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FEATURE / MOVEMENT

Pizza 4P’sの“ピッツァで世界を動かす方法”

「Pizza 4P’s」益子陽介、高杉早苗

2024.06.10

Pizza 4P’sの“ピッツァで世界を動かす方法”

text by Sawako Kimijima / photographs by Masahiro Goda

2023年11月、麻布台ヒルズにオープンした「Pizza 4P’s(フォーピース)Tokyo」は、ベトナムを中心にアジアで30店舗以上を展開するピッツァレストラン。日本では今回が初出店となります。食を社会課題解決の推進力に――とはよく言われることですが、レストランをプラットフォームとしたPizza 4P’sの取り組みの数々は、The New York TimesやBBC、Forbes、CNNなど著名メディアが取り上げ、世界的に注目を集めています。なぜ、世界は4P’sに着目する?ピッツァに何ができる?創業者の益子陽介さんと高杉早苗さんに“ピッツァで世界を動かす方法”を聞きました。

目次







益子陽介さん&高杉早苗さん

益子陽介(ますこ・ようすけ)Pizza 4P’s Founder&CEO
商社を経て、サイバーエージェントのベンチャーキャピタル業務に従事し、2008年からベトナムでの投資事業の責任者を務めた。2011年、ホーチミンでPizza 4P’sを立ち上げる。

高杉早苗(たかすぎ・さなえ) Pizza 4P’s Deputy CEO
サイバーエージェントで広告代理店事業やメディア広告企画を経て、出産を機に退職。2009年にベトナムへ移住し、益子さんと共にPizza 4P’sの事業に取り組む。2児の母。高杉晋作の末裔。


分厚いメニューブックから見えるピッツァの向こう側

2023年11月に開業した麻布台ヒルズは、オフィス、レジデンス、商業施設、マーケット、ホテル、ミュージアム、インターナショナルスクール、医療施設など、多様な都市機能が集積する、いわばひとつの街だ。商業ゾーンに立ち並ぶ約150店舗のうち約100店舗は飲食業。と聞くと、「食」の位置付けの高さにちょっと驚く。

「他のヒルズと比べて立地的にも“暮らし”に比重が置かれています。根底にあるのが“食は暮らしの基盤”との考え方」と語るのは、森ビル麻布台ヒルズ商業運営室室長を務める池澤直樹さん。「麻布台ヒルズのテーマ“Green&Wellness”を実現する上でも、食の役割は大きい」。リーシングを担当した森ビル営業本部商業施設事業部の柴谷健さんは、テナントの選定にあたり、「“Green&Wellness”を体現する店や企業を探してアプローチした」と振り返る。「そのひとつが、Pizza 4P’sでした」。

Pizza 4P’sは2011年にホーチミンで創業。「Make the World Smile for Peace」をヴィジョンに営まれ、東京店のコンセプトを「ONENESS-Earth to People-」と定めている。

Onenessとは、すべてがひとつにつながっていることを意味する。地球から人へ、人から人へ、すべてはつながり、私たちは恵みを受け取って生きている。そのつながりと恵みに気付いた時、感謝の念が湧き、コンパッションが生まれる――ということを感じられたなら、地球や人に優しい社会が実現するだろう。それがPizza 4P’sの思想だ。

メニューブック“4P’s Dictionary”をご覧いただくのがわかりやすいかもしれない。
Pizza 4P’s Tokyoのテーブルに着くと差し出されるのは、一瞬戸惑うほど分厚い冊子。ページをめくると目に飛び込んでくるのは、人の顔、顔、顔・・・。「えっ、どこにメニューが載っているの?」としばし混乱する。
日本語56頁+英語56頁、全112頁のほとんどがPizza 4P’sのフィロソフィと50を超えるパートナーの仕事や考え方に費やされている。肝心のメニューは挟み込み! パートナーとは、食材、インテリア、テーブルウェア、ワークウェア、音楽など、Pizza 4P’sの構成要素に関わる生産者やクリエイターたち。つまり、Pizza 4P’sのOnenessを可視化したメニューブックというわけだ。

Pizza 4P’s Tokyoのメニューブック

こちらがPizza 4P’s Tokyoのメニューブック。使い込まれて、ヨレている。手に取った大勢の人々が読んだ痕跡だ。

ピッツァ生地と生パスタのための小麦農家と製麺所を紹介するページ

ピッツァ生地と生パスタのための小麦農家と製麺所を紹介するページ。いずれも北海道の生産者。

内装やインテリアを手掛けた職人の紹介ページ

内装やインテリアを手掛けた職人の紹介ページ。福岡、徳島など日本各地、ホーチミンやハノイなどベトナム各地に散らばっている。

メニューブックの冒頭にはOnenessの頁

メニューブックの冒頭にはOnenessの頁。私たちを取り巻くすべてにつながりがあることを示す。

当然ながら、登場するのは食材の生産者が多い。環境再生型農業で小麦栽培を手掛ける北海道のアグリシステム、不耕起・無農薬・無肥料で野菜を栽培する埼玉県小川町のSOU FARM、千葉の館山で放牧を中心とした酪農を営む須藤牧場、地下海水を使った循環型の陸上養殖で海藻の新しい食文化を創出するシーベジタブル、等々。環境への負荷を抑え、再生を目指す人々が顔を揃える。どこで、どんな人物が、何を考え、どのように牛を飼い、小麦を育て、野菜を栽培しているのか。メニューブックから農業や漁業のあり方を考えることになる。

「4P’sシグニチャーブッラータ、生ハム、ルッコラsince2013」

4P’sの原点、「4P’sシグニチャーブッラータ、生ハム、ルッコラsince2013」。ブッラータは店に設置されたチーズ工房での自家製。月水金の午前中に須藤牧場から生乳が届き、モッツァレッラやブッラータを製造。ホエーはピッツァ生地に使う。


ベトナムで起業した理由、多店舗化の背景

Onenessをピッツァで伝えるという発想は、益子陽介さんの個人的な体験に因るという。
「親友の死に直面したことをきかっけに鬱病を患い、道に迷っていた時に、自宅に友人を招いてピッツァパーティを開いたことがありました。窯を囲み、ピッツァを作る皆の楽しそうな様子を見ていて、バラバラに散らばっていた点と点がひとつに結ばれる感覚があった。友人も、彼らが持って来てくれた食材も、その食材を作った生産者も、すべてつながっているじゃないか・・・。人間以外の生きものも含めて、地球上のつながりが見えたかのようでした。そして、感謝の念が湧き、楽しんでいる友の様子に心満たされた」

窯の火で焼くというプリミティブな調理法。人種、年齢、性別を問わず、作るのも食べるのも共有できるエンターテインメント性にも魅了された。いつかピッツァ屋をやろう。その時の友人と語り合ったのが2005年。構想を温め続け、2011年、満を持して起業した。場所は、サイバーエージェントの仕事で赴任していたベトナムのホーチミン。
「日本の市場はあまりにもコンペティティブでしたし、ベトナムという国が持つ勢いに賭けよう、と」何よりベトナムの“人と人の近さ”に魅了されたという。

高杉さんがひとつのエピソードを話してくれた。
「5カ月の子供を抱いてスーパーへ買い物に行くと、従業員の女性が『見ていてあげるから、ゆっくり買い物していらっしゃい』と預かってくれたんです。好意に甘え、買い物を終えて戻ると、なんと、その女性が自分のお乳をあげている(笑)。ぐずった子供をあやそうとしたのでしょうね。昔の日本もそうだったと思うのですが、うちの子、他所の子、区別なく皆で育てるという意識がある」

時代の進行や都市化と共に人間同士の触れ合いや絆が希薄になるのは、日本に限った話ではないが、ここベトナムでなら、プリミティブな人間関係の豊かさを持ち続けながら、大切なものを失うことなく成長できるのではないか。そんな希望を抱いての起業だった。

2015年、ハノイに2号店をオープン。その後、ベトナム国内のみならず、カンボジア、インドへも進出。現在34店舗を数える。
「当初は1店舗のつもりでした。しかし、予約が取れない状況に陥り、店舗を増やさざるを得なくなった。また、従業員のキャリアパスを作る必要もありました。たとえば、店長なら入社時の10倍ほどの給与を払うケースも少なくない。ポジションを作ることで報酬を上げられます。それが彼らの子供たちの進学など教育にも反映されていく」

より良き人生の選択肢を用意できる。そう思う一方で、「店を増やすことが地球にダメージを与えるのでは」という葛藤も生まれる。高杉さんによれば、益子さんは絶えず「自分は経営に向いていない」とつぶやいているらしい。「資本主義が好きじゃない(笑)。でも、利益が増えることで、社会に対してできることが増えるのも事実ですし・・・」と益子さん。
どうバランスを取るか。どうしたら店を増やすことを地球や地域にとってポジティブな文脈にできるのか。2人は絶えず考える。

ゴミ問題が深刻なカンボジアでは、ゼロウェイストの店舗を立ち上げた。現在2店舗で20種の分別を行ない、9割以上のリサイクル率を達成している。2022年には、ベトナム・ビンズン新都市の商業施設「Hikari」に、コンセプト設計から関わったベトナム初の環境配慮型レストランをオープン。「私たちの店だけじゃなく施設内全レストランのゴミをコンポスト化する機能を備えましょうと働きかけた」と高杉さんは言う。結果、国際的なデザイン賞「Green GOOD DESIGN Sustainability Awards 2023」で「Green Architecture 2023」に選定されている。

サステナビリティレポート

2021年からはサステナビリティレポートを公開(文末にリンクあり)。こちらは2023年発表版から。「こういった取り組みも企業として成長すればこそ」と益子さん。


ピッツァ生地の上に、平和、環境、社会課題をのせる

「ピッツァはメディア性の高い料理です。食材の姿が見える形状は、食べ手に対して自然や生産者のことをダイレクトに伝えてくれる。ONENESS-Earth to People-を表現する最適のメディアなんですね」
生産者を紹介するメニューブックを添えれば、メディア性は著しくアップする。
「しかも、ピッツァにはどんな食材をも受け入れる包容力の高さがある。ダイバーシティ&インクルージョンの象徴とも言える」

2020年の国際平和デー(9月21日・国連が制定)には、対立する国々――中国とアメリカ、インドとパキスタン、イスラエルとパレスチナ――の味が調和した3種のピッツァを制作。食材がピッツァの上で共存できるのであれば、地球上の私たちも共存できるのではないかというメッセージを表現した。

東京出店に際して、日本の生産者との関わりが増えるにつれ、彼らのマインドフルな人間性や生き方に惹かれると同時に、彼らの志し高き仕事ぶりがまだまだ広く知られていないと2人は感じている。食材のクオリティの高さはもちろん、フィロソフィ、生産方法、環境への取り組み、地球の未来へのコミットなど、彼らの存在意義がもっと浸透すれば、より人々が様々なことへ思いを巡らすことができる、寛容な社会の実現につながるのに、と。

「日本の食材はクオリティが高い」と2人は口を揃える。

「日本の食材はクオリティが高い」と2人は口を揃える。「日本では、食材の良さが伝わるよう、なるべくストレートな使い方をすることになる」。ちなみにインドではスパイスを多用したり、ベジタリアン対応比率が高いそうだ。

約半年かけて10種類以上の小麦粉を様々な配合で試作するテストを繰り返して開発。

東京店の生地の小麦は国産にこだわった。産地を訪れ、約半年かけて10種類以上の小麦粉を様々な配合で試作するテストを繰り返して開発。江別製粉の小麦粉4種とアグリシステムの小麦粉1種をブレンドしている。

海の生態系を守る働きや資源としての有用性が世界的に注目される海藻

海の生態系を守る働きや資源としての有用性が世界的に注目される海藻。その可能性を広げる生産者シーベジタブルのすじ青のり、はばのり、乾燥青のりの3種をトッピング。東京店のオリジナルメニュー。

「まだトライアルですが、4P’sの企画・主催で生産者を回るツアーを始めました。特に海外からのゲストが生産者を訪ねる機会を得るのはむずかしい。僕たちにその役割を果たせないだろうかと考えた。レストランを超えた様々な体験を提供していきたいと考えています」
逆に、日本の人々をベトナムやカンボジアのゼロウェイストの店へと案内するツアーも実現したい。「様々なハードルがあるので、まだリサーチの段階ですが」と高杉さん。

ベトナムでトレーニングを積んだ3人のチーズ職人が東京に赴任。

店にチーズ工房を設置して、モッツァレッラとブッラータを自家製するのは創業時から。ベトナムでトレーニングを積んだ3人のチーズ職人が東京に赴任。社内においても国を越えた人材交流を進めていく予定だ。

日本でいたずらに店舗を増やすことは、今のところ予定していない。むしろ、東京という都市の、麻布台ヒルズというインターナショナルな立地が持つ強いメディア性を活かして、フィロソフィや活動の世界発信に意義が見出せると考えている。“Green&Wellness”に紐付くワークショップやヒルズ内のインターナショナルスクールと連携した食育など、思い描くプランは数知れず。
「4P’sがやって来ると、社会にとってポジティブなコミュニティができるんだって思ってもらえたらうれしい」

「サステナビリティとは地球全体で実現するもの。自分たちを超えて考えなければいけないと教わって、本当にそうだな、と」

今後のサステナビリティロードマップを作成すべく、オランダからコンサルタントを招いて缶詰合宿を行なった。「サステナビリティとは地球全体で実現するもの。自分たちを超えて考えなければいけないと教わって、本当にそうだな、と」

「たとえば、ベトナムのリジェネラティブ・オーガニック農業の推進のためには何をすればいいか、といったことも計画していきたい」

「たとえば、ベトナムのリジェネラティブ・オーガニック農業の推進のためには何をすればいいか、といったことも計画していきたい」

現在の社員数、約3000人。「3000人の社員が家族や友達にOnenessを語ったら、それだけで1万人くらいに伝わる」と益子さん。Onenessの浸透も、コンパッションの醸成も、まずは身近なつながりから。どんなに会社が大きくなっても、その思いは変わらない。
「従業員の年間MVPを選出するのですが、選ばれたパートナー(社員)が全社総会でインタビューに答えているのを聞いていたら、Onenessについて自分の言葉で語っている。私たちの思いが少しずつインパクトを与えているのかなと感動した」と高杉さんがうれしそうに話す。

2031年に20周年を迎えるPizza 4P’sでは、創業時から構想してきた資源循環型のエデュテインメント(エデュケーション×エンターテインメント)アイランドを作る準備が始まっている。今まで培ってきた世界観を余すことなく表現し、地球や人々とのつながりをより深く感じてもらい、心の安らぎや未来への希望を提供できるようなホテルやリトリート施設などもプランニング中だ。

自宅のピッツァパーティで頭をもたげた小さな芽が、ゆっくりと確実に枝葉を広げていく。私たちは今、ピッツァで世界を動かすプロセスを目の当たりにしている。




◎Pizza 4P’s Tokyo
東京都港区虎ノ門5-10-7麻布台ヒルズガーデンプラザD1F
11:00〜14:00LO、17:00〜21:00LO
定休日なし
https://pizza4ps.com/jp/

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