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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】“枯らす” ほどに旨くなる「干物」

茨城・神栖「越田水産」

2024.07.22

text by Kita Kyoko / photographs by Hide Urabe

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は漬け汁を使い続けて干物づくりをする「越田水産」へ。漬け汁は魚醤のような旨味を湛え、仕上がりはふっくら。絶妙な塩気と旨味が後を引きます。

サイズや気温に合わせて30分~1時間漬ける。
見惚れるほど素早く正確な包丁さばき。骨には身がほぼ残らない。この技術を絶やしてはいけないと跡を継いだ。
家族3人で1日約2千尾を仕込む。
漬け汁の底には塩と共に旨味の塊である髄が沈殿。新種の菌も発見された。
天日または室内で表面を乾かす程度に干す。

“枯らす” ほどに旨くなる干物

利根川を挟んで銚子の向かいに位置する、茨城県神栖(かみす)市。かつてこの辺りで干物を作る工場には、漬け汁を使い続ける文化があった。始まりはただの塩水。そこにおろした魚を漬けては塩を足し、骨髄から出るエキスと共に、魚醤のような旨味を湛える漬け汁に育てていく。それを地元では「枯らす」と言って、枯らすほどにおいしい干物ができるとされてきた。

しかし時代は移り、安さと効率性を求めて皆、その漬け汁を手放していった。残ったのは「越田水産」ただ一軒。「加熱処理も薬品による消毒もせず、純粋に塩のみ継ぎ足して使い続ける漬け汁は、今や日本でうちだけのようです」と3代目の越田英之さん。研究機関の分析によればその漬け汁には、低温で活動する耐塩性の酵母や菌が48種類も生息し、酵素が青魚特有の脂臭さを分解しているという。

使うのは脂ののったノルウェー産のサバ。まず頭を落とし、尾から骨に沿って一息に刃を滑らせ三枚におろす。身をきれいにしたら木枠に並べ、底に溜まった塩を撹拌して漬け汁に沈める。干すのは表面を軽く乾かす程度に留めることで、微生物の活動が持続するという。

「食べ物には心が宿る。良い菌が増えるように」と、関わる全ての人への感謝を忘れない。全国からの注文にも奢らず欲張らず、今日も粛々とサバをさばき続ける。

「越田の鯖」2,592円(税込)/100g~110g・8枚入り。ふっくらして臭みがなく、絶妙な塩気と旨味が後を引く。イワシの丸干しや金目鯛の開きもある。


◎越田水産
茨城県神栖市波崎8233-9
☎0479-44-0473
http://kosidasyouten.com/

(雑誌『料理通信』2021年1月号掲載)

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