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FEATURE / MOVEMENT

世界のアーバン・ファーミング事情 vol.4 <Brussels>

市民ファーマーを積極的に増やすブリュッセル市のWEBサービス

2022.04.28

text & photographs by Maki Miyazaki

連載:世界のアーバン・ファーミング事情


2019年5月に「世界のアーバン・ファーミング最新事情」としてお届けした記事を再公開します。都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。改めて知りたい都市型農業の事例です。


2015年の国連により掲げられた“世界を変革するための17の目標=エス・ディー・ジーズ(SDGs)”の発表をうけ、ブリュッセル市は、「都会で農業をやりたいですか」のキャッチフレーズで2016年、WEBサイト「グッドフード」を立ち上げた。市の管轄のもと実質的な指導は、ブリュッセル市の19の区や社会福祉センター、非営利団体が行っている。目標は、ブリュッセルとその近郊の食物生産・流通を改良し、2035年までに野菜と果物の自給自足を30%増にすることだ。

*TOP写真:グッドフードの講義に参加した男性が中心となり起業した屋上貸し菜園。縦に伸びる3㎡の植木箱を並べ、年間50種の野菜果物を生産する。

対象は市民や学校、農家や農協で、「都市農業」「若年層の食育」「食糧のゼロ浪費」「賞味期限切れ食品の行方」など15のテーマに分かれ、テーマ毎に複数用意されたワークショップに無料で参加できる。経験ゼロでも約100人いる市認定の「野菜栽培の師匠」から実践で指導を受けられる上、テラスも庭もない人には、区が公園の一部や空き地を共同の畑として提供。農業で起業したい個人や企業への経済的補助、法的知識のコンサルティングなど、都市農業に関する全てのノウハウが明示されている。

共同の畑は、隣近所の絆を深める最良の場所。種まきや収穫など事あるごとに老若男女が気軽に参加できるのが嬉しい。


住宅街の空き地を利用した共同の畑。雑木林も切り倒さず、雑草も刈らず、鳥が鳴き、虫や蜂が飛ぶ生物多様性のサンプルだ。

ビルの屋上に設置されたミツバチの巣箱。自然界での受粉には欠かせないミツバチだが、農薬で激減している悲しい現状がある。

共同の畑を借りているマンション暮らしの女性に話を聞くと「最初はミミズやクモが怖かったけれど、育てた野菜のおいしさに感動。虫に食われた野菜も愛おしく、今では生ゴミも捨てずに畑のコンポストへ。農薬で激減しているミツバチの食物連鎖を学び、仲間と一緒に畑の隅にミツバチの巣箱を作る計画に夢中です。収穫した野菜や果物を使った料理教室も楽しく、都市農業の輪はどんどん広がっています」と語る。
体を使っての農作業は心を和らげ、地域の住民とのコミュニケートが人脈の輪を広げる。人口117万人のブリュッセル市、自給率30%増は夢ではないだろう。



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