北イタリア発・暮らして見つけた!イタリアパン、味作りのコツ
2016.09.26
text by Yuko Suyama/photographs by Takehiko Niki
イタリアの食はパスタ、と思いきや、イタリア人たちに尋ねると、必ず「パスタよりパンだよ」と返って来る。そのパンも時と共に移り、ミラノに暮らして30年、このところ大きく変わったのは、パン屋さんだ。
以前は、木肌を活かした温かみのある家庭的な雰囲気で、早朝から溢れんばかりに焼き上がったパンが並び、ミラノの地元パン、ミケッタなどがおいしそうな香りに包まれていた。ところが、最近は、クール・モダンな雰囲気の店が増え、椅子席やバール機能も備えるようになってきている。
北イタリア、ブレッシャにある創業1937年の「エル・フォルネール」も、時代の変化と共に、店のスタイルを変えてきた家族経営のパン屋だ。近隣はもとより、車で30分もかけて通う客もいる人気店で、毎日裏の工房で焼き上がるパンは、2台の専用車で、市内にある他の3店舗やレストラン、またヴェローナ、ミラノ、トリノまで配送している。
イタリアパンにいま起こっている変化
ここのところ、イタリアの食通たちが注目するのが、小麦本来の味がするパンだ。素性がはっきりした良質な小麦粉を使い、長時間発酵させて作る馨しい香り、小麦の深い味わいを持つ食べ応えのあるパンである。そのためイタリア国内で栽培される、持続可能な栽培法を用いるビオ、ビオディナミコや、環境保全型低農薬の小麦に注目が集まって来た。
たとえば、パオロさんの店で使っているモリーノ・クアリアの「ペトラ」シリーズの小麦は、100%エミリア・ロマーニャ州で厳しい管理の元、低農薬栽培される小麦から生産されている。そして収穫後の小麦は、鮮度を保つため低温保存し、シリンダーロール製粉ではなく、熱を抑える最新技術の石臼製粉を採用している。石臼製粉は麦の粒を丸ごと挽く全粒製粉向きで、昨今のヘルシー志向にもかなう。
ペトラの持ち味を引き出すパスタ・マードレ
小麦粉の持ち味をより引き出すため、発酵方法にも変化が。選別培養したイースト菌を使う場合でも、より長く発酵時間をとったり、また、パネットーネやブリオッシュで使われる昔ながらのパスタ・マードレを使った発酵が、他のパンづくりにも取り入れられるようになってきたのだ。
パスタ・マードレは、イースト菌や空気中の多様な乳酸菌、酢酸菌を含む天然複合菌で、発酵に長い時間を要する。その代わりゆっくり時間をかけることで、粉のポテンシャルを余すことなく引き出し、お腹にもたれず消化しやすく、日持ちのよいパンに仕上がるのが特徴である。
パオロさんは、モリーノ・クアリア社の小麦粉の中でも小麦の表皮や胚芽を含む全粒粉「ペトラ9」とパスタ・マードレで作るフィローネが大好きだ。じっくり長い時間をかけるパスタ・マードレ発酵は、ペトラの含むすべての栄養素を花開かせ、発揮させることができ、また独特な風味が生まれる。
「ペトラは、深い味わいのパンに仕上がるので、塩分は通常の半分で大丈夫。」と、ヘルシー指向にもピッタリと語る。
パスタ・マードレは1日にパン用だと2回、ブリオッシュ用では3回、リンフレスコと呼ばれる作業が必要になる。発酵種に栄養を与えるため粉と水を加えて練り、ローラーにかけ滑らかにする作業だ。1日も休めないため、導入しても続けられず、途中でやめてしまうパン屋もいるなか、パオロさんはパスタ・マードレをメインに店の商品を構成している。
この10月から、パオロさんは「パンのおしゃべり会」を始める予定。講習会というより、おしゃべりしながら実際に粉に触り、捏ねて、各々自分で作ったパンを持ち帰る気楽なパンの集まりだ。グルテンアレルギーに悩むイタリア人が増える中、パンへの関心や知識を増やしたいと考えるお客さんが増えていると感じ、それに応えたいと企画した。
店名の「エル・フォルネール」は、ブレッシャ方言のパン屋さんの意。パオロさんは、忘れられがちな食の伝統を守り、新しい息吹を吹き込みながら、みんなに親しまれるおいしいパンを焼き続けたいと願っている。そのパオロさんが選んだ、豊かな小麦本来の風味が感じられる「ぺトラ」シリーズが、この秋日本に上陸するという、なんとも嬉しいニュースだ。
◎èl Forner エル・フォルネール本店
Via Noce, 45 Bresia
☎ 030-3532436
7:15~13:00
15:45~19:15
日曜、月曜午後休
http://www.elfornerbrescia.eu