飲食の現場から:酒文化を支える人たちの記録
vol.3 実録インタビュー「期限付酒類小売業免許は、実際どうだったか」
2020.06.23
酒蔵、酒販店、飲食店。ニッポンの酒文化を支え、醸成してきた彼らが、
コロナ禍の中でどんな未来を見据え、戦っていったか。
彼らの挑戦の記録をご紹介する本シリーズ。
取得した免許は、実際どう活用したか。
第三回は、5人の店主にインタビュー。
「飲食に関わるプロとして、自分たちが出来ること」は何だろう。
正解がない中で奮闘する店主たちを支えたのは皆、同じひとつの思いだった。
▼学芸大学「リ・カーリカ」
―やれることはすべてやろう、というスタンスで
【販売方法】
・ワイン、クラフトビールをボトルで販売。
・注文に合わせて希望を聞き、ワインを堤シェフがリコメンド。
・ボトルの一般小売価格+セレクト代1500円を別途。
堤亮輔シェフより
4月中旬に期限付免許を取得。ワインのテイクアウト販売を開始しました。扱うのは、長年の“同志”、酒販店「葡萄酒蔵ゆはら」から仕入れたワインとクラフトビールです。「+セレクト代1500円」は、「料理との提案、品質管理や仕入れなどワインのプロとしての経験値や関係値」に対価を頂くという考えから。酒販店での販売価格より高く設定しよう、というゆはらさんへの敬意も込めました。お客様にもきちんとご説明しています。スムーズにご理解を頂けていて、ありがたいです。
やれることはすべてやろうというスタンスです。お酒のテイクアウトもその1つ。正直、売り上げに「貢献」ということまではなかった。けれど大事な店とスタッフを守っていくためには、戦える術はすべてフル活用しなくては。スタッフは皆社員雇用で、経営者=僕が背負うものは実に大きかったけど、だからこそ出来たこともあった。全員一丸となって、いろんなことに挑戦できたと思います。
5月4日、厚生労働省から「新しい生活様式」が公表されました。席の間隔をかなり開けて、会話を控えて、人と向かわず料理に集中……んー、僕の店は、イタリアのような賑やかな雰囲気でテンション高くワインと料理を楽しんでもらう場所。集まることで生まれるアツさというか、あの空気ありきの店だと思い、気持ちよく解決してから、いいパフォーマンスで営業を段階的に再開していこうと。経営する3店舗は、最初に席数が多く開放的な造りの「カーリカ・リ」から再開させ、カウンター1本の極小店「あつあつリ・カーリカ」は、テイクアウトで手応えがあったカレーを主軸に、5月24日より昼はカレー専門店・夜は立ち飲みの時短営業から。本店「リ・カーリカ」は満を持して6月1日より再開しました。
この機会で家飲みのよさを再認識しました。普段は一緒にご飯が食べられない家族がとても喜んでくれて。色んな人と集まって飲む素晴らしさはかけがえがないけど、家族と、お酒と、向き合って飲むとまた違った気づきや幸せがあります。造り手、産地、自然、歴史などなど、お酒の背景に自然に気持ちが向いて、新たな扉が開きますね。普段は飲食店だから出会えるようなワインが挑戦しやすい価格で飲める。飲み手にもよき出会いがあったと思います。いいワインをたくさん飲んでもらいたい。そうしてお酒をもっと好きになってもらって、いずれまたお店に来てもらえれば。未来への種蒔きかもしれませんね。その時まで長くお店を続けていきたいです。
▼富ヶ谷「酒坊主」
-「通い徳利」も、「SNS」も。
【販売方法】
・クラフトビールをボトル売り、日本酒を180ml、300ml瓶での販売と量り売りで。
・量り売りは容器持参。貸しボトルも用意する。プラスチックカップでも対応。
・日本酒の小瓶は、おすすめの燗付け法をインスタグラム動画で発信。
前田朋さんより
通ってくれているお客さんから「お酒も売ってほしい」というご要望が少なからずあったので応えた形です。日本酒の一升瓶からの量り売りが中心。メインはスイング式の蓋付き小瓶。24本用意し、お戻しくださるご近所の方に貸し出しました。魔法瓶持参の方にはお燗を付けてお渡しもしました。
空瓶をお持ち頂いた際に「次はこんなのが飲みたい」「ならコレどうですか」といった感じで、別のお酒をその瓶で買って帰る方も結構いて。ほんの少し昔にも「通い徳利」という文化がありましたが、温故知新ですね。コミュニケーションツールになったようにも思います。そのほか、「丹沢山」「酉与右衛門」の180mlや300ml瓶も扱いました。小瓶なので瓶ごと燗とか挑戦しやすいなと思い、燗の付け方を動画でSNSにも上げました。見る人の息抜きになれば嬉しいです。
お酒はものすごい出たという訳ではなかったです。けれど、僕の店で買うことを必要としてくれたお客さんに応えられました。「お酒が買えない」「飲みたい分だけ少し買いたい」といった人のために、買う側のサポートとして選択肢にあってもいい。そんな風に思いました。宣言解除後は、店内営業とテイクアウトを並行。厨房のフォーメーションも考えて、ステップが上がるごとにテイクアウトから店内営業へと比重を増やしていき、元に戻していきたいと思っています。
▼鎌倉「祖餐」
-「1本を分かち合う」を貫きたい
【販売方法】
・クラフトビール、ワインを量り売りで。
・グラウラーやペットボトルなど容器の持ち寄り歓迎。貸し出し小瓶も用意。
・FBのライブ配信やZOOMでのオンライン会を併せて開催。
石井英史さんより
緊急事態宣言以降、2階「祖餐」は閉めて1階のビアスタンド「ピルグリム」だけ開け、惣菜やお弁当など持ち帰り中心の営業にしました。懇意にしているご近所の飲食店「ビストロオシノ」「トレス」「畔家」と鈴木屋酒店との共同で#鎌倉応援メシとしてスタンプラリーも実施。手を取り合える地域の仲間がいる。心強く励みになりました。
酒販免許はすぐに申請を出し1週間ほどで取得しました。1階はこれまでもオンタップで出していた、茅ケ崎・バーバリックワークスや逗子・ヨロッコビールなど地元のクラフトビールを量り売りで。造り手からは、ケグ(樽生)での販売を想定していた分も瓶や缶の小売りに回しても、平時の1割しか動いていないと聞き、少しでも出来ることがあればと。量り売りはタップならではの味わいも届けられます。廃棄物は増やしたくないので、マイボトル持参推奨のほか、貸し出しのグラウラーも用意しました。
僕はソムリエです。ワインは「瓶で売っておしまい。持ち帰って好きなように飲んでね」は、僕の仕事ではないと思いました。やっぱり直接注ぎたい。ワインを飲む時間を豊かにするお手伝いをしたい。自分も一緒にお話ししながら、同じ1本を皆さんで共有し、共感したいと思った。こんな時だからこそ、自分の本懐を遂げたいと思いました。ワインを巡るいろんな人をつなぐために「疑似的でも今出来ること」を考えて、FBのライブ配信やZOOMを活用することに。定期的に開いていた「お酒の会」をオンライン版でも挑戦。決めた3本を180mlずつ小分けのセットにして持ち帰り販売し、ZOOMの鍵をお渡しして、開催時間に入ってもらい、飲む時間を共有するというやり方です。
「ボーペイサージュ」岡本英史さんなどは快く応えてくれ、飛び入り参加してくれました。図らずもオンラインで造り手と一緒に飲めたお客さんはとても喜んでくれました。遠く距離は離れても、同じ1本を共有して言葉を交わせるのはオンラインだから実現できたことかもしれません。
ここ数年、食材とその流通、消費者と生産者、人の暮らしと自然……色々なバランスが崩れてきていると感じます。国政などマクロの動きを待っていても、暮らしの実際までは変わらず、自分たちで何とかしなくちゃいけない。そのためにはローカルのつながりこそ大事と考え、3年ほど前から、「鎌倉まちごとオーケストラ」という協同組合的な取り組みを進めています。意志の繋がりだけでは成し得ない、経済が回る=社会に関われるように育てていきたいです。
▼西麻布「ル・ブルギニオン」
―飲食店専門のインポーターと組んで
【販売方法】
・ワインをボトル売りで。4~6本1組のセット販売、あるいはリストから選ぶ形式。
・取りまとめは店のソムリエが担当し、事前支払い。商品はインポーターから直送。
・扱うのは飲食店専門のインポーターのワイン。
菊地美升シェフより
緊急事態宣言の発令翌日から店を休業しました。その分代わりとなる何かをと始めた1つが期限付き酒販免許の取得です。飲食店の休業で打撃を受けているのは僕たち料理人だけじゃなかった。店に卸す農家さんやインポーター……つながっているんです。現状でできること、自分がやる意味など考えて、レストランだけに卸しているインポーターとのコラボでワイン販売を始めました。レストランでしか飲めないワインを、飲みたい人の元へ届くようにできますし、インポーターは「販売する場所」がゼロから1になる。僕たちの仕事にもなります。
販売価格はお店の提供価格より下げました。ワインは仕入れてからコンディション管理や手当をし、ベストな状態とタイミングでお客様のグラスに注ぐまでが僕たちの仕事です。それができない分の対価は頂きません。
自粛期間中は家族と過ごす時間が増え、その価値を改めて感じ、地に足を付けて過ごしました。宣言解除後は、6月第2週から営業を段階的に再開させていきます。「お店に身を委ねて一期一会で飲むワインも格別だけれど、資料を読んで自力で選んだらブルゴーニュの世界が近く感じた」という方もいました。造り手の物語や思いに辿り着く毎に楽しみが増すのがワインの世界だと思います。今回の販売でブルゴーニュワインのファンが増えるなら嬉しいです。
お客様が元気にお店に戻ってきてくれ、満足した時間を過ごしていただけるよう、頑張ります。
▼オンライン「ミクソロジー・デリバリー」
-カクテルキットでデリバリー&テイクアウトに活路を
【販売方法】
・デリバリー専門のチームを立ち上げ、WEBサイトを開設
・カクテルキット、フードを販売。オンラインサイト内で決済
・ボトルドカクテルも開発、販売
南雲主于三さんより
今回の免許では当初、カクテルのデリバリー&持ち帰り販売は認められていませんでした。4月上旬。自粛期間がいつまで続くかわからない状況下、これではお酒メインのバー業態は戦う術が何もないと、カクテルデリバリーの認可を求める署名活動を行いました。3500もの署名が集まり、国税庁と協議の結果、詰め替え届も取る事でカクテルキット販売、店舗で提供の範疇で持ち帰り販売も可能になりました。
日をまたいで状況が変化していく2カ月でした。正解はない。ならばこういう時こそ、個ではなく全体を考えていくべきだ。それが個に帰結すると信じて動きました。署名活動を始め、制約の中でもバー業態が出来る営み方を考え、そのノウハウなどをSNSにてシェア大歓迎でアップしました。同業者間に波及すれば認知も増える。カクテルの楽しみが日常化し飲みたい人を増やすことが第一義だと思いました。
今回、経営する5店のうち1店はテイクアウト&デリバリー&ケータリングに特化した店舗「ミクソロジー・デリバリー」としてリニューアルを図りました。受注はオンライン。扱うのはカクテルキット(お酒や茶葉、フルーツなど小分けの材料がセットに)やその場でも飲めるチューブパック詰めのカクテル。奥田政行シェフとのコラボフードも販売します。ケータリングは自社のバーテンダーが赴いてカクテルを提供する形です。カクテルはどんな場所も彩ってくれる飲み物だと伝えられれば。
6月3日、僕がレシピ監修したボトルドカクテルを出すことが出来ました。
ボトルならレストランやショップで扱ってもらいやすく、カクテルシーンはさらに広がります。そうしたシーンなら、フレッシュな果実やお茶&コーヒー、炭酸が入ったものに可能性を感じますね。原材料のセレクトや販売先など考慮すべき点はあるけど、リキュール免許を持つ協力者がいればどのバーテンダーも挑戦できるので、検討の価値ありです。
飲食はオフラインのリアルな行為。でもお酒の背景や嗜み方を知る喜びや、店がハブになる繋がりはオンラインでも提供できるのではないか、とオンライン学校&サロン構想も進めています。バーは多様な人が集まり、文化がクロスオーバーして新しい世界が生まれる泉のような場所だと思っています。僕の最終ビジョンはバーから始まる世界を作ること。そのためにオンラインとリアルの両方をうまく使いこなしていきたいです。