ネイティブ・アメリカンの食文化革命。先住民シェフによる“予約が取れない店”に続く新事業
America [Minneapolis]
2023.12.25
text by Kuniko Yasutake
(写真)食のプロを称賛する数々の賞に加え、2023年米国『TIME』誌が選ぶ世界で最も影響力のある100人のリストに名を連ねたショーン・シャーマン氏。自らが手掛けるすべてのビジネスの母体となる非営利団体NĀTIFS(North American Traditional Indigenous Food Systems)でもリーダーシップを発揮している。photograph by Sean Chee
“アメリカ料理”と聞いて、すぐにネイティブ・アメリカンの料理をイメージする人は日米問わず少ないのではないだろうか。
今、ミネアポリスで予約が取れない人気店「オワムニ(Owamni)」は、スー族ラコタ部族居留地出身のショーン・シャーマン氏が、先住民族によるレストランが全米全体のたった1%であることに危機感を覚えて開いた店だ。入植者がもたらした小麦粉、キビ砂糖、乳製品や豚、牛、鶏肉などを使用せず、身土不二(人の体と住む土地はひとつである)の精神に基づいて調理した料理を提供する。
先住民族が暮らす居留地では、米国政府から配給される低所得者向け食料品(瓶詰、缶詰、加工食品)に頼った食生活のせいで、肥満や生活習慣病、それに伴う就業難や高い自殺率が問題となっている。これは民族本来の食文化の欠損が原因とシャーマン氏は訴え、2017年、不健康な食習慣を覆し、先祖が入手できたであろう食材を、現代の感性と道具で調理できるレシピ本を出版した*。
2020年には、ダウンタウン・ミネアポリスのミシシッピ川を見下ろす場所に、”渦巻く水”という意味の「オワムニ(Owamni)」をオープン。狩猟採集・農耕部族の伝統的食生活に着想を得たジビエや菜食料理、デザート、ドリンクを先住民シェフとスタッフが提供し、ジェームズ・ビアード財団から全米ベストレストランに選ばれた。
最新のプロジェクトは、「インディジネス(先住民)・フードラボ・マーケット」の新展開だ。ネイティブ・アメリカンを祖先とする若い世代への食育プログラムの提供、さらに調理師の育成を目指すキッチン兼レストランとして出発し、2023年秋には、北米や中米の先住民が生産・製造した食品の販売を開始。ミネソタ州での事業例をシステム化し、全米各地の先住民族が各々の土地柄を活かして、同様に事業展開していくことを狙いとしている。
北アメリカを“発見”したコロンブスを讃える祝日を、むしろネイティブ・アメリカンの歴史文化を再認識する「先住民族の日」と呼び直す地方自治体や州が増え、近年合衆国大統領もそれをサポートする意向を宣言している。自らの部族の誇りと自信を促すアメリカ食文化革命は、非先住民の共感をも呼んでいる。
*『The Sioux Chef’s Indigenous Kitchen』(University Of Minnesota Press刊):ジェームズ・ビアード賞(2018年)など、複数の賞を受賞
◎Owamni
420 S. 1st St., Minneapolis, MN 55401
11:00~21:00 月曜休
https://owamni.com/
*1ドル=146円(2023年12月時点)
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