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食を旅する
第1回 フランスの冬 ~大好きな食材たちの集まる季節~

People / Life InnovatorDec. 8, 2016



「日々の旬」と言いたくなるほど、旬は細かい。


パリにまた寒い冬がやってきました。
ロンドンをも思わせるどんよりとした曇りがちな天気がほぼ毎日となり、テラスが大好きなフランス人もさすがに屋内へ移動するようになりました。
街中のバーやレストランは最盛期を迎え、人々の関心は徐々に食べ物へと移ってきます。

自分にとっても、初冬は、大好きな食材たちの集まる季節です。

バスクやブルターニュの海からは、脂のしっかりのったスズキやカツオやイワシ、そして身がしっかり膨らみながらも味は繊細な牡蠣や天然の殻付きウニがやってきます。オーベルニュからはシャントレルやピエ・ド・ムートンといったキノコ類、パリ近郊からもカボチャ、ニンジン、キャベツ、カブ、そして特にクレソンが手にズシッとくる身の締まった最高の状態となって届きます。レモン、ベルガモット、グレープフルーツといった柑橘類の旬も実は冬で、調理に取り入れることによって、土っぽい雰囲気の冬の素材たちにフレッシュさをもたらしてくれます。
フランスにいて、すごく楽しいのがこの季節感です。

農業大国のフランスは、食材の季節に関して、いまだにシンプルです。
つまり、その季節の食材のみがマルシェや店頭に並び、そうでないものは必ず姿を消します。チーズにすら旬があるくらいです。
自ずと季節の食材の範囲で料理することになり、そこに摂理が生まれます。
ただ、旬といっても、日本でもそうですが、一般に考えられているよりもっと細かくて、実際には週単位で少しずつ移り変わるのです。
自分の場合、ブルターニュとロワールの信頼する2軒の農家さんの作物によって、店で使う野菜の80パーセントを賄っていますが、それほど遠くないこの2つの畑でも、細かい旬はまったく一緒ではありません。こうした地理的な気候やミクロクリマによる差異や年ごとの差異を含めると、「日々の旬」とでも呼ぶべき細かい旬が、それこそ素材ごとの旬までもがあることに気付きます。



海や畑が送り出してくるベストの素材にはベストな対応で応えたい。





自分はこの季節感、そして、日々の直感をとても大事にしています。
昔、ある店で働いていた時に、こんなことがありました。
クリスマス用のメニューをシェフに提出して、味見をしてもらったのが10月中旬のこと。その時はすんなりOKが出たものの、クリスマス直前になったら、海が大時化でどうしても魚が手に入らないという事態に陥りました。確か魚はヒメジだったと記憶しています。
シェフに伝えると、「探せばあるだろう!?」。
魚の業者さんにあたってみたところ、「3、4日前に揚がったものならあるけれど、変なものは卸せない」の一点張り。その代わり、状態の良いスズキやタラがあるから、そちらを使ってはどうかと勧めてくれました。
しかし、シェフは勧めに耳を貸さず、その時手に入る一番の魚たちを横目に、すでにヒメジと謳ってしまっていたメニューにこだわったのです。
結果、ものすごい予約数の営業中、いつもの2倍近くの値段を払ってきてくれているお客さんたちに対して、自分としては納得のいかない魚たちを出し続けるいたたまれなさが2日間続きました。

この経験が僕にとってのターニングポイントでした。
「他にも良い魚があるのに、なぜ、この魚にこだわるのか?」。魚種を変えることで付け合せのバランスが損なわれるなら、生きの良い魚に合わせて付け合わせを変えればいいではないか。海の状況や畑の状況はプロに任せて、最高の食材を受け取った上で、自分たちが創造力を働かせて対応すれば、二度とこんな思いをしなくて済むのではないかと考えるようになったのです。

そもそも、フランス料理というものは、高度に分業化されていたり、様々なプロセスに非常に時間を要するものです。ましてや一営業50人から60人もの予約が入る店では、その日の仕入れに対応してメニューを変更することはほぼなされていません。
特に調理場で働く人数の多い星付きともなれば、作業の統率が混乱する可能性もあるため、簡単にメニューを変えられないのが現実です。
もちろん、それらの店の調理技術が低いわけではない。日々同じメニューで、日ごとの食材の個体差に対応するため、また違ったスキルの深さを持っていたりもします。

とはいえ、良い食材と的確な調理によって、最高の料理は生み出されるのです。海や畑が送り出してくる素材のベストに対してベストな対応ができないとしたら、素材は浮かばれないでしょう。
日々港に揚がる中から魚をチョイスしたり、農家さんとのコミュニケーションを大事にした上でメニューを考えればいいと思うのです。そうすれば、レストランという立場でも、食品廃棄の問題にも最大限対応できるのではないかと。

食材を選ぶ。けど、選ばない。





今、「Dersou」には、家禽、豚、牛、仔羊、鴨と、それぞれ別々の5つの農場から肉がやってきます。
ロワールで育てられる鳩は、土曜日の18時までにオーダーすると、頼んだ数だけ最後に特別な飼料を与られて、水曜日に店に届きます。また、パリから3時間ほどのシャブリ近郊の農場で育てられる仔羊は、フランス産の多くがアメリカ産の飼料を食べて育つ中、ここではエサも自家栽培で、オーダー分だけ毎週屠殺されます。スペイン産のガリス牛は、1頭もしくは半頭でパリに届き、各部位をレストラン同士で分け合うシステムを取っています。卵は、うちの店で使っている鶏たちが産み落としたもの。ひとつ一つ、手で拾ってもらっています。

このようにすることで、無駄に屠殺したり、中央市場の巨大な冷蔵庫で長く出番を待った挙句に、場合によっては泣く泣く廃棄の運命に合うということが避けられると思うのです。





僕の最近のモットーは、「食材を選ぶ。けど、選ばない」です。
長い時間をかけて出会ったフランス中の生産者たちとの関係は、自分にとって、かけがえのない財産。信頼できる彼らの仕事に100パーセントの信頼を置いています。鶏一羽でも、ほうれん草でも、彼らが作るのは、すべて愛おしく思えるほど。

20軒近くと直接取引するため、彼らとのコミュニケーションに1日2~3時間を費やします。彼らとよく相談した上で、毎日または週ごとに送ってもらう食材たちが決まるのです。
時には向こうから「卵が余って仕方ないから、お店で使ってくれないか」とか、「ニンジンが大量にできてしまったので、1キロ1ユーロでいいから、20キロ買ってほしい」といった申し出がある。そんな時、僕は喜んで「全部ください」と言います。そして、どんなおいしい卵の料理を作ろうか、冷たいのがいいか、温かいのがいいか、ニンジン20キロはとても夜の営業だけではさばけないから、今週の週末のランチにはキャロットケーキを焼こうとか、中央アジア風ニンジンの炊き込みごはんパロフにしよう、なんて考えていると、毎日が「料理の鉄人」のように、お題を与えられて料理しているみたいで楽しくなります。
そんなシチュエーションから思いついた料理もたくさんあって、クリエイションが生まれる、一石二鳥の機会なんですね。

料理好きで人間大好き。だから、この職業をやっている。そんな僕は、彼らとのやりとりがやめられないのです。

『料理通信』2017年1月号掲載 「クリエイション魂 料理人・関根拓」はコチラからどうぞ!

関根 拓(せきね・たく)
1980年神奈川県生まれ。大学在学中、イタリア短期留学をきっかけとして料理に目覚め、料理人を志す。大学卒業後、仏語と英語習得のためカナダに留学。帰国後、「プティバトー」を経て、「ベージュ アラン・デュカス 東京」に立ち上げから3年半勤務。渡仏後はパリ「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で腕を磨き、二ツ星「エレーヌ・ダローズ」ではスーシェフを務める。その後、パリのビストロ、アメリカをはじめとする各国での経験の後、2014年パリ12区に「デルス」をオープン。世界的料理イベント「Omnivore 2015」で最優秀賞、また、グルメガイド『Fooding』では2016年のベストレストランに選ばれた。http://www.dersouparis.com/







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