HOME 〉

FEATURE / MOVEMENT

北欧の食・最新事情(全4回) Vol.3

ミッケラーとデンマークのクラフトビール革命

1970.01.01



photographs by Mikkeller


「ミッケラー・バー」では、何十種類ものビールをタップでサーブしている。




急成長するコペンハーゲンの草分け的ブルワリー

デンマークのクラフトビール・ブルワリー「ミッケラー」の創設者、ミケル・ボー・ビャース氏は、観光客の多いコペンハーゲン中心地から程近いヴェスターブロ地区にある「ミッケラー・バー」本店の近所に住んでいる。ミッケラー本社の所在地であり、かつては風俗街としても知られていたヴェスターブロは、ビャース氏にとって特別な意味がある場所だ。10年ほど前、もともと科学教師だった彼が自家醸造ビールを販売し始めたのが、この近所の専門店。すべてが始まったのが、この街だったのだ。2014年6月、ビャース氏は「ミッケラー・バー」第1号店(2010年オープン)の隣に、初のレストラン「ウル・オゥ・ブロ(Øl & Brød)」を開店。今後は至近にブルーパブ(醸造所付きのビアパブ)の開店も予定しており、ビャース氏のヴェスターブロへの愛着を感じさせる。




photograph by Robert Ureke


酢漬けのキャベツとコールラビ、スモークしたグリーンランド産オヒョウの一皿を、ミッケラー・ビールとともに。


「ウル・オゥ・ブロ」では、ミッケラー・ビールやシュナップス(蒸留酒)と合う、モダンスタイルのスモーブロー(オープンサンドイッチ)を出している。




コペンハーゲンから世界へ

ミッケラーの人気は、その静かなスタートからは思いもよらぬほど広がりをみせた。現在40カ国以上で販売されているビャース氏のビールは各地で絶賛を浴び、「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」や「ノーマ」などのミシュラン星付きレストランから専用ビール製造の依頼も受けている。2013年には、地元のクラフト・ブルワリー、「トォ・ウル(To Øl)」と手を組み、コペンハーゲンのヒップな地区、ノアブロに姉妹店の「ミッケラー・アンド・フレンズ」を開店。それを皮切りに、ビャース氏の小さなミッケラー帝国は急速に世界に広がり始めた。2013年後半には、海外初の拠点となる「ミッケラー・バー」の支店をサンフランシスコにオープン。そのすぐあとにバンコクにも出店し、さらにストックホルムにも新店舗を計画中。また、東京では赤坂Bizタワーの「デリリウム・カフェ」で2~3種類を味わうことができるミッケラー・ビールだが、まもなく全種類を体験できるようになる模様。ビャース氏によると、2015年中頃に東京にも「ミッケラー・バー」が登場するとのことだ。

ミケル・ビャース氏は、フードペアリングを意識したビール造りを行っている。




新しいフレーバーのビールを作る

ビャース氏は、ほかの多くのビールの造り手と異なり、自身では醸造を行わない“ファントム・ブルワー”。ビール製造に関しては、スコットランドのブルードッグ(Brew Dog)やノルウェーのヌグネ・オー(Nøgne Ø)、ベルギーのデ・プルーフ(De Proef)など、いくつかの提携醸造所にアウトソースしているのだ。ビャース氏の仕事は、ビール造りのレシピを考案すること。シェフのようなアプローチで、海藻、トリュフ、塩味のプレッツェルといった、一風変わった素材を使った個性的なビールを開発している。「不可能と思える材料の組み合わせで新しいフレーバーのビールを作ることに挑戦している」とビャース氏。しかし、そうしてできた彼のビールは、驚くほど料理に合う。ミッケラーのなかでもとりわけ広く飲まれているのが、自然発酵で作られ、柚子やレッドカラントなどの風味が加えられた“酸味の豊かな”ビールだ。

ミッケラーの自然発酵ビールには、個性的なフレーバーがいろいろ。


デンマーク・クラフトビールの先駆者



ミッケラーが設立された2006年、デンマークのビール・シーンはカールスバーグやツボルグなどの大手メーカーが独占していた。「アメリカなどでクラフトビールと呼ばれていたものに初めて取り組んだのが、わたしたちだった」とビャース氏は語る。ミッケラーの成功は、ほかのインディペンデント・ブルワーたちに道を拓き、デンマークのクラフトビール・シーンは今や大にぎわい。コペンハーゲンには現在、「ノアブロ・ブルーハウス(Norrebrø Brewhouse)」や「ブルーパブ・ケーベンハウン(Brewpub København)」などのブルーパブが多数営業しているほか、フュン島のさまざまなビールが飲める「ディアレクト(Dia’legd)」や、伝統的な醸造所ベーゲダルのビールが多種類販売されている活気あふれる食品市場トーブヘレネもある。毎年5月には、ミッケラーが2010年から主催している“コペンハーゲン・ビール・セレブレーション”に、大勢のビール・ファンが押しよせている。ビャース氏も述べているように、デンマークでも昔からビールは飲まれてきた。しかし、ミッケラーとそのほかのクラフトビールの造り手たちの台頭によって、デンマークのビール文化がよりずっと面白いものになってきているのは間違いない。

世界各国の小規模なクラフト・ブルワリーが集う、“コペンハーゲン・ビール・セレブレーション”。



料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。