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ポルトガル現地取材 〈夏の酒とつまみ〉番外編  ヴィーニョ・ヴェルデとイワシ祭り  | The Cuisine Press WEB料理通信

1970.01.01

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夏こそ冷蔵庫に常備したいのが、飲み口の軽いポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデ。
夏至を目前に控えた6月下旬、産地を訪れる機会に恵まれました。

3日間の産地訪問の最終日には、ポルトで年に1度開かれるイワシ祭り(正式名称は「サン・ジュアン祭り」)が控えています。祭り体験者は興奮気味に、こう説明してくれました。

「ピコピコハンマーでみんなが頭を叩き合って、街じゅうで焼かれているイワシを食べる祭りよ」。

ヴィーニョ・ヴェルデとイワシ祭りは魅惑的な響きですが、ピコピコハンマーはいったい何のために……想像がつかないまま、産地訪問へ旅立ちました。







産地目指して、ポルトガルの北へ

最寄りの大都市はリスボンではなく北部のポルト。ポルトといえば、ポート酒があまりにも有名ですが、ヴィーニョ・ヴェルデの産地はそのすぐそば、ポルト市の北からスペイン国境までの海寄りの地域に広がります。

ポルト市はヴィーニョ・ヴェルデの旅の玄関口です。

ワイナリーに到着すると、視界は空の青と緑でくっきり二分されます。のどかなブドウ畑と山並みは、どこか日本の風景にも似たところが……。

ヴィーニョはワイン。ヴェルデは緑。ポルト以北は豊かな川のおかげで、ポルトガルの中でも特に緑に恵まれたエリアにあたります。ワイン産地の名前の由来もここにありますが、同時に「緑=若い」という意味も含みます。

「若摘み、若飲みの微発泡の白ワインが生産の大半を占めていますが、古くは赤のほうが多かったんですよ」とはこの旅の案内人、ヴィーニョ・ヴェルデ生産者協会のバルバラさん。現在も赤、ロゼ、スパークリング、蒸留酒がヴィーニョ・ヴェルデで作られるアルコールとして認められています。

最近、人気急上昇中なのが、ヴィーニョ・ヴェルデのロゼ。ベリー系のニュアンスがありながら飲み口はドライ。

自然派系のヴィーニョ・ヴェルデも登場。昨年初めてアンフォラを使って醸した「アフロス」は、少量生産のため日本未入荷。







昔からずっと、土着品種

6月は太陽が沈む時刻が夜10時近く、夕方でも日差しは強いため、畑の取材は夕飯前の8時近くになることも。

訪問したワイナリーの中で、最も猛烈な働きぶりを匂わせたのが「ソラール・デ・セラーデ」のアントニオ・ソウザさん。ブドウ栽培、ワイン造りのそばにいることが幸せ、と「睡眠時間は2、3時間で十分」と言います。

ソウザさんは18年前からワイン造りを仕事に。「ブドウと接している時は、何事も苦ではない」と。まさに天職です。

ソウザさんが18年前から手掛けるワイン。2003年の古酒から遅摘みのブドウで仕込んだヴィーニョ・ヴェルデまで、食事が進むにつれ、珍しいアイテムが次々に出てきました。どれも飲み飽きないしみじみとした味わいがあります。

実直な造り手と同じく、実はブドウも実直でした。なんと、ヴィーニョ・ヴェルデは外来種ゼロ、すべて土着品種で造られているのです。

ポルトガル語でハーブのローリエを指す「ロウレイロ」が最も広く栽培されている品種。房が大きく、収量もたくさん採れます。反対に小さくて収量が少ないのが「アルヴァリーニョ」。値段も他に比べると少し高めです。

写真はロウレイロ。協会が認めている品種は白赤全部で45種類あり、栽培に適した畑を細かく分析して、土地にあった品種を推奨しています。そして現在、1万9000軒の農家が栽培を支えているそうです。

ヴィーニョ・ヴェルデは、かつては自然の泡でしたが、輸送段階でワインが吹き出すリスクをなくすため、ガスを残したい場合は後から注入して安定させることが協会によって義務付けられています。泡の強弱は造り手の考え方でそれぞれ違い、「ガスは必要最小限に」とか、「まったく加えない」という生産者も、産地巡りで初めて気付いたことでした。

とはいえ、一般的な微発泡のヴィーニョ・ヴェルデは、最初、軽い泡の爽快感で喉を潤し、泡が落ち着いたらスティルワインとして食事とゆっくり楽しめます。1本で2度おいしいのですから、デイリーワインとしてはとても魅力的です。

今回訪れたワイナリーも個性は様々(詳しくは『料理通信』2016年9月号82ページをご覧ください)。しかし、共通しているのはコストパフォーマンスの高さでした。造り手の思いに触れるたびに、日本での選択肢がもっと増えてほしい。そんな思いを新たにした産地巡りでした。







いざ、ポルトのイワシ祭りへ

ヴィーニョ・ヴェルデとも相性ぴったりのイワシ。街全体がイワシを焼く匂いに包まれる「サン・ジュアン祭り」は、毎年、6月23日の夜から24日の明け方にかけて開催されます。

当日は朝から祭りの準備で、街全体がそわそわ。かつてこの祭りには、魔よけの小道具「ニンニクの花」が欠かせませんでした。今は、ピコピコハンマーが主流になりましたが、少なくなったとはいえ、この日は、マッチ売りの少女ならぬ、ニンニクの花を売る青年が街角に立つ姿もちらほら。

街角に立って、ニンニクの花を売る青年。花は紫色です。根っこにはニンニクの白い姿も。それにしても長い!

ニンニクの花に代わって、祭りに欠かせない小道具がピコピコハンマー。祭りで大活躍しました。

産地訪問の取材を終えた最終日の夕方。中心地に繰り出そうとホテルから最寄りの地下鉄へ向かう途中、早くもイワシを焼く光景が目に飛び込みます。すぐ向かいのテーブルでは、イワシの塩焼きでディナーをとる家族連れで席は埋まっています。



イワシは日本のものに比べると太めです。

中心地の駅に到着して、ドウロ川に向かって歩き出すと、今度はピコピコハンマー売りの屋台があちこちで店を広げている光景に出くわします。色や形、柔らかさも様々なピコピコハンマー。音ももちろん出ます。日本から持参する必要はありません。

ピコピコハンマー売りの屋台では、伝統的なニンニクの花とハーブを売る店もあります。

街の中心地に入ると、人の波がどんどん大きくなっていきます。駅からドウロ川に向かう人の波は、場所によっては原宿の竹下通りなど比ではないほどの人ごみです。
ここでまずはウォーミングアップに道行く人の頭をピコピコハンマーで叩きます。

ポルトのどこに、こんなに人がいたのかと思うほど、通りという通りが人で埋め尽くされます。



歩いている途中にも、イワシを焼く店先からはおいしそうな匂いが…。熱源はどの店も100%炭です。

ドウロ川沿いに到着すると、美しくライトアップされたポルトの街が浮かびあがります。そして、人口密度はさらにアップ。身動きがとれない場所も。こうなると、もう飲み物や食べ物を持つのは、危険な状況です。小さなお子さんは迷子に注意!
深夜0時になると盛大な花火大会がスタートし、祭りはクライマックスを迎えます。

ドウロ川沿いの、最も人が集中するエリア。ピコピコハンマーの雨に打たれている右の女性、喜びすぎですが、みんな笑顔で「叩き、叩かれ合う」という祭りです。

実は、このお祭りに関して、一つだけお伝えしていないことが……。
ピコピコハンマーとイワシ以外に、この祭りには世界的にも類のない、
とてもロマンチックな仕掛けがあるのです。
その仕掛けは、空を見上げるとすぐにわかります。

「サン・ジュアン祭り」が気になったという方は、どうぞ、検索などせず、6月23日、ポルトへ直行してください。旅の感動を保証します。
そしてヴィーニョ・ヴェルデとイワシで乾杯することもお忘れなく!

サービスショット。イワシの煙は相当なもの。それを一番に受けているのは、通行人ではなく、焼き手のおじさんたち。我慢して焼きに集中していたおじさんも、時々こんな表情を見せていました。







協力:ヴィーニョ・ヴェルデ生産者協会







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