日本の食 知る・楽しむ
天ざるそば「砂場総本家」 since the mid-1700s
連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應
2016.05.01
店の一番人気、天ざるは1550円。しなやかでのど越しのよいそばは、透明感のある味わい。野菜とエビのてんぷらはゴマ油100%でもしつこくならず、やさしいゴマの香りが心地よく鼻にぬける。
text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura
連載:世界に伝えたい日本の老舗
江戸から続くそば屋といえば、砂場、藪、更科が代表的老舗です。とくに砂場は最古参で、発祥は大阪。店が大阪城築城の工事用の砂利置き場のそばにあったために、「砂場」と呼ばれるようになったとか。現在は、大阪にその名は残っていないという「砂場」の、正統な流れを汲む1軒が南千住にあります。14代目になるご当主・長岡孝嗣さんにお話を伺いました。
材料が一番の輝きを放つために
大阪から出て来た「砂場」は江戸でも人気だったようで、数軒あったという記録が残っています。当店はそのころ糀町7丁目(現在の千代田区麹町)にあり、大正元年、南千住に移転しました。祖父・長岡紋次郎の代のことです。当時、このあたりは鬱蒼とした森と湿地帯だったようです。でも、近くには遊郭もあり、吉原に続く土手ともつながっているというロケーションでしたので、お客様はいらしたんですね。
祖父の跡を継いだ父が早くに亡くなり、大番頭さんと母が店を続けていたので、私は大学を卒業してからすぐ店に入りました。その頃から現在に至るまで、ともかく徹底的に材料にこだわり、材料の声に耳を傾けるということを大切にしてきました。いいものを入手して、真心込めて向かい合うと、材料がいろんなことを語りかけてくれるんです、今日のそばの生地の硬さはこのくらいがいい、天ぷらの揚がり具合はこのくらいがちょうどいい、という風に。私は材料が一番輝きを放つために、手を貸しているだけです。
そばは気候による変動が大きいので、安定した香りや味わいを保つため、細やかにブレンドの割合を変えています。そば粉の声は、手からちゃんと伝わってくるんですね。現在は、北海道で栽培されている信州奈川在来と北海道在来の一本挽き(全粒粉)をブレンド。つなぎは卵、水は備長炭を漬けおいたものを用います。水回ししてこねるまでは手。そのあとは、機械のし、機械切りと進みます。それから、返しはざらめと醤油、みりんで作るのですが、父が特注した大きな甕に入れ、寒風が通るところに置いてあります。
カツオ節は本枯れ節を蒸して、おだしをとる直前に削っています。そんな風に材料にこだわり、作り方にこだわっているものですから、採算度外視し過ぎると経理を担当する家内によく言われますが、お客さまに喜んでいただくためには、こればかりはどうしても譲れません。
全国の砂場で構成する「砂場会」が誕生したのは、昭和30(1955)年のこと(前身となる砂場長栄会の結成は1933年)。初代会長を祖父が務めました。高度経済成長期を経て、80年代には180軒を超えましたが、現在も、メンバーは130軒以上ございます。会では交流しつつ、味の向上に真摯に取り組んでいます。私自身も生涯が勉強。さらに研鑽を積んで行きたいと思っています。
◎砂場総本家
東京都荒川区南千住1-27-6
☎03-3891-5408
10:30~20:00 木曜休(月1回連休あり)
東京メトロ三ノ輪駅より徒歩5分