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JOURNAL / 世界の食トレンド

America [New York]日本酒酵母で吟醸香を醸す、新スタイルのシードル誕生

2023.05.15

日本酒酵母で吟醸香を醸す、新スタイルのシードル誕生

text by Akiko Katayama / photographs by Akiko Katayama(photo1), Brooklyn Kura(photo2), Wölffer Estate(photo3)

ますます高まる日本酒ブームを反映し、近年、米国内のクラフト系酒蔵が話題だ。その一つが2016年に開いた「ブルックリン・クラ(Brooklyn Kura)」。オーナーのブランドン・ドーン氏とブライアン・ポレン氏は、伝統の価値を重んじながら日本酒のファン層を着実に広げてきた。同時に、日本酒の醸造法をヒントにした様々な商品を生み出す刺激的な存在でもある。


(写真)「ブルックリン・クラ」のブランドン・ドーン氏(左)とブライアン・ポレン氏。

(写真)「ブルックリン・クラ」のブランドン・ドーン氏(左)とブライアン・ポレン氏。

2022年11月にリリースしたのは、日本酒酵母で発酵させたシードル「オイシイ・サイダー(Oishii Cider)」。ニューヨーク州北部のロングアイランドは、国内屈指のワイン産地だが、中でも定評のある「ウォルファー・エステート」のワインメーカー、ローマン・ロス氏とのコラボで生まれたものだ。ニューヨーク名産のリンゴを使ったシードルは、ワインと並び、ウォルファー・エステートの定番商品でもある。

2019年に日本を訪問し、「優れた日本酒を堪能し、米を通して微生物が生み出す味わいの深さに感銘を受けた」と話すロス氏。「米の代わりに、リンゴという素材が日本酒酵母の味わいをどのように表現するかを知りたくて、同サイダーの開発に至りました」

(写真)「ウォルファー・エステート」のワインメーカー、ローマン・ロス氏。

(写真)「ウォルファー・エステート」のワインメーカー、ローマン・ロス氏。

オイシイ・サイダーは、リンゴ酒独特の清涼感と日本酒特有のほのかな香りを併せ持つ。その香りとは吟醸香。日本酒酵母が発酵中に生み出す、バナナやリンゴなどのような果実系の芳香のことだ。異文化のルーツの果実味が自然に融合したシードルは、すいすいと飲めてしまうおいしさ。

「酵母は味に多彩な影響を与えます。様々な日本酒酵母を吟味した上で選んだブルックリン・クラの酵母は、適度な酸味と滑らかさを与えてくれる。またアルコール度数を高めすぎないので、バランスのよい、洗練されたスタイルのお酒に仕上がりました」とロス氏。売れ行きも上々で、氏はすでに次の醸造を準備中だ。

現地ならではの発想で、日本酒の新たな可能性を広げた好例といえるオイシイ・サイダー。「日本酒酵母を使ったシードルが、日本酒ファンを広げるような新たなカテゴリーになったら嬉しい」とロス氏は話す。

(写真トップ)ロス氏の作るシードルのアルコール度数は通常4~8%程度。「Oishii Cider」は13%と高めだが15%程度の日本酒より低く、吟醸香の初心者には入りやすい。日本酒ファン拡大の入り口になるか。



◎Wölffer Estate
Oishii Cider 11ドル/375ml
https://www.wolffer.com/

1ドル=約134円(2023年4月時点)

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