瞬間、まず素材の風味をダイレクトに感じる。そして咀嚼するうちに甘味や旨味が広がってくる。「新鮮な太白胡麻油で揚げると、余韻が非常に長いんです」
「他の油の倍くらい」と評する長い余韻の正体は、「実は半分が油のおいしさ。焙煎していないゴマ本来の旨味や甘味」だと清水さんは考える。「キレが良く淡麗でいて、奥行きのある味わい。縁の下で素材の力をぐっと数段持ち上げ、引き伸ばしてくれる。こんな油、他にありませんよね」