EUのブランド豚は、日本の食卓に浸透する。
―欧州・食肉最前線<豚肉編>―
2021.05.24
text by Miyo Yoshinaga / photographs by Hiyori Ikai
持続可能性に重点を置き、「生産者からフォークまで」の食料生産流通チェーン全体を通して、高い安全性と品質基準の順守に細心の注意を払う、欧州連合(EU)の食肉。
その味わいの個性や力強さから、料理人たちのクリエイションをも刺激しています。
EPA協定(経済連携協定)発効後、日本への輸出が増え続けるEU食肉の魅力を、料理人とインポーターの目線から、掘り下げるシリーズ。
豚肉編では、スターゼン 海外本部 輸入ポーク部部長 小池公一さんと、六本木「割烹 小田島」小田島大祐シェフの対談です。
目次
欧州の豚は幸せですか?
小田島:環境意識の高まりによって、これからは食肉の製造環境を気にするお客さまが増えることも予想されます。その点でEUの豚肉は安全性や環境を重視して作られているので、お客さまに胸を張ってご提供できるのがありがたいです。
小池:EUではアニマルウェルフェアに先進的に取り組んでおり、養豚では母豚のストール(個別の檻)飼育を世界に先駆けて法規制しました。また成長促進ホルモン剤の使用も禁止されていますし、と畜法や動物がストレスなく生を全うできることを重視した育成法も採られています。豚は繊細な動物ですので、丁寧に扱うことが肉質の向上につながっています。
小田島:飼料にも工夫がありそうですね。
小池:穀物などの飼料をベースとしつつ、スペインのイベリコ豚に与えられるドングリもそうですが、プラスアルファをすることで、肉質の向上とともにブランディングにもつなげています。
変革期にある、欧州豚肉市場
小池:欧州から日本へは冷蔵での船便輸送が難しいので、日本に輸入される欧州産豚肉は冷凍品に特化しています。輸入冷凍豚肉ではEU産のシェアが広い。バラ肉も赤身率が高く、ベーコンなどに加工する際も歩留まりが良いというメリットもあります。デンマークでは、ハム・ソーセージメーカー向けの品質が改良されて日本市場に定着しました。生ハム需要の多いイタリアやスペイン、フランスなどでは、ピエトレン種というモモが大きく取れる赤身志向の豚も多く、EU域内でも仕向け先によって肉質に違いがあります。国によって好まれる部位は異なり、日本や韓国、イギリスではバラやロースの需要が高いです。
小田島:欧州の豚肉というと、イベリコ豚やバスク豚など、食材としても上質なものが多いイメージがあります。
小池:そうですね。イベリコ豚のヒットをきっかけに、ヨーロッパ産豚肉の認知は一気に高まりました。2019年には日欧 EPAが発効されましたので、ヨーロッパ産豚肉は国産や他国産の豚肉と同じステージに立ったといえます。今後はさらに小売店にもヨーロッパ産豚肉が広がっていくでしょう。
脂身が旨い、だけじゃない。
小田島:今回改めて2つのヨーロッパ産豚肉を味わってみて、赤身の味の濃さを実感しました。肉質が良く赤身でも硬くなりにくいので、火入れも容易でした。
小池:日本では脂の甘さやジューシーさが重視されますが、ヨーロッパの豚肉は赤身の旨さが特徴といえるでしょうね。
小田島:牛肉もそうですが、ここ最近は日本でも噛み締めて味わう赤身肉の人気が高まっています。その意味ではヨーロッパの好みに近づいている。
赤身肉は噛むほどに旨味が味わえるので、薄切りではなくよく噛めるサイコロ状にしたり、レンコンやゴボウなどの根菜を挟んで厚みを出しつつ、土っぽさとともに味わってもらったり。ワインとの相性を考えて食材の切り方や盛りの大きさを調整するように、形状や組み合わせる食材によって赤身肉のよりおいしい味わい方もご提案しています。
冷めてもおいしい、を探る
小田島:今回の料理は、豚肉の産地の国のイメージから発想したものです。まずデンマークといえば農業国で、肉と野菜が豊富な大地のイメージ。そこで土を感じる仕立てにしようと、根菜のレンコンと山菜のフキノトウを合わせました。そのままでも旨味が豊かな肉に昆布締めで昆布の旨味を入れ込んで、噛むほどに海と山の旨味が溶け合います。肉の昆布締めはチャレンジでしたが、香りや旨味が高まって、昆布の塩味のみで塩も使わずに仕上げられたのは発見でした。
一方、フランスは世界に冠たる美食の国なので、上品なニュアンスを添えたいと、香りと酸を感じるヨーグルトを使った漬け焼きにしました。
小池:健康志向で今ヨーグルトも人気ですよね。豚肉も良質なタンパク源として見直されています。
小田島:そうなんです。ヨーグルトを使えば、肉に複雑味や香りを加え、健康的なイメージにもなります。ヨーグルト、酒粕、白味噌、いずれも発酵食品ですが、実はこの3つのバランスはお気に入りで、最近よく使っているんです。発酵の豊かな風味を与えつつ肉を軟らかくできるし、合わせたものをだしで溶けば吸物にもなります。
今回は塊肉でしたが、薄切り肉なら漬け床の香りや旨味がさらに感じられると思います。どちらも「漬け」という日本料理の技法を用いましたが、冷めても硬くなりにくい調理なので、テイクアウトや弁当にもぴったりですよ。
テーブルミートへの期待
小田島:今回は冷凍豚肉を使って調理をしましたが、生肉と比べても遜色のないフレッシュさには驚きました。冷凍技術の発達も目覚ましい。
小池:今は鮮度の良い状態で急速冷凍して輸送する技術が発展しているので、ヨーロッパからはるか遠い日本でも鮮度をキープしたまま味わえます。特に「ラサンテポルク」は保水性が高くドリップが少ないのも特徴です。
小田島:今や冷凍肉は、鮮度の良い状態をキープし、いつでも使えるというポジティブな面が際立っています。コロナ禍で営業形態も不安定な今、ありがたいですね。
小池:日欧EPAの発効、食の安全性への消費者意識の高まりで、ヨーロッパ産豚肉は今後テーブルミートとしてのシェアも広がることが予想されています。ヨーロッパの地理的表示保護制度が適用された豚肉は、ブランド豚としても需要が高まりそうです。
小田島:作りたい料理や味わうシーンで使い分ける楽しみも、これから広がりますね。
地理的表示と有機認証
EUでは原産地呼称保護(PDO)および地理的表示保護(PGI)により伝統的な生産方法を保護し、製品が本物であることや原産地を保証しています。また、ユーロリーフロゴは、製品がEUの有機食品生産規則に準拠していることを示しています。
詳しくはこちら 。
【デンマーク産豚肉昆布締め 蕗の薹味噌かけ】
<材料>(1人前)
豚肩ロース(デンマーク産)・・・100g
真昆布(豚が包めるくらいの大きさ)・・・1枚
レンコン(0.5mm幅の輪切り)・・・1/2切れ
柚子の皮・・・1g
【蕗の薹味噌】
ハチミツ (ブルガリア産)・・・大さじ2
フキノトウ・・・250g程度
味噌(好みのもの)・・・大さじ3
水・・・100ml
<作り方>
1.豚肩ロースは真昆布を巻き、ラップで包んで冷蔵庫で半日置く。薄切り肉なら2〜3時間で良い。
2.蕗の薹味噌を作る。フキノトウを茹でてフードプロセッサーでペースト状にし、ハチミツ、味噌、水を混ぜる。
3.豚をフライパンで中火で焼き、適度な大きさに切る。
4.3に茹でたレンコンを添えて2をかけ、上に刻んだ柚子の皮を盛り、香りを添える。
【フランス産豚肉酒粕ヨーグルト漬け焼き】
◎割烹 小田島
東京都港区六本木7-18−24
☎03-3401-3345
17:30~22:00LO(土曜のみ11:30~14:00LO)
日曜、祝日休
東京メトロ六本木駅より徒歩3分
http://odajima.info/
◎スターゼン
https://www.starzen.co.jp/
パーフェクトマッチ!日本語公式サイト
www.foodmatcheu.jp
https://www.instagram.com/foodmatcheu/
https://www.facebook.com/Perfect-Match-1217865448391937/
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