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食を旅する
第5回 「日常と粉物」

People / Life InnovatorMay. 9, 2017



パリ中に散らばる、様々な場所から集まった人たちの営み。


フランスに来てもうすぐ10年が経とうとしています。
パリで生活を始めた頃は、一人の外国人として、この国の日常を外側から眺めていました。
サンマルタン運河のほとりでゆっくりと時間を楽しむ人々。
日曜日の朝、大きな声で会話をしながら、マルシェで買い物をする人たち。
しかし、長い年月を過していると、そんな「パリらしい光景」だけがこの街のすべてではないことに気付きます。
この街の本当の面白さは多様性。アフリカ人も、アジア人も、南米人も、アメリカ人もいる。
パリ中に散らばる、様々な場所から集まった人たちの営みも、この街の景色の一部なのです。

粉物のダイナミックな世界。





世界中から持ち込まれた彼らの食も、この街の魅力の一つです。
僕はよく、あらゆる国の日常食を食べに行きます。
ベトナムのフォー。日本のラーメン。中国の刀鞘麺、点心、豆腐。インドのドーサやナン。トルコのラフマジュン。
日常を支える普段の食事は、フレーバーに溢れていて、腹の溜まりもよく、毎日食べても飽きないものです。
特に粉物には目がありません。

粉物には、民族や国境を超えて、それぞれのスタイルと味がある。
形、具材、スープ、トッピング、味付け、どの角度から切り取っても、無限の広がりがあって自由です。
「なりたけラーメン」パリ店の手作り麺は、パリであらゆる麺を試してきた中、一番完成度が高いと思う麺。



ベルビルで美味しい粉物が食べられる二店舗より
左)「La tour belleville」の刀鞘麺。北京の路上で食べられるストリートなものに近い。
右)「le grand bol」のミニ肉饅頭。手作りでオーダーごとに蒸されてきてとにかく美味しい。



ベルビルからもうひとつ。「東北餃子楼」の餃子の中でも、水餃子は大好きな1品。



仕事前によく自転車で買いに行く、「Urfa Durum」のラフマジュン。



デルソーでセップの季節に提供しているピタ。ピザというよりもミルクパンの生地に近く、ナンのように澄ましバターをたっぷり吸い込ませている。



粉はいつも脇役でもあり主役でもあります。
蒸された肉饅頭の肉汁を吸い込む発酵生地。
高温のオーブンの中で自然とスモークのかかった羊の脂を受け止めるラフマジュンの生地。
旨味ののったスープとねぎ油が乳化して中華麺に絡みつく姿。
映画のキャスティングのように、すべてが一緒になって場を盛り上げている。
粉の周りには、そんな人をわくわくさせるダイナミックな世界があります。

遠い北京の食卓に連れて行ってくれる。





小学生の頃、僕には一つだけ得意な料理がありました。それは「餅ピザ」です。
切り餅を細かく切ってオーブントースターで溶かした、なんちゃって「生地」のピザです。
僕はそのピザに少しずつ工夫をするのが大好きでした。
焼き時間を調節したり、ソースやのっける具材をあれこれ変えてみたり。
料理の楽しさは、レシピを追うことだけでなく、自分なりに想像を働かせて好きなように設計すること。
だから、究極の正解はどこにもないし、扉はすべての人に開かれている。
世界中で作られてきた粉物も、きっとそんなふうに生まれたのではないかと想像するのです。


ある時、書店で『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』という本に出会います。
そこには、小麦粉と水から始まる簡単な材料のみで、虹のようなバリエーションの料理が繰り広げられていました。
プロの料理人になって、複雑な作業に追われるばかりで、料理の純粋な楽しさを少し忘れてしまっていた頃です。
僕は毎週末、夢中になってこの本に紹介されている料理を作り始めました。





レシピを作りながら、僕はいつも遠い北京の日常の幸せな食卓の香りや音を想像していました。
数年経って、パリに移り住んでからも、それはまったく変わりませんでした。
辛い1日の後でも、毎晩、就寝前にこの本に目を通すのが楽しみでした。
今でも、長い年月を一緒に過ごしたこの本を開くと元気が湧いてきます。
週末のキッチンでもボロボロになるまで使い果たされたこの本は、現在3代目を迎えています。

フランスの食材で作るアジアの日常食を、いつかパリの日常に。





デルソーの手作り餃子と、野菜のブイヨンに浮かべて提供しているフォワグラのラビオリ。トップの写真は、冬に時折出す菊芋の饅頭。肉を入れず、煮詰めたキノコのエッセンスで旨みを補っている。



僕には今、新しい夢があります。
それは「French Asian Bistro」をオープンさせることです。
フランスのすばらしい食材を使ったアジア“風”の日常食を提供するお店です。

前菜には季節の野菜が餃子になっていたり、蒸したての点心が並び、〆にはフランスの小麦粉で作った自家製麺が供される。
できるだけこの国の季節のものを使いたいから、本場のレシピとは変わってくるかもしれません。
それでも、そんな偶然から作られた料理を、料理人もお客さんも楽しめる空間であってほしい。
僕は、このお店がいつかパリの新しい日常になる日を夢見ています。

関根 拓(せきね・たく)
1980年神奈川県生まれ。大学在学中、イタリア短期留学をきっかけとして料理に目覚め、料理人を志す。大学卒業後、仏語と英語習得のためカナダに留学。帰国後、「プティバトー」を経て、「ベージュ アラン・デュカス 東京」に立ち上げから3年半勤務。渡仏後はパリ「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で腕を磨き、二ツ星「エレーヌ・ダローズ」ではスーシェフを務める。その後、パリのビストロ、アメリカをはじめとする各国での経験の後、2014年パリ12区に「デルス」をオープン。世界的料理イベント「Omnivore 2015」で最優秀賞、また、グルメガイド『Fooding』では2016年のベストレストランに選ばれた。http://www.dersouparis.com/







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