【ようこそ発酵蔵へ】桶屋に弟子入りして木桶仕込みを守る「醤油」
香川・小豆島「ヤマロク醤油」
2024.08.22
text by Yoko Koike / photographs by Oya Sohei
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。木桶仕込み醤油の最大の産地である香川・小豆島へ、木桶仕込み一筋の「ヤマロク醤油」を訪ねました。
木桶は微生物の住処だから
瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。島内には20軒の醤油蔵があり、国内生産量がわずか1%にまで減ってしまった、木桶仕込み醤油の最大の産地でもある。
「今、醸造に使っている木桶は全国で2500本。一番多いのが小豆島で1100本です」と教えてくれたのは、木桶仕込み一筋、ヤマロク醤油の五代目、山本康夫さん。和食の基本調味料、醤油、味噌、酢、酒、味醂。昔はどれも木桶で仕込んでいたが、今ではその大半が工場の大型タンクで仕込む時代。だが、山本さんは孫やひ孫の代まで見据えて、木桶仕込みにこだわる。
醤油の基本的な作り方は、蒸した大豆と小麦に塩水と麹を混ぜ、もろみ蔵で熟成させ、搾り、火入れ殺菌して製品化する。熟成期間にもろみとどう向き合うかで味が決まる。醸造担当は山本さんただ一人。
「菌は生き物。こちらが真剣に向き合えば菌の意識が変わるんです」。プチプチと発酵しているときに人が近づくと音が大きくなり、人に見られやすい場所の桶は発酵が活発で、柱の陰にある桶は少し遅いという。それぞれの桶ぐせと熟成具合を見ながら2年~2年半のサイクルでもろみを搾る。全体の8割が主力商品の再仕込み醤油「鶴醤(つるびしお)」になる。再仕込みとは一度仕込んだ生醤油(きじょうゆ)を大豆とともに桶に戻してさらに2年~2年半。微生物が静かにじっくり仕事をしたまろやかなおいしさは、格別だ。
◎ヤマロク醤油
香川県小豆郡小豆島町安田甲1607
☎0879-82-0666
https://yama-roku.net/
(雑誌『料理通信』2020年4月号掲載)
関連リンク