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FEATURE / MOVEMENT

K-POP、SHOGUNに続く!?ガストロノミー界におけるアジアの現在地

2024.11.05

K-POP、SHOGUNに続く!?ガストロノミー界におけるアジアの現在地

text by Naoko Asai / photographs by ICSA JAPAN

昨今、アジア勢の活躍が目覚ましい音楽、映画業界に続き、ガストロノミー界でもアジア出身やアジアを拠点とするシェフたちの存在感がじわじわと高まっている。背景にはアジアの食文化の多様性と、グローバルに活躍するアジア出身シェフが増えたことも挙げられるだろう。2024年9月10日、栃木県日光市で開催された「ICSA」(International Chefs Summit Asia)に集結した韓国、香港、日本を拠点とするシェフたちの言葉から、世界のガストロノミーにおけるアジアの現在地を探る。


エキゾチシズムから解放された「アジアの料理」

「アジアのシェフにとって、今より良いチャンスが巡ってくることがあるだろうかと思えるほど、私たちはいま、強烈なスポットライトを浴びている渦中にいます」と熱気を帯びた口調で切り出したのは、フランス料理の技術で再構築した中国料理を得意とするミシュラン一ツ星シェフ、ヴィッキー・チェン(Vicky Cheng)だ。

ヴィッキー・チェン(Vicky Cheng)

香港出身のチェンは、12歳で家族と共にカナダのトロントに移住。グローバルな生い立ちは、セオリーに捉われない彼独自の中国料理の形成に影響を与えている。「私の周りには、上海料理の師匠も、広東料理の師匠もいませんでした。師匠はフランス料理のシェフだけです」というチェンは、フランス料理店での職業体験をきっかけにシェフになることを決意し、その後NYで星付きのクラシックなフランス料理店などを経て、2015年、香港に「VEA」をオープン。ミシュラン一ツ星を獲得した後、2021年には2軒目のレストラン「WING」を開店。2024年の「World’s 50 Best Restaurants」(世界のベストレストラン50)では、20位にランクインした。

「自分がシェフになると決めた当時は、フランス料理のシェフになりたかったですし、中国料理のシェフを目指すという選択肢は、考えてもいませんでした。というのも、ファインダイニングで提供される料理といえば、フランス料理が当たり前だったからです。でも、今ではどうですか? ご存じのように、中国料理に限らず韓国料理、日本料理、インド料理・・・と様々な料理のジャンルが、ガストロノミーの世界で地位を確立しつつあります」

ICSAのディナーイベントで提供されたヴィッキー・チェンの一品。パリッと膨らんだ春巻きの中身は大ぶりのナマコ。客席で半分に切り分けるプレゼンテーションも織り込み済みだ。
ICSAのディナーイベントで提供されたヴィッキー・チェンの一品。パリッと膨らんだ春巻きの中身は大ぶりのナマコ。客席で半分に切り分けるプレゼンテーションも織り込み済みだ。

前述の「ベスト50」の上位は相変わらずスペインや北欧、南米のレストランが並ぶが、彼の指摘通り、アジアのレストランも毎年ランキング入りする常連組もあれば、昨年の8位から今年6位にランクアップし話題となった現代韓国料理のNY「Atomix」のように、異国の地でアジア料理のDNAを埋め込み、頭角を現す韓国人シェフも登場。エキゾチシズムから解放された「アジアの料理」が国際的なガストロノミーの舞台で脚光を浴びる状況は、グラミー賞候補に挙がったK-POPグループのBTSや、エミー賞史上最多部門を受賞したドラマ『SHOGUN 将軍』といったエンターテインメント界におけるアジア勢の隆盛とも重なる。そこに通底するのは、これまでの欧米を基準とした評価枠では捉えきれない、オルタナティブな価値の提示だ。

ガストロノミーの世界では、「分子ガストロノミー」を打ち出した「エル・ブジ」による地殻変動の後、北欧勢や南米勢によるムーブメントが起き、今度は新しいアジアの時代を予感させる変革の風が、同時多発的に吹き始めている。


足並みを揃えて世界にインパクトを与えていく

ペルーの自然と生態系を東京で映し出す「MAZ(マス)」のサンティアゴ・フェルナンデスは、「日光の渓流」と名付けた写真の一品ほか計3品を披露。
ペルーの自然と生態系を東京で映し出す「MAZ(マス)」のサンティアゴ・フェルナンデスは、「日光の渓流」と名付けた写真の一品ほか計3品を披露。

ベネズエラ出身でペルー「Central」を経て、現在ミシュラン二ツ星レストラン「MAZ」を指揮するサンティアゴ・フェルナンデス(Santiago Fernandez)は、「Central」のキッチンで過ごした5年の間に、南米勢の国際的な評価が駆け足で高まっていく状況を見てきた。そんな彼が、今後のアジアの料理の存在感を高めるためのヒントを教えてくれた。

「ペルー料理や南米料理が近年注目を浴びるようになった最大の要因は、シェフたちみんなが一丸となって、ガストロノミーの世界に自分たちの料理を発信していったからだと思います。シェフたちが、各自それぞれのことをやっているのではなく、大きな目的、つまり、ペルー料理、南米料理を広めようという目標の下に、みんなで情報や考えを共有し、足並みを揃えて世界にインパクトを与えていったのです。そういった試みが、決して日本やアジアにないわけではなく、今、まさにとてもいい方向に向かっていると思います。それを強めていけばもっと国際的なガストロノミーの世界で存在感を示せるのではないでしょうか」

最後に、韓国から招聘されたシェフ二人を紹介したい。いずれも、料理界のハーバードと称される名門料理大学「Culinary Institute of America」(CIA)を卒業したエリートだ。チェンやフェルナンデス同様、海外のレストランでの経験を積んでソウルに戻ってきた。

韓国「Solbam」のシェフ、通称TJによるキンメダイ、ラディッシュ、白菜、エボヤを使った一品。
韓国「Solbam」のシェフ、通称TJによるキンメダイ、ラディッシュ、白菜、エボヤを使った一品。

ソウルで現代韓国料理を提供する一ツ星レストラン「Solbam」のシェフ、オム・テジュン(Eom Tae Jun、通称Chef TJ)はCIA卒業後、NYのミシュラン三ツ星店「イレブン・マディソン・パーク」などで経験を積んだ。もう一人のシェフ、ソン・ジョンウン(Son Jong Won)は、卒業後西海岸のミシュラン三ツ星店「Benu」などを経て、現在、ソウルにてフランス料理店「ラマン・シークレット」と現代韓国料理店「イータニック・ガーデン」(どちらもミシュラン一ツ星)を手がけている。

現代韓国料理「Eatanic Garden」のソン・ジョンウンによる古米、高麗人参、栗を詰めた伊達鶏のサムゲタン。
現代韓国料理「Eatanic Garden」のソン・ジョンウンによる古米、高麗人参、栗を詰めた伊達鶏のサムゲタン。

ポップカルチャーとガストロノミーの関連性を意識して足を運ぶゲストは稀だろうが、K-コンテンツによる追い風についての影響を二人に尋ねてみた。
「影響は少なからずあります。K-POPが世界的に有名になったことで注目を浴びることが多くなりましたが、あくまでも韓国のカルチャーの一部。それをきっかけに、もっと広い世界を知っていただけたらと思います」(オム)
「数年前は、韓国という国がどこにあるかさえ知らない人も多かったが、今は韓国に行きたい、知りたいという興味を持つ方が増えてきましたので、非常に良い影響を与えたと思っています。最終的に韓国の文化を発見することに繋がるのではないでしょうか」(ソン)

上昇気流にのるアジアのガストロノミーが、どこまで高く飛べるのか。次のミシュランガイドやベスト50のリスト、そして、今回開催されたICSAに顔を並べるアジア勢の動きを注視したい。

2017年に台北で第1回が開催され、今年初の日本開催となった「インターナショナル・シェフズ・サミット・アジア(略称ICSA)」。コラボレーションを通じて、アジアのシェフ同士が互いに学び合い、刺激し合える場を提供し、美食家とトップシェフ、そしてラグジュアリーホテルとの橋渡し役を果たすことを目的としている。今秋の日本人参加シェフは「フロリレージュ」川手寛康、「傳」長谷川在佑、「FARO」加藤峰子、「JULIA」naoの4名(敬称略)。
2017年に台北で第1回が開催され、今年初の日本開催となった「インターナショナル・シェフズ・サミット・アジア(略称ICSA)」。コラボレーションを通じて、アジアのシェフ同士が互いに学び合い、刺激し合える場を提供し、美食家とトップシェフ、そしてラグジュアリーホテルとの橋渡し役を果たすことを目的としている。今秋の日本人参加シェフは「フロリレージュ」川手寛康、「傳」長谷川在佑、「FARO」加藤峰子、「JULIA」naoの4名(敬称略)。

International Chefs Summit Asia(ICSA)
https://www.instagram.com/icsa_world/

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