日本 [静岡]
連作、無肥料、無農薬で力強く育てる
未来に届けたい日本の食材 #11自然農法の野菜
2021.12.06
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
熱海駅から車で40分ほど。伊豆半島の北東部、標高310~440mの多賀山中腹にある大仁農場を訪ねます。自然農法の中央研究農場として始まり、今も国の機関や大学とともに、様々な研究が続けられています。その基本は適地適作。それぞれの環境、土に合う作物を育てる阿部卓さんに畑を案内していただきました。
ここでは、思想家でもあった岡田茂吉が、戦前から提唱していた自然農法を実践しています。岡田は、東京・上野毛の自宅の300坪の畑で、施肥をやめて野菜を作ったところ、味がよく、虫がつきにくかったところから、もしかしたら、肥料が土の力を弱めているのではと気づきます。そして、どうしたら、土が作物を育む力を最大限に発揮させられるのか、研究を続けたのです。
土に農業の本質があると考えた岡田は、食物の持つ生命エネルギーこそ真の栄養であり、病気の回復と健康の増進に欠かせないものであると確信していきました。戦後、食糧増産のために化学肥料や農薬が積極的に使われる中、岡田は変わらず自然農法を実践したのです。その考えを受け継いだ後継者が、昭和57(1982)年に山を開墾し、開いたのがこの農場です。
今でこそ、無肥料、無農薬栽培になりましたが、そこに至るまでは試行錯誤の連続でした。最初は土の力が弱く、バーク(木の皮)堆肥や、牛糞などの動物性堆肥も投入していましたが、開設から約10年でそれら外部から持ち込んだ堆肥をやめ、敷地から出る落葉や雑草などを堆肥として与える農場内循環に切り替えています。そして、10年前からは土の力だけで育てています。ここは山を開墾した造成地ですから、ほんの少しの差で、土の硬さや水はけなど環境が異なるため、それぞれの土に合った作物を栽培するようにしています。こうすることで、収穫量が飛躍的に伸びました。
連作障害という言葉がありますが、ここではむしろ、連作するようにしています。前作の根っこを残しておいて、そこに種を蒔く。前作の根は土中で分解されて空洞になる。その微かな根穴が空気や水の通り道になり、新しい野菜の根に新鮮な空気を供給する役割を果たしてくれる。つまり、前作の根が土を耕してくれ、そこに新しい根をのびのび伸ばすことができるというわけです。根が伸びる土壌の構造がちゃんとできていると、異常気象にも負けず作物が育ってくれます。
あいにく今は時期が悪く、元気に育つ野菜たちをお見せできないのが残念ですが、採種用の畑を見てください。いかにも元気でしょう。85%以上が自家採種。人間が作ったり、採種したりするのですが、できるだけ自然に倣っていれば問題は起きないと思っています。
現在、可動している畑は約5ヘクタール。まだまだ発展途上。人々の健康のための土作り、野菜作りを目指し、研鑚を積む日々です。
◎MOA自然農法文化事業団(大仁農場)
静岡県伊豆の国市浮橋1602-2
☎0558-79-1113
https://moaagri.or.jp/
(雑誌『料理通信』2019年7月号掲載)