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FEATURE / MOVEMENT

おいしく、無駄なく使い切る秘訣

おいしいパルマハムの極意

2016.09.06

text by Kei Sasaki / photographs by Sai Santo

連載:おいしいパルマハムの極意

「イタリア人にとってパルマハムは、刺身のようなもの。扱い方や自分の好みを知ることが、本当においしいパルマハムに出会う近道です」とは、イタリア食材店「ピアッティ」の岡田幸司さん。そこで、パルマハムの正しい扱い方、活用術を学ぶ少人数制のセミナーを開催。参加したシェフたちも目から鱗の極意をお届けします。

第1部 「ピアッティ」岡田幸司さんに教わるパルマハムの正しい提供の仕方




「ピアッティ」岡田幸司さん
切りたての最高の状態のパルマハムや、伝統的な手法でカットするパルミジャーノ・レッジャーノなどイタリア食材を中心に選び抜いた商品を輸入・販売。会社員から食材店店主となり、今や日本を代表するパルマハムのスペシャリスト。

◎ピアッティ
東京都目黒区駒場4-2-17
☎ 03-3468-6542
11:00 ~ 20:00
月、火曜休(祝日の場合は営業)

骨抜きパルマハムを無駄なく使い切るための分割法




骨抜きパルマハムには、紐で縛って結着させた「レガート」と、プレスした「プレッサート」がありますが、ここでは一般的なプレッサートで説明します。

まずは原木を大きく以下の3 つに分けます(上記スケッチ参照)。

■[ L'inizio:リニツィオ ]と呼ばれるイニシャル部分

■[ Centro:チェントロ ]と呼ばれる中央部分(後にさらにサシの多い部分と赤身の部分に2 分割します)

■[ Gambetto:ガンベット ]と呼ばれる膝より下の部分




次にCentro を2 分割するにあたり、断面を見て骨があった場所を確認します(上記スケッチ参照)。スケッチでいうと左側のサシのある[ Culatta:クラッタ(外モモ)]は、見た目も立派で甘味もあり、スライスして出したいところ。一方、右側の赤身の部位[ Fiocco:フィオッコ(内モモ)]は、骨を剥がして抜く際に肉が引っ張られ、断面が荒れるのでスライスしてもボロボロと一枚が崩れてしまいます。ですので、骨があった場所を境に2 分割すると使用目的も明快になります。

さらにFiocco 側は、骨を抜く際、側面に切り込みを入れた部分を縫い直しています。場合によっては、切り分けたFioccoをさらに縫い目に沿って分割すると、骨を抜く際に空気に触れた面を露わにすることができ、酸化した面をそぎ落として真空パックすれば良好な味のブロックになりえます。




「原材料は豚肉と塩だけ。ナチュラルな塩蔵品ならではの旨味が魅力のパルマハムは、同時に酸化、劣化しやすい食品でもあることを、頭に入れてください」と、岡田さん。パルマハムを正しく扱うためにまず知ってほしいことがあると、おもむろに真空パックから取り出したパルマハムの原木の表面を両手で触り、「この匂い、覚えておいて」と受講者の顔の前に差し出した。「この表面のヌルヌルした脂は、パルマハムの製造過程で塗るスーニャ(豚の脂と米粉、塩とコショウで作るパテ)と、骨を抜いて結着した部分から染み出た水分が混じったものです。この匂いが生ハムについたらアウト」と、表面のヌルヌルをペーパーでしっかり拭き取ってみせる。 切り始めは端を潔く落とし、保存してあるものを切る際も、酸化した切断面は都度切り落とすのが鉄則だ。「空気に触れたところから酸化が始まるので、皮も毎回、使う分だけ剥きます。赤く浮き出た血管や黄色い脂肪の塊も匂いの素になるので、丁寧に取り除いてくださいね」。


おいしいパルマハムを提供するための3ヵ条




1. 表面の脂は完全に拭き取る
真空パックから取り出したら、まず表面に浮いたヌルヌルとした脂をきれいに拭き取る。酸化した脂の臭いを取り去ることが何より重要。


2. 黄色く酸化した脂や筋を取り除く
皮はスライスする分だけ剥き、酸化を防ぐ。同時に酸化した肉の表面や変色した脂、血管の残りや硬い筋を丁寧に取り除く。驚くほど風味がアップする。


3. 繊維を断つ方向に薄くスライスする
ブロックに分割したパルマハムも、必ず繊維を断ち切る方向にスライスする。パルマハムのおいしさは、舌の上でとろけて鼻から抜ける香り。薄く切るほど、余韻を楽しめる。


部位の違い、好みを把握してよりよいサービスにつなげる




次に重要なのは、部位による味わいの違いを把握すること。「今日はわかりやすいように、同じ厚さに切った2つの部位を試食してもらいます」と、岡田さん。切り始めに近い「リニツィオ」はドライ気味でややあっさりとした味。「チェントロ」はしっとりして赤身と甘い脂身のバランスが抜群だ。スライサーが小さい場合は、縦に分割してスライスすることになるが、すると外モモのブロック(クラッタ)の方が、脂身豊かに。「これは優劣ではなく差異。違いをわかって扱うことが重要です。しっとりした部位ならより口溶けがよくなるよう薄く切るのがいいし、ドライな部位は、バターなどの油脂と相性がいい。食べ慣れてくると、やや塩気がしっかりしたものを好む方もいます。盛り合わせにするなら、バランスよく組み合わせて、ひとこと説明した上で出せるといいですよね」。 正しく扱うことでおいしく提供できれば、注文が増えることにつながると、岡田さんはいう。「すると状態のいいうちに使い切れるので、さらなるおいしさを追求できるんです」。

第2部 「パッソ ア パッソ」有馬邦明シェフに教わるトリミングしたパルマハムの活用術




「パッソ・ア・パッソ」有馬邦明シェフ
自ら田畑に出向き、米や野菜作りを手伝うことで素材と向き合うイタリア料理人。店でパルマハムを提供する際は骨付きの原木で仕入れ、自ら骨抜きして最後まで使い尽くす。

◎パッソ ア パッソ
東京都江東区深川2-6-1
☎ 03-5245-8645
18:00 ~ 21:30LO
水曜休(臨時休業あり)

おいしいパルマハムを提供するには、大胆なトリミングが必要。とはいえ、大胆なトリミングをすれば歩留まりが気になるところ。でも、心配はご無用です。「思い切ったトリミングでおいしいスライスを提供したら、残りは料理に活用すればいい」と有馬シェフ。そこで、ここから講師は「パッソ ア パッソ」有馬邦明シェフに変わり「パルマハムの無駄のない活用術」として、パルマハムの旨味と塩気を活用したワインがすすむつまみを教えていただくことに。「まずは食べてみて」と受講者の前に7品の料理が登場した。


皮と脂をオイルにして活用
① グリッシーニ
オリーブ油の代わりに、溶かしたパルマハムの脂を生地に練り込んだ。旨味のある塩味で、いつものグリッシーニがひと味違う趣に。

② じゃがいものコンフィ
温めて溶かしたパルマハムの脂でコンフィにしたジャガイモは、ねっとりした食感。サルシッチャとともに香ばしく焼き上げてある。

③ カントゥッチ
「パルマハムを菓子の材料に使っていけない決まりはない」と、有馬シェフ。コクと塩気のあるカントゥッチは、突き出しによし。


挽き肉にして活用
④ サルシッチャ
切り落としたパルマハムの赤身をミンチにして加工品に加える、活用術の基本形。香り、味に深みが出て、ワインの選択肢も広がる。

⑤ ロトロ(鶏ハム)
鶏ムネ肉に、鶏モモ肉とパルマハムの脂を合わせて挽いた詰め物を巻いた鶏ハム。パルマハムの皮で包んで蒸すことで、香り豊かに。

⑥ リエット
パルマハムの先端を皮付きのまま野菜と一緒に柔らかくなるまで炊き、滑らかなリエットに。脂の甘味たっぷりの、リッチな仕上がり。


だしをとって活用
パルマハムの皮をニンニク、ドライトマト、日本酒とともに炊き、脂を分離させた液体を濃縮したコンソメスープ。濃厚かつクリアな味わい。

「スライス用」と「料理用」用途を分けて計画的に使う




すべてパルマハムを切り出す際に取り除いた端肉や皮、筋が多いスネ部分を使って、有馬シェフが用意したものだ。「赤身の部分を刻んで挽肉に混ぜれば、味わいはぐっと深まるし、脂も旨味とコクを加えるのに使える。皮からはだしが出る。旨味のついた塩味の調味料と考えると料理の幅が広がります」


そこで受講者から質問が。皮から取るだしに、スーニャの香りが移らないか心配だというのだ。有馬シェフの答えは「酒を使えばいい」とのこと。「イタリア料理だからワインでもいいけれど、僕は日本酒を使う。ニンニクやローズマリーより臭み消しの力があり、風味の後支えにもなりますから」。 

その言葉通り、パルマハムのコンソメスープは深く濃い色味で、澄んだ味わい。後味にほのかに立つパルマハムの香りが、深い余韻を残す。「毎回、切り始めに落とす切断面は、料理に使える量を貯める間に劣化してしまう」という質問には、「赤ワインに漬けておけば劣化は防げる。ある程度貯まったところで、ミンチにして肉加工品に加えたり、パスタの詰め物にしたり。現地でもよくやる方法です」。


1本のパルマハムを「スライスして食べる部分」と「料理に使う部分」に分け、どう使い切るかプランニングすることが重要だという有馬シェフの言葉に、一同深く納得の様子。一品料理として十分成立する7品が、何よりそれを雄弁に証明してくれた。



セミナー受講者の店でパルマハムフェアを開催します。




① 東京・東高円寺 「イタリアまかない屋 高田食堂」 高田淳シェフ
スーニャの匂いをとること、酸化部分のトリミングはどの程度すべきか等提供までに意識すべきことが明確になりました。前菜からメインまで1 本のパルマハムを無駄なく使い尽くせるように料理を考えていきます。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~9月17日(土)
【フェア内容】
・イタリア産生ハム食べ比べ「パルマハムとサンダニエーレ」  980円
・「パルマハムとイチジク、チコリのクリームリゾット」 1450円  (何れも数量に限りございます。仕入れ状況でご用意出来ない場合もございます。)

東京都杉並区高円寺南1-6-15
☎ 03-6768-2427
平日11:30~14:00 LO 18:00~22:00LO
土、日曜12:30~14:00 LO 17:00~21:00LO
月曜、火曜昼、第1・第3日曜休
10席
東京メトロ東高円寺駅より徒歩2分


② 東京・門前仲町 「トラットリア ブカ・マッシモ」 大沼清敬シェフ
スタッフ全員がパルマハムへの関心と知識を高める機会となりました。引き続きシンプルな形で提供しつつ、伝統的な調理法でイタリアらしさも表現していきます。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~10月5日(水)

【フェア内容】
・パルマハム 16ヶ月熟成と季節のフルーツ  1800円
・パルマハム 16ヶ月熟成 ブラッティーナと共に  1800円

東京都江東区富岡1-24-11
☎ 03-5809-9022
平日17:00~22:30LO
土、日曜、祝日11:30~14:00LO 17:00~22:00LO
月曜休
24席
東京メトロ門前仲町駅より徒歩3分

③ 東京・新宿「マルゴV」高橋一幸シェフ
パルマハムについてだけでなく、有馬シェフのシェフとしてのあり方に触れ、気が引き締まりました。生パスタに混ぜ込んだり、冷製スープにも活用していきます。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~10月5日(水)

【フェア内容】
・バターナッツのニョッキ  パルマハムのサルティンボッカ仕立て  1600円

東京都新宿区新宿3-20-8-1F、2F
☎ 03-6457-4505
12:00~翌1:30LO
年中無休
168席
各線新宿駅より徒歩3分


④ 東京・清澄白河「ワイナリー& レストラン 清澄白河 フジマル醸造所」木邨有希ディレクター
部位ごとの特性を知り、“一本を使い切る”知識を得られました。程よい塩味と柔らかさを活かした楽しみ方を伝えつつ、ワインがすすむ一皿を提案します。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~9月13日(火)

【フェア内容】
・パルマハムのプレート 800円
・パルマハムのリゾット 1800円

東京都江東区三好2丁目5-3 2F
☎ 03-3641-7115
11:30~14:00LO(土、日曜、祝日のみ)
17:00~21:30LO
テイスティングルーム13:00~21:30LO
月曜休(月曜が祝日の場合は営業、翌日火曜休)
19席
東京メトロ清澄白河駅徒歩7分


⑤ 東京・日本橋「室町ワイン倶楽部」周防祐介シェフ
部位による味わいと水分量の違い、骨を外した際のパルマハムの成型方法など勉強になりました。ペーストにし、前菜の一品にしたり、煮込みに加えるなどしてフル活用しています。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~10月5日(水)

【フェア内容】
・切りたてパルマハムとサラミの盛り合わせ 980円

東京都中央区日本橋本町3-2-14 山一大野ビル1F
☎ 03-3275-0160
17:00 ~ 23:00LO(土曜~ 22:30LO)
日曜、祝日休
36席
東京メトロ三越前駅より徒歩3分


⑥ 新潟「イタリアンレストラン  関川テラス」髙木和弥シェフ
下処理の重要性を確認できました。また、スライスだけでなく、リエットやコンソメ等二次加工についても学べたので、パルマハムをあますことなくさまざまな使い方をしていきたいです。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~10月5日(水)

【フェア内容】
・パルマハム  1100円
・パルマハム及びイタリア産生ハムとサラミの盛り合わせ  1300円

新潟県上越市下門前837-3
☎ 025-546-7880
11:00~23:00LO
火曜休
96席
直江津バイパスよりすぐ


⑦ 群馬「ピッツェリア バーチ」麻生一毅シェフ
パルマハムのトリミング方法や提供法を改めて学ぶ機会となりました。基本を踏まえつつ、オリジナルレシピのリエットやソーセージ、スープなども提供します。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~9月30日(金)

【フェア内容】
パルマハム  通常価格500円のところ 350円に!

群馬県高崎市連雀町21-1-1F
☎ 027-395-4846
11:30~14:00LO 18:00~22:00LO
(金、土曜~23:00LO、日曜~21:00LO)
月曜、第3火曜休
20席
JR高崎駅西口より徒歩8分


⑧ 神奈川「ゴンザ」安食行洋シェフ
様々なフレッシュフルーツと合わせたり、ドライフルーツと一緒に煮込むなどフルーツとの多様な組み合わせを味わっていただきたいです。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~9月30日(金)

【フェア内容】
・パルマハムとフルーツの前菜1200円 ※フルーツは数種類、内容は仕入れ状況で異なります。

神奈川県横浜市中区宮川町2-49-1F
☎ 045-334-7765
18:00~翌1:00LO(日曜~24:00LO)
月曜、第2・第4日曜休
13席
各線桜木町駅より徒歩7分


⑨ 静岡「オステリア・ティアロカⅡ」荒木雅貴シェフ
有馬シェフのコンソメやインボルティーニに挑戦してみたいです。パンに練り込んだり、オイル漬けにも。フルーツとの相性も考えていきます。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~9月30日(金)

【フェア内容】

パルマの前菜盛合せにパルマハムとランブルスコを添えて 1500円
(内容 ランブルスコ グラスワイン1杯、ニョッコフリット(トルタフリッタ)、南瓜のローストとパルミジャーノのサラダ バルサミコかけ、無花果、グリッシーニ、鶏腿肉のローザディパルマ風インボルティーニ、切りたてのパルマハム24ヶ月熟成)

静岡県静岡市葵区鷹匠2-13-11
☎ 054-266-5495
11:30~13:30LO 17:30~21:00LO(土曜、祝前日~22:00LO)
水曜、金曜昼休
20席
静岡鉄道日吉町駅より徒歩2分


⑩ 石川「ビストロ ウールー」久田康博シェフ
一つのものを追求する楽しさや重要性を改めて感じ、他のシェフ達と交流をもてたことも良かった。パルマハムの各部位のおいしさを生かした料理を作ります。

【フェア期間】
2016年9月6日(火)~10月30日(日)

【フェア内容】
・パルマハムを知ろう~お好きな3部位食べ比べ~  1500円

石川県野々市市押野2-178
☎ 076-294-0093
11:30~14:00LO 18:00~21:30LO
月曜、月一回不定
40席
北陸鉄道石川線押野駅より徒歩15分





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