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FEATURE / MOVEMENT

「地球を食べる」がコンセプトの昆虫食開発チーム「アントシカダ」

シリーズ・フードテック【昆虫食】

Apr 04, 2022

右から、尾関陽多さん、山口歩夢(あゆむ)さん、豊永裕美さん、篠原祐太さん、白鳥翔大さん、山本一貴さん。
text by Sawako Kimijima / photographs by Ayumi Okubo

「目に入れても痛くないほど可愛い」「食べてしまいたいくらい愛おしい」という表現があるが、「アントシカダ」の昆虫食はまさにそんな虫への愛が原点だ。虫捕り少年だった中心メンバーの篠原祐太さんにとって、物心つく前から虫は愛でつつ食べるもの。「食は冒険。この地球はまだまだ未発掘の味覚の宝庫」と言う。人口爆発や気候変動に伴う食料危機、とりわけ動物性タンパク質の不足が予測されるなか、昆虫食への期待は大きい。食材としての昆虫の魅力を突き詰め、既存の昆虫食のイメージを一新させる「アントシカダ」は、食のフロンティアを切り拓くインディペンデントなフードラボだ。

世界の期待が集まる昆虫食。

「アントシカダ」が立ち上がるまでの経緯については、こちらの記事(※1 文末にリンクあり)を読んでいただきたい。篠原祐太さんたちの昆虫食とは自然への共鳴であり、昆虫愛の発露であることがわかる。「動物も、植物も、虫も、地球に息づくあらゆる食材と向き合い、驚きと発見に満ちた食体験を提供したい」との思いから2019年に発足。ポップアップイベントを主とする活動を経て、2020年6月、東京・浅草橋に店を構えた。

昆虫食が世界的に注目されるようになったきっかけは、2013年5月、国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した「Edible insects: Future prospects for food and feed security 食用昆虫類:未来の食糧と飼料への展望」と題する報告書と言われる。
昆虫は、他の家畜と比べて同量のタンパク質を生成するのに必要な餌や水の量が少なく、温室効果ガスの排出量も少ない。つまり環境負荷の低いタンパク源というわけだ。EUが2020年5月に発表した「Farm to Fork strategy」(公正で健康的かつ環境にやさしいフードシステムのための戦略)では、開発が重要視される食材として昆虫が挙げられた。
「FAOの報告書には背中を押されました」と篠原さん。「国連が仲間に思えた」と語る。

とはいえ、「昆虫をタンパク源と捉えるのは、ドライすぎて寂しい。昆虫の個性が発揮されるような生かし方をしたい」。そう考えるアントシカダの強みは、それぞれ得意分野を持つメンバー構成にある。

昆虫食歴23年で狩猟免許や森林ガイド資格を持つ“地球少年”の篠原さん。東京農大で醸造学修士を修めた発酵&醸造のスペシャリスト、山口歩夢さん。スズメバチハンターに弟子入りして蜂の捕獲技術を学びつつ食材(昆虫)調達を担う豊永裕美さん。「レフェルヴェソンス」やデンマークでガストロノミックな修業を積んだ料理人、白鳥翔大さん。コオロギラーメン営業の店長を務める尾関陽多さん。料理人として最近新たに加わった山本一貴さん。店での営業を週末の金・土・日に限定して、平日は昆虫採集や調理・加工技術の開発に充てる。営業と研究開発、アウトプットとインプットの歯車をバランス良く回す。

話題に上ることは増えたが、昆虫食のハードルが高いのは事実だ。アントシカダの役割の何割かは、昆虫食の間口を広げ、未経験の人々の心を開くことにある。心がけるのは、「食べ手に野菜や魚など他の食材と変わらないんだなって感じてもらうこと」。

「ラーメン凪」との共作から生まれたコオロギラーメン。スープにも麺にもコオロギが使われている。脂っこさがなくて旨味はしっかり、ラーメンとして上質な仕上がりだ。昆虫食への入り口の役割を果たす。

「地球を味わうコース料理」では、昆虫をはじめ、野草やジビエなど、日の目を浴びる機会の少ない生きものたちの魅力を表現して、自然の景色を映し出す。

料理人の白鳥翔大さんは、「昆虫を使っていることの必然性や納得感を出したい。使おうとするほどに、これまで使われてこなかった理由を感じる部分もある。自問自答する毎日です」と語る。
写真の料理は、山菜や筍とイナゴを合わせて、春の野山の景色を描き出した。
「歯を当てた時のカリッ、サクサクッとした食感や口に広がる香ばしさがイナゴの身上。でも、姿のまま盛り付けると手を出しにくいのではないかと悩みました。考え抜いて、春霞のような泡を被せることで乗り切った」


醤油、ビール、ラーメン、様々に加工できるコオロギ。

「コオロギラーメンには、コオロギのすべてが詰まっている」と篠原さんは言う。
麺にはコオロギパウダーを練り込んで味わいに深みを与え、スープはコオロギでとったダシとコオロギを発酵させて作った醤油で品良く仕上げ、コオロギ香味油を垂らして香ばしさをプラス、最後にコオロギの素揚げをトッピングする。
「コオロギの食材としての幅の広さや奥深さを感じてもらえると思う」

実際、麺、醤油、香油だけでなく、コオロギビール、コオロギスナックなど、コオロギの汎用性の広さには驚くばかり。
「コオロギは高タンパクで大豆よりも風味豊か。コオロギならではの香ばしさのある醤油ができる」と語るのは山口歩夢さん。コオロギだけではない、イナゴで醤を、タガメでウイスキーを、カイコの糞で蒸溜酒を、そんな昆虫の可能性の広がりには、山口さんの発酵・醸造のスキルが生きている。イナゴ醤はイナゴと米麹と塩を、コオロギ醤油はコオロギと米麹と塩を発酵させて作るが、イナゴやコオロギの成分組成から割り出して配合を考えて仕込むという。

手前がコオロギ醤油、奥に見えるのは熟成させたイナゴ醤。

熟成度合いがまだ若いイナゴ醤。イナゴはイネ科の植物しか食べないため、爽やかでフルーティな味わいになる。

右から、コオロギビール、タガメの蒸溜酒、蚕沙(さんしゃ・カイコの糞)の蒸溜酒。


ファームと一緒にコオロギのポテンシャルを追求。

昆虫の入手法は、1 養殖、2 プロが採集した野生、3 野生を自分たちで採集の3通り。「飼育」と「野生」に分類されるのは、肉や魚と同じだ。養殖の取り組みが進んでいることもあって、多用されるのはコオロギだが、「質の高いコオロギの入手が大事」と篠原さんは言う。

雑食で餌を選ばないコオロギは、肉、魚、野菜、果物、なんでも食べる。その特性を活かして食品残渣による飼育も行われる。フードロスを活用してタンパク質を生み出すサーキュラーフードと呼ばれる所以だ。だからこそ、「どんな餌で育てるか」に篠原さんは意識を払う。「小さな体の全身を食べるだけに、餌の味がコオロギの味としてストレートに反映される。畜産などの比ではないですね。穀物で育てればやさしい味になり、魚粉で育てればパンチのある味になる」

ビターでインパクトのあるフタホシコオロギ、上品できれいな旨味のヨーロッパイエコオロギなど、品種による違いもある。「フタホシコオロギはニボシのような感じ、ヨーロッパイエコオロギはスルメや干しエビに似ている」
また、乾物にする方法も、フリーズドライにするのか、温風を24~34時間当てて乾燥させるのかによって、仕上がりは変わる。

「ダシ用のコオロギであれば、イメージする味のダシが取れるように逆算して餌を選んでもらうし、ビール用のコオロギには香ばしさが欲しいから魚粉で育ててもらうなど、調理や加工に合わせてリクエストしています」
ちなみに、コオロギラーメンのダシは、穀物で育てた穏やかな味のフタホシコオロギと魚粉で育ててパンチの効いたヨーロッパイエコオロギのブレンドである。

上:福島県「太陽グリーンエナジー」の飼育によるフタホシコオロギ、左:太陽グリーンエナジーによるヨーロッパイエコオロギ、下:徳島「グリラス」によるフタホシコオロギ。グリラスでは羽や脚が軟らかい若いうちに出荷する。

ラーメンのトッピングには、活けのコオロギを使用。雑味を取り除くため、使う2日前から餌を与えず糞出しをして素揚げに。群馬県の「月夜野ファーム」から子供のコオロギを仕入れて店で育てる。

「まだトライ&エラーの段階にある業界だけに、養殖ファームと一緒にコオロギのポテンシャルを追求していると言えるかもしれません。コオロギの生態を理解した飼育ノウハウを持っているか、健康に育てているか、仕上がりの味の幅を持たせられるかなど、ファームの仕事に目配りしながら、食べ手に提供する立場としてコオロギの味や品質に関するフィードバックをしています」


食べるから見えてくる、自然との付き合い方。

イナゴ、ざざ虫、ハチノコ、タガメといった伝統的に食べられてきた昆虫は多く、「身近な食文化として存在していたこと、その豊かさを伝えるのも僕たちの役目」と篠原さんは考えている。長野県伊那市の昆虫食文化(※2 文末にリンクあり)など、日本各地に残る昆虫食の継承にも余念がない。各地の昆虫猟師から野生の昆虫を仕入れるだけでなく、時には猟に同行して捕獲の技の習得に努め、先人が培った食文化を絶やさぬようにと活動する。繭から糸を取った後のカイコのさなぎを譲り受けてソーセージや醤油をつくり、蚕沙(カイコの糞。血流を良くし、神経痛、関節痛、胃痛に効く)のブランデーをMitosaya薬草園蒸留所と共同開発するなど、新しい活用法の探求にも勤しむ。「捨てられていたカイコのさなぎや糞を有効活用することで、養蚕業界に新しい価値をもたらすことができるのではないかと考えています」。

タガメは洋梨の香りがする。外観からは想像もつかない甘やかでフェミニンな香り。

豊永裕美さんが師と仰ぐスズメバチハンターは、一般的な蜂の巣の駆除業者とは仕事の仕方が違うという。
「多くは殺虫剤を吹き付けて30分で片付けてしまう。私の師匠は殺虫剤を使わずに、煙で燻すなどして2時間ほどかけて生け捕りにします」
理由は、食べるためだ。食べようと思えばこそ、薬剤は使わない。師匠自ら佃煮にして食べ、近所にも配る。豊永さんがアントシカダ用にもらい受けることもある。

「虫への理解が乏しいばかりに、不必要に殺虫剤を使っているのではないか? 身を守るためとはいえ、殺虫剤を使えば、自然にも人が生きる環境としても負荷がかかり、リスクにもなるでしょう。昆虫の生態を知っていれば、自然にも人間にもやさしいやり方ができるはず」と篠原さん。
虫を食べることで見えてくる人間の行ないの是非がある。地球の一員としてあるべきふるまいを昆虫が教えてくれる。
「レストランのお客様にはそんな話もお伝えしています。それもまた僕たちの役目と思うのです」


◎アントシカダ
東京都中央区日本橋馬喰町2-4-6
☎03-6881-0412
地球を味わうコース料理(予約制)
金曜 18:30〜21:00
土曜 12:00〜14:00
土曜 18:30〜21:00
コオロギラーメン
日曜 11:00〜15:00、17:00〜21:00
Instagram:@antcicada.jp

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