遠くのパンも身近に!
SNSで届けるパン
2020.05.27
photographs by Daisuke Nakajima, Tsunenori Yamashita
SNSや通販のプラットフォームも充実し、気軽に「お取り寄せ」できるパン屋さんが増えました。
全国のパン屋さんとの距離がぐっと縮まり、遠くの店からもおいしいパンが届く。
「お取り寄せ」販売に取り組むお店を紹介します。
インターネットで縮まる作り手と食べ手の距離
SNSが身近に浸透して久しい。友人と繋がるだけではなく、気になるお店の情報をSNSでチェックしている人も多いだろう。パンやお菓子の感想を投稿すれば、簡単に店の人にも届く。作り手と食べ手の距離がぐっと近くなって、今まで以上に“お気に入りの店”への愛着が湧いたりもする。
通販を使うのも、特別なことではなくなった。遠くて実際に買いに行けない店の商品も取り寄せられるし、お店側も、SNSや専用のプラットフォームでより手軽に、柔軟な形で通販に挑戦できるようになったのだ。人の多い都心ではなく、郊外や地方でも開業しやすくなったと言える。
昨年、神奈川県相模原市にオープンした「キルシュバウム」は、ライ麦や全粒粉を練り込んだ、100%ハード系パンの店だ。店主の平片美奈さんが一人でパンを仕込み、店に立つ。週に3日の店頭販売のほか、パン専門の通販プラットフォーム「rebake」でもパンを売っている。
「自分でサイトを立ち上げるのは大変だけど、プラットフォームを使えば簡単でした。相模原で店を開くのは不安な面もありましたが、店に来られない人にも買ってもらえる場があるのはありがたいですね」
SNSや通販サイトを利用すれば、食べ手との距離が縮まる。大きなポイントは3つ。
① SNS で店の状況がリアルタイムに伝わる
② SNS がお店とお客との交流の場にもなる
③ 通販のプラットフォームを利用すれば、手軽に通信販売ができる
◎ オープン予定や予約案内をこまめに更新
◎ プラットフォームを使って、自店ページの管理を簡単に
◎ 配送は冷凍で
◎ おまかせセット 2000円
パンを捨てずに売り切るために
配送することで、フードロス対策に取り組む店もある。東京・参宮橋の「タルイベーカリー」では、普段は通販はしていない。店頭販売のパンの売れ行きは天候や暦によって左右されやすいため、残ってしまうことも。
当初は翌日に割引して売ったり、お世話になっている生産者へのお裾分けもしたが、最近はパンが大幅に残りそうになると、インスタグラムにこう投稿するようになった。「本日、パンセットの配送を承ります」。
13時頃に声掛けし、希望者は電話で申し込む。「必ず電話でお話ししてから買っていただくようにしています。好みを聞いたり、家族構成によって内容を調整したり。店頭販売と同じように、コミュニケーションが大事だと思うので」と店主の樽井勇人さん。時間帯によっては、募集枠はすぐ埋まる。夕方の集荷までにパンを梱包して送るのは、時間との勝負だ。
「地方にはまだハードなパンを売るお店が少ないようで、そういう地域の方から好評です。ハードなパンだからこそ、配送してもおいしく食べられますしね」
どこにいてもパンを届けられるし、手に入れられる。自宅で楽しめるパンは、どんな時代でも私たちに寄り添ってくれるだろう。
続々登場!
パン専門の宅配サービス
パンに特化した通販プラットフォームやサブスクリプションサービスがじわりじわりと増えています。
◎ rebake
https://rebake.me/
サービス開始からおよそ1年で、全国200以上のパン店が登録しているパン専門の取り寄せ&通販サイト。パンの詰め合わせを販売できるほか、廃棄になってしまうパンをお得なセットとして販売できる「ロスパン」システムで食品ロス問題に取り組む。
「ハード系」「おすすめセット」「国産小麦」「ベーグル」などのタグ付け機能で検索しやすく、購入後は利用者から販売者へ直接感想メールを送ることもできる。
―「ロスパン」とは?
食べられるのに店頭で売れ残り、廃棄となってしまうパンを「ロスパン」として販売。予約制で、店頭でロスが出た時にだけ発送されるため、利用者は発送日の指定ができない。店によって最大で3割程度お得なセット内容で販売し、売り上げの一部が食品ロスの削減や自然保護活動に取り組む団体に寄付される。
◎ パンスク
https://pansuku.com/
毎月異なるパン店からパンが届く、月々3700円(送料込み)のサブスクリプションサービス。パンは独自技術で冷凍して発送する。オフィス向けの福利厚生サービスとしてスタートし、今年2月、個人向けのサービスも開始。
◎ パンタク
https://pantaku.com/
朝食前に近隣のパン店から自宅にパンが届く、地域密着型の宅配サービス。注文はアプリとSNSで完了し、早朝に玄関前に非対面で届ける。現在は世田谷区内と、渋谷区・目黒区の一部で試験運用中。
Instagram から取り寄せできる!
地方で活躍するパン店
◎ ベーキングガレージハリマヤ(和歌山・塩屋)
@harimaya110
左から:中川さんのキタノカオリ全粒粉 100% 1000円/有機ピーナッツペーストベーグル 260 円/塩バターベーグル有機粒あんサンド 350 円
旅田勇人さんが作るのびやかな食事パンと、妻の祥子さんが焼くベーグルが人気の両輪。「中川さんのキタノカオリ全粒粉100%」には北海道「中川農場」の有機栽培キタノカオリを自家製粉し、強く焼きこんだ外皮に負けない小麦の香り高さを楽しめる。
自家製の上品な粒あんを挟んだベーグルはさっくり歯切れよく、バターが滲み出る。インスタグラムで月3回呼びかけるベーグルの通販は、1分間に200人以上が殺到する争奪戦だ。
◎ 8 7 6ベーカリー(神奈川・座間)
@876bakery
上から時計まわりに:あんことクルミのスコーン290 円/ライ30 450 円/メロンパンチョコチップベーグル 330 円
国産小麦と自家製酵母で作るパンとベーグル、スコーンやマフィンを販売する。通信販売から始め、インスタグラムで人気を得て、2018年店舗オープン。現在、店頭販売は月に5回、通販はインスタグラムで告知する。
店主の山本真実さんは独学でパン作りを学び、カンパーニュのような食べ心地の「ライ30」など、優しいテイストのパンが得意。もっちりしたベーグルにクッキー生地をかけた「メロンパンベーグル」は、子どもにも人気の新作だ。
◎ リナシメントカフェ (群馬・北藤岡)
@rinascimento_cafe
左から:パン・ド・カンパーニュ 2180 円/いちじくとくるみのロデヴ 1020 円/パン・ド・ミ 780 円
「パーラー江古田」などで修業した松本正廣さんが、故郷群馬で2016年に開業したベーカリー&カフェ。「パン・ド・カンパーニュ」は穏やかな酸味と小麦の旨味や甘味が調和した端正な味わい。
高加水ながら歯切れよく、ほわっと軽い「パン・ド・ミ」、ドライイチジクを生地と溶け合うまで練り込んだロデヴも印象的だ。カフェでは自家製の惣菜を挟んだサンドイッチなども好評。通販は自社サイトで不定期募集する。
◎ おおば製パン (北海道・森町)
@ooba.sei.pan
上から時計まわりに:ライ麦 100 800 円/エポートル 650 円/パン・ド・カンパーニュ 1200 円
店主の大場隆裕さんは、菓子職人から、広島県店の「ブーランジュリー ドリアン」でパン作りの道へ。粉は北海道産に絞り、名物の「パン・ド・カンパーニュ」には、道産ライ麦全粒粉やアグリシステムの石臼挽き全粒粉「臼夢」などを使い、室温で自然に発酵させて石窯で焼き上げ、もっちりした仕上がりに。
北海道音更町の庄司農園のライ麦で作る「ライ麦100」は、じわりと広がる甘味とプチプチとした粒感が心地よい。