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PEOPLE / LIFE INNOVATOR

食を旅する
第3回 「器、料理、人」

People / Life InnovatorFeb. 28, 2017

笠間や益子の雰囲気がそのまま運ばれてきたよう…


外に出るのがつい億劫になってしまう、未だ肌寒い2月のパリ。
そんな時、僕は自宅にある器たちを眺めて料理を空想します。

器を好きになったのは、料理を本格的に始めるよりも前のことでした。
大学生の頃に笠間・益子の陶器市に通うようになったのがきっかけです。
初めは器の良し悪しもわからず、おみやげ程度に買っているにすぎませんでした。
しかし、家に戻って、持ち帰ったお皿に、さっと無造作にパスタを盛りつけてみます。
すると、笠間・益子の雰囲気がそのまま運ばれてきたようで、いつもよりなんだかとてもおいしそうです。


料理にも少しずつ興味が出てきて、今も尊敬する料理家の一人、有元葉子さんの本に出会ったのもこの頃。
その本には、国籍も質感もまちまちな器やテーブルスタイリングの上に、色鮮やかで艶やかな料理が次々と登場します。
カテゴリーや時代に左右されない、有元さん独自の美意識とセンスに溢れるセッティングが、本当においしそうで、楽しそうで、自分もいつかこんなふうに料理をしてみたいと思うようになりました。

額賀さんの作品にひと目で恋に落ちた。


現在、Dersouで使われている500点ほどのお皿の9割は、笠間・益子の作家さんたちの手によるものです。
お店のオープンにあたって、僕一人で8個のスーツケースを一度に日本から運んだこともありました。
せっかく心を込めて制作していただいたお皿をパリまで運ぶのですから、梱包には最大限の注意を払います。おかげで通算4点ほどが破損したのみで、多くのお皿はいまも現役として活躍しています。




それらの中でも、半分以上を占めるのが額賀章雄さんの作品です。
彼のお皿を初めて目にしたのは、16年前、益子の「スターネット」を訪れた時のこと。
店内に飾られていた彼の「作品」は、自分が今まで陶器市で目にしたことのあるものとは、まったく異なる洗練をまとっていました。
ずっしりとした質感の中にも、どこか優しさや謙虚さ、そして繊細さが見え隠れする……。一目で恋に落ちました。
その後、料理人になってからのある日、お世話になっていた和食の料理人さんが店を出すにあたっての器の買い付けに、付いて行くことになりました。
行き先も知らずに到着したその場所は、たまたま僕が数年前に恋に落ちた額賀さんのアトリエ……。
とうとうお会いできた額賀さん本人は、彼のお皿から想像していた通りの素敵な方でした。

額賀章雄さんのアトリエにて。



それからフランスへ渡り、10年近く笠間・益子とも疎遠になっていました。
しかし、パリでの独立を決意した時、僕は真っ先に額賀さんのもとへ、お皿の制作をお願いしに行くことにしたのです。自分のレストランでお客様が食事する姿を想像すると、どうしても彼の器なしでは考えられなかった。
すでに世界的に有名になられて、作り出すものすべてが予約済みという状況の中で、急なお願いを快く引き受けてくださいました。

作風も人柄も、面白いほど違う。


パリでの独立準備を進めていく中で、他にもたくさんの素敵な作家さんたちに巡り会えました。
二階堂明弘さん、吉村和美さん、高山英樹さん、そして、鈴木稔さん。
面白いほどに、彼らの作風、そして人柄は、決して同じではありません。

二階堂さんのそれは繊細で、芸術的でありながら、若いエネルギーに満ちています。
吉村さんの器は、錬金師を思い起こさせるほどの色の魔術に溢れています。
高山さんの木の器は、厚い木を一枚一枚、やすりで削っていくことによって得られる独特で滑らかなカーブに、彼の優しい人柄が映り込んでいます。

二階堂明弘さんの器に料理を。




Dersouのカウンターに並ぶ吉村和美さんの器たち。



そして、鈴木稔さんは、僕の大学の大先輩です。
初めて彼のアトリエを訪れた際、僕に対して「大学を出てまで、どうして料理人になっちゃったの?」と言うそばから、周囲の人々に「こんな田舎で器を作ることにハマってしまったあなたと同じでしょう」とからかわれるようなお人柄。
彼の器は、作家ものにしてはめずらしく、すべて型から起すいわゆる「型物」です。
それを、ガス窯ではなく、対流のない登り窯で焼き上げることによって、誰にも予測できない「景色」が浮かび上がります。

2013年に初めて彼のアトリエにお邪魔した時は、震災で崩壊した登り窯を作り直しているご苦労の最中でした。
正式に制作をお願いしに伺った際には、「自分で事業を始める時の大変さは十分知っている。大学の後輩だし、支払いは出世払いでかまわないから、とにかく頑張って」と、その頃の自分のひたすらに不安な心境を察するかのような温かい言葉をかけてくれたことが今でも忘れられません。


鈴木稔さんのアトリエにて。



エスプレッソを入れた鈴木稔さんの器を、高山英樹さんのソーサーで。



日本の器にこだわっているわけではない。


Dersouがオープンすると、8mのカウンターのお客様の前に積み上げられた彼らの作品は、すぐさま店一番の人気者となりました。フランス人が思い描く、いわゆる日本らしいイメージの有田焼や瀬戸焼とは違った表情を持っていたようなのです。



雑誌の撮影や取材も殺到しました。
今でもよく聞かれた質問を覚えています。

「なぜ、日本の器なのか?」

昔も今も、僕は特に日本の器にこだわっているわけではありません。
料理と同じで、優れたものであれば、そこに国境などないと思っています。
国境の概念は、様々な煩わしいことに線を引くためのもの。
もし、音楽や料理、そして芸術に国境などできたら、人生はつまらない。
そう、思います。
僕はお皿のデザインやそれを作る人を好きになることはあっても、お皿の国籍を好きになったことはありません。
だから、Dersouに日本人の作るお皿と他国の人間が作るお皿が混在したとしても、何の違和感もないと思っています。

不均一で未完成な、彼女らしい世界観。


初期の頃からのお客さんの一人に、Judith(ジュディット)というフランス人の女の子がいます。
彼女はいつも一人でカウンターに座り、注文した料理を待つ間、熱心に器を手に取って眺めます。時には写真に収めたり、器がどこから来たのか、どのように焼かれているのか、熱心に聞いてくる。聞けば、建築の学校を出て、デザイン事務所で働いているというんですね。
その後、彼女はブルッセルヘと引っ越してしまい、しばらく音沙汰なしでした。

ある時、風の便りに彼女がアトリエを持ってお皿を作り出したと聞いて、ブリュッセルへ行く用事があった折に連絡してみました。
カフェで待ち合わせて、作品を見せてもらうと、それらはものすごく彼女らしい世界観に溢れていました。
僕は、その昔、額賀さんの作品を初めて目にした時の感覚を思い起こしました。



ジュディットのアトリエにて。



彼女は、すべての作品を、型もロクロも使うことなく、「手」で成形します。
お碗ひとつとっても、普通はロクロで成形するところを、円形に切り取った平面の土をひたすら手で引き伸ばしていくのです。
だから、彼女の器は、どれひとつとっても均一でなく、ひとつのお皿の中でも厚いところ薄いところが共存している。
僕はそんな人間味溢れる彼女の作品が大好きです。



ジュディットのお皿に料理を。



焼き方にも、彼女らしい美感覚が表れています。
通常、土練り→成形→乾燥→素焼き(土の中のガスを抜き、釉薬ののりが良くなるようにある程度火を入れる)→釉薬がけ→本焼きというところを、彼女は素焼きをせずに釉薬をかけてしまい、一度で焼き上げます。
それによって、彼女の器は釉薬が安定せず、焼成中に発生する土の中からのガスのおかげで、月のクレーターのような表情をのぞかせます。
才能に恵まれながらもまだキャリアの浅い彼女は、試行錯誤しながら、意欲的に自分らしい土や釉薬を探し、彼女らしい形、焼きを日々模索している最中です。

先日、ジュディットが再び店へ食事に訪れました。
僕は、最近受け取った彼女の白いいびつな碗とも平皿とも言えない器の上に水餃子をのせて提供しました。
数分後、様子を見ると、いつものカウンターの席に座る彼女は、目を真っ赤にして泣いていました。
思わず、どうしたのかを尋ねると、「いつかこの店で、額賀さんや二階堂さんの器の間に自分の器が並べられる日を夢見ていたの。」と言います。

僕は、改めて、見慣れたカウンターの上のお皿たちを端から端まで眺めてみました。
すると確かに、彼女の作品が店の器の1割を占めるまでになっていたのでした。



関根 拓(せきね・たく)
1980年神奈川県生まれ。大学在学中、イタリア短期留学をきっかけとして料理に目覚め、料理人を志す。大学卒業後、仏語と英語習得のためカナダに留学。帰国後、「プティバトー」を経て、「ベージュ アラン・デュカス 東京」に立ち上げから3年半勤務。渡仏後はパリ「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で腕を磨き、二ツ星「エレーヌ・ダローズ」ではスーシェフを務める。その後、パリのビストロ、アメリカをはじめとする各国での経験の後、2014年パリ12区に「デルス」をオープン。世界的料理イベント「Omnivore 2015」で最優秀賞、また、グルメガイド『Fooding』では2016年のベストレストランに選ばれた。http://www.dersouparis.com/







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